「日本にもヒスパニックのカルチャーがある。」

来週TBSラジオではシーズン2の最終回となってしまう「粋な夜電波」ですが、時間帯を変更して4月以降も番組は継続されるとのことで、とりあえずほっとしました。
この番組で紹介された音楽やその他の作品に刺激をもらうのが、今の一番の生きがいでもありますので。
今回の放送でも「日本におけるヒスパニック・カルチャー」という切り口で、日本文化の現在を批評してみせた菊地先生。
金原ひとみさんの作品はまったく読んだことがなかったのですが、俄然興味が沸いてきました。
キラースメルスの小特集の流れで、日本のヒスパニック文化について語っている部分を文字起こししてみました。

TRIP TRAP  トリップ・トラップ

TRIP TRAP トリップ・トラップ

…まあ、日本にはヒスパニックのカルチャーが無かったんです、長らく。…無かったんですけど、もう「日本にはヒスパニックのカルチャーがある」ってことを認めるしかないです。もうこれは受け入れるか、受け入れないかの二者択一を、我々日本人は全員迫られてるんですよね。
もう地方都市は外国人労働者無しでは、もうウォークしませんし、その…実際そこで大変な混血が起こっているわけなんで…、我々は地理的な構造によって少なくとも文化的な純血の幻想ってのを、ず〜っと守って来た、結構希有な国のひとつですよね。
え〜…ですが、なので、そういった歴史的な事情によって、日本における「ラテン」っていうものの理解は、そういう我々の純血の上に…、純血っていう入れ物の上に「ラテン」を載せたっていう形により、なんか…とにかくひたすら陽気で面白い…みたいな理解で定着してきたんですけど、…「ラテン」はもちろん陽気で面白いですよ。陽気で面白いですけど、陽気で面白いだけじゃないですよね。「ラティーノ」っていうものの文化は。
ラティーノ文化は、ワタシが思うに他殺的な文化で、日本の国文学ってのは自殺的な文化じゃないすか。なので、あの…日本はこう…純血でこれたわけです…けど、ね? …ま、純血文化があって、例えばアキバと例えばB-BOYがいて、ドキュンだとか言われて、一種の文化的な対立構造があるかのように見えて、ま…実際に対立化はしてないですよね。だけど、日本はもうヒスパニックのカルチャーが、もうあるんだってことを認めなければいけないんだ、っていうことを我々にメッセージしてくる作品が、まあ、例えば映画だったら「サウダーヂ」だと思うんですよ。
で、キラースメルスの「タラード1」ってのは2009年なのね。そいで、2010年にね、昨日ワタシちょうどその仕事で原稿を書いてたんですけど、話が突然そっちにいくかっと思うかもしれませんが、金原ひとみさんって小説家の方がいて、…金原ひとみさんのね、「憂鬱たち」っていう、これもかなりラテン・ポップな短編集なんですけど、…の解説を書いてまして。金原さんは数少ないラティーノの文学者だと思うんですよ。でも日本でデビューすると、「心に傷を負った美少女」みたいなところに落とし込まれてしまうんですよね。そうすると金原さんはそれだけじゃないぞっていうことが、わさわさわさってなってきて、演算処理されるんですけど、あんまり大した答えが出ないっていうまま、何年も経っちゃってんだけど。金原さんはラテンだと思いますし、それが何より証拠には、2010年に織田作之助賞を獲ってるんですよ。それは「トリップ・トラップ」っていう短編集で獲ってるんですけど、その中に「沼津」っていう短編があるんですよ。…まあ、あれ読めこれ読め、オレの本読めとは言いませんから、「沼津」は短いですし、簡単に手に入りますんで、ワタシのこの番組がお好きで、ご愛顧いただき、WBOの話なんか大好きって方は、悪いこたあいいませんので、金原さんの「トリップ・トラップ」って短編集の「沼津」を読んでください。あれはおそらく、日本戦後…おそらく国文学の歴史全部見てもですね、最高峰のヤンキー小説なんですよ。だけどあれが日本の国文学の読者がどういうふうに読んだか、まったく想像もつかないです。ただ、我々HIP HOPとかを愛してる、生物学的には純血、なれど生まれた時からラテン・カルチャーを選択、っつった人間達が読むと、まあ…ビチビチに飛んでくるわけですよ、金原さんからのメッセージが。すごい小説です。あの…二人でヤンキーの女の子が朝、沼津に遊びに行って帰ってくるまでのことを書いただけの小説なんですけど、あんなの読んだことないですね。…それが2010年。
…でキラースメルスが2009年「タラード」。10年、金原ひとみの「沼津」。11年がSIM-LABのデビューと、映画「サウダーヂ」。キラースメルスの「多ラード1&2」の発売が2012年っていうような形でですね、もう逃げらんないっすよ。この国にはヒスパニックのカルチャーがあるんだと。それは生物学的な純血かどうか関係ないんだっていう。ヒスパニックは純血と、ふたつその国にある…まあ…アメリカでいうところの76〜77年の状況っていうかね。
白人の純血だけだった…、で、アフロアメリカンの人も公民権認めますよ…、そしたらさらにその外の枠にラティーノ達がいて、74〜76年のフェスの映画…例えば「SOUL POWER」って映画が有名ですけれども、ワタシも解説書いてますけど、あれなんか観ると、アフロアメリカンがもう…名誉国民であるのに対して、ラティーノってのはまだまだ気持ち悪い外側にいる被差別の人達で、こいつらがアフロアメリカン…JBなんかをパワーで圧倒してるって様が映し出されているんですよね。それでからの今、ですけどね。ワタシはオバマがあそこら辺をどうやって捌くのかと思ったら、何にも捌かずに演説ばっかりして終わっちゃう可能性があったんで…ノーベル平和賞と演説だけで終わってしまったんで、「もうちょっとなんとかしてくれよ」と思ったのですけれども。まあ、それどころじゃない。我が国でそういうその…ヒスパニックっていうカルチャーがあるんだってことをですね、このアルバム、そして自分のアルバム、そしていろんな好きな物…などの連合によってですね、蜂起して伝えたいという気持ちでいっぱいですね。
(キラースメルスの曲「Drive Me Nasty」をプレイ)
…これ「Gostoso!(ゴストーゾ)」って言ってますけど、「ゴストーゾ」っていうのはポルトガル語で「ごちそうさま」っていう意味なんですね。で、この「ごちそうさま」ってのはどこで使うかっていうと、まあその…プロスティテューションの方ですね、お金で春をひさいでいる方々、との性交の後に、終わった後に「Gostoso」って言う。「ごっそうさん」っていうふうに言うんだという叫びが入ってますが、ま、日本語で歌われた中南米文学ですよ。
その…金原さんの話に戻りますけど、金原さんの「AMEBIC(アミービック)」っていう小説もそうで、アミービクってのはアメーバ状にみんながひとつになってしまうっていう、小説なんですが。キラースメルスのアルバムはね、オリジナルアルバムには、あらゆる場所に小さく、または大きく「Killer Smells is Yourselves」って書いてあって、「オマエらがキラースメルスだ」っていうことが、いろんな形でメッセージされてるんですね。
このラテンの…ラティーノ文化が持ってる、どこまでも最終的に全員が混血するっていう、その意思ですよね。それはやっぱり凄いと思いますし、この歌詞の「あたいはあんたの親父だとまで言った」って売春婦に言われるっていうね。…その、書けないすよ、こんなこと。やっぱ凄いなと思いますね。
(中略)
平安京が純血でね、平安京なんか純血で入っちゃって、世界中の人が素敵、素敵って言ってるじゃないですか。…大変結構ですよ、純血が別に悪いってことじゃないです。純血文化素晴らしい、素晴らしいで来ましたけど、純血文化と混血文化が国内で凌ぎ合うっていう状態を、もう受け入れざるを得ないってことなんですよね。今まではなんだかんだラテンとかありましたけど、おまけであって、公民じゃないですから、あの…日本はずっと純血でやってきて、アキバっていう平安京まで出来たんですよね。平安京に入ったらもうやるこたひとつしかないですよ。「恋」ですよね。恋しかやることないんですよ。で、恋の後何かやることあるとしたら、自殺しかないですよね。恋と自殺のことだけ考えて、自殺せずに生きてるってだけになっちゃうじゃないですか。これを打開するには外にある、…もう外の方が広いわけですから、平安京より…、そこにあるヒスパニックの文化に触れるしかないですよね。ま、それが蜂起したんだという意識でいますよ。
(中略)
…このね、DCPRGの最新アルバムですね、「SRCOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA」…これは第二報告ですよね、セカンドリポートですから。これはアメリカにですね、「日本にもヒスパニックのカルチャーが出来たんだけど…」ってことを報告するんだってことですよね。だからVOCALOIDも入ってるし、SIM-LABも入ってるし、大谷君も入ってるし、アミリ・バラカも入ってるんだっていう、混血のアルバムです、これね。

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