「あらためて初回放送を。」

2回分の収録は済んでいるにもかかわらず、野球の日本シリーズ中継のため、2週連続で放送がなくなってしまい、番組リスナーが苦い思いをすることになってしまった、TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」ですが…。
毎週放送を楽しみにしていて、録音した番組を聞き返しては、その一部をしこしこ文字起こしなぞしております自分としましても、放送休止は残念でなりません。
そこで、代わりにひと仕事…ということで、あらためて初心に返ったつもりで、記念すべき番組第一回放送の冒頭を文字起こししてみました。
まだ前口上もなく、番組のスタイルを手探りされていた状態。震災直後にで始まったの当時の状況を思い返しつつ聞いて、シーズン6に突入し今やすっかり人気番組となった現在と比べてみると、何かと感慨深いものがありますね。

Blue Bird

Blue Bird

〈2011年4月17日 第一回放送〉


どうも。え〜…こんばんは。
東京で最も…間違えた(笑)…東京で3番目に芸者さんが多かった街、赤坂はTBSラジオ第二スタジオからお送りしております。
菊地成孔と申します。
本日から始まりました『菊地成孔の粋な夜電波』という番組の第一回でございます。
え〜…ワタクシ、ラジオのですね、こうしたパーソナリティーの仕事というのも、何本か過去やってますけども。
ま、一回目も二回目もクビになった…というね(笑)、輝かしい経歴を持ってますので、今度はクビにならないまま、職務が全うできればな、と思いながらお届けしております。
職業はジャズミュージシャンでございまして、これもまあ…日本ではすでに絶滅種に近い職業ですけれども(笑)、え〜…頑張っております。
年齢はそろそろ…次の6月で48になりますので、松本人志さん、ミヤネ屋さん、甲本ヒロトさん、等々…いつまでたっても子どもが抜けない感じの…シリーズの中におりますが、頑張ってます、はい。昔は「サンパチ組」なんて言われたもんですけどね。
そういうわけで、私、ジャズミュージシャンでありまして、物書きでもありまして、本なんかも出しちゃったりなんかして。あとは学校の先生なんかもやってるわけですけども。
ま、いつまでたっても、この…「三つの仕事やってるんですよね。」っていう自己紹介が抜けない感じの人(笑)…っていう感じなんですけども。
ま、そのうち番組も2回3回と続き…ですね、だんだん慣れてくると、「まあ、そういうことはどうでもいい。」っていう。「この人は多分、新宿の歌舞伎町に住んでる夜遊びが好きな不真面目なおじさんなんだ。」ということが、だんだんはっきりしてきて、それで定着すると思いますけどね。
なにせ久しぶりで、「オマエのラジオ番組をやらしてやろう。」ってんで、TBSさんからお声をいただきまして、「枠取れたよ。」っていうんで。あ、そりゃありがたい…ありがとうございますっつって、何の枠ですか?っつったら、「ラジオ寄席』の枠が空いた。」って言うんで(笑)。『ラジオ寄席』の枠でやらしていただいております。
え〜…『ラジオ寄席』を楽しみにしていた皆さんも…沢山ね、年配の方なんかもいらっしゃると思いますので、「なんだ!『ラジオ寄席』が終わっちゃって、コイツかよ!」っていうふうにならないようにですね、『ラジオ寄席』に負けないように頑張ろう、と。
気を緩めると、『ラジオ寄席』がまたやってくる(笑)という感じでですね、背水の陣をひいて(笑)頑張りたいと思います。
まあまあ…ご存知の通り、現在こういう状況でありまして、あらゆるエンターテインメントが難しくなっちゃって、『粋な夜電波』だの、晩酌の時間だの言ってていいのだろうか?という…。今エンターテインメント業に属する方は皆さん思ってることを抱えたままね、進んでくわけですけども。
まあまあ…ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。
え〜…早速一曲聞いてみましょうかね。基本的にはAMなのだけれども、音楽のマニアックな番組ということで、AMラジオのスピーカーからはついぞ流れたことのない音楽を必ず毎回毎回4曲ずつかけていきますんで。ま、音楽番組ということで構えていただけると…。ま、名目だけですけどね。
では早速1曲目…栄えある…なんでしょうか、第一回目の1曲目ってのは比較的重要ですから。番組が始まってから最初にちょっとこう…出囃子みたいに聞いてたのあるじゃないすか。こう…どなたが聞いても「これジャズだな〜。」って思うと思うんですけど。あれをもう一回聞きますんで(笑)。
…すいません、もう最初から軽〜くふざけた感じになってますけど、ふざけてんじゃないんですよ、ホントに。
楽しくいきたいな…っていう。粋にいきたいなっていう気持ちの成せる業ですから…ご理解いただきた…く思いますが。
ちょっとカミカミになってますけどね、すいません(笑)。このカミカミぶりもね、お楽しみいただければと思いますよ、本当に。
聞いた皆さんが気分良くなると…ワタシいつも気分…だいったい気分いい人間なんで。それが皆さんにどんどんどんどん感染ってって、いい感じの気分になればいいな〜という気持ちをガチ込めで、お届けしますので。
え〜…1曲目はですね、チャーリー・パーカーさんっていって…ま、我々ジャズミュージシャンにとってはですね、もう「神」ですね。「神」って表現も、もう手垢に塗れてますけど。もう、ある意味「神」っていうのが、ちょっと…今年度、11年度はどうなのかな?って、今、まあ…いろんな業界の方がこの11年度迎えると思うんですけどね。
ジャズミュージシャン…ジャズ業界にとっても、神はAKB48さんじゃないですからね。シーピー?…「CCP35」なのでね。…シーシーピー…チャールズ・クリストファー・パーカーですから、CCP。「35は何だ?」ってのは、35歳で亡くなってますから。ま、典型的な早死にですね。
あの…ジャズミュージシャンってのは、もういけないお薬や、いけない女性関係や、なんかいろんな悩みの果てに早死にしてしまうんだ、っていうイメージの原型作っちゃった人ですね。
この人以外、実は同世代のジャズミュージシャンで破天荒に生きて早死にしちゃったって人は、意外といないんですけど。この人が一人で代表しちゃってるんですが。
お仲間は長生きしてる人…ソニー・ロリンズなんかまだ生きてますからね。セロニアス・モンクもずいぶん長生きしました。「ジャズメンは滅茶苦茶に生きて早死にだ」ってのは、そんなにね。ロックほど多くないと思いますけどね。
とはいえまあ、この人が35で、テレビのバラエティ番組観てて、笑った拍子に心臓発作で死んだってのは有名ですけどね。笑って死んじゃうほど身体痛めつけてたわけですが。
え〜…いずれにせよ、天才です。我々にとって神ですね。彼が遺した録音はすべて、あらゆるジャズミュージシャン…アマチュアも含めてです…あらゆるジャズミュージシャンの脳内で24時間鳴り続けてる、ワタシも鳴ってます。そこから常に…そこから…神の言葉ですな…そこから敷衍して何かを考えてゆく…というのがジャズミュージシャンという人種だと思いますね。
この番組を始めるに際しまして、テーマ曲は必ずチャーリー・パーカーで行こうと心に決めてたわけですが。
まあ…録音自体は…天才で時代を変えた人ではあるんですけど、なにせ最盛期が第二次世界大戦中だったって人なんで、数少ないですね。
で、いい録音が…きれいな音質のいい録音が非常に少ないので、たかが知れてんですけど、どれも名演なんですけど。
今ワタシが一番皆様にお伝えしたい気分ってのはこれなんじゃないかな?っていう基準で、適当に5分ぐらいで選びました。
チャーリー・パーカーで「Blue Bird」という曲を聞いて下さい。

※文字起こしの「NAVERまとめ」あります。