「ワーカホリックは正月風邪をひく。」

「粋な夜電波」第346回はフリースタイル。
近況報告と告知、お薦め映画も紹介された、番組ラストのトーク部分を文字起こししてみました。
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正月は…31日に「紅白」観て、それから…まあ、蕎麦茹でんのはね…
ワタシは他人が茹でた蕎麦…まあ、一番美味いのは、ワタシがテメエで茹でて締めた蕎麦が一番美味いと思ってるんで。
年に一度だけは自炊するんですけど、それは年越し蕎麦を作る時です。年越し蕎麦作りまして。
まあ、そうですね…写真だけ見たら…インスタグラムなんて、そういうののためにあるんでしょうね…「今年食った年越し蕎麦」って写真上げたいですよ。「嘘でしょ?」っていうぐらい食いますから。
バケツに一杯食いますね、年越し蕎麦を(笑)。好きなのよ。ええ。んで、年の瀬は腹が空くのよ、とにかく。猛り狂ったようになって年越し蕎麦バケツ一杯食って…「さあ、明けましておめでとうございます。」っつったら、ブワーッと熱が38度6分ぐらいになって(笑)。あっという間に喉がですね、唾が飲めないぐらい痛くなっちゃって。お医者さんいないでしょ?
まあ、ワーカホリックの奴が正月風邪ひくなんて、もう本当に当たり前の話ね。うん。よく聞く話。で、もう一発でひっくり返っちゃって。
3日にはね、声が出なくなっちゃったんですよ。「やべえ、明日…4日収録だし、どうしよう。」と思って。でもDJだから、「あ、喋りまくんなくていいや。挨拶だけだ。」と思って。んで、まあ…頑張って、のど飴10個ぐらい口の中に入れてですね(笑)。モガモガしながら…TBSにモガモガしながら来てですね。のど飴口の中に入ったまま挨拶したら…
何ですか?…ワタシは見てないんですけど、Twitter?…で、「ゲスト誰?この人。」って言われたっていうね(笑)。声で識別…別人の声になるまで喉が嗄れてしまったわけですよね。
はい。御自愛します、ほんとに。かろうじて声が出たんでセーフですけどね。
あれ、DJって前から決めてましたけど。ていうか毎年恒例なんだけど、もし喋りまくりの一時間だったら危なかったですよ。ええ。誰が喋ってるかわかんない「粋な夜電波」になっちゃいますからね(笑)。「誰かの粋な夜電波」になっちゃうんでね。

(中略。メールを読んで)

「私が殺したリー・モーガン」って邦題になったのか。
これは仕事柄、もうとっくに製作してすぐ…アタシ観ることになりまして。
「I CALLED HIM MORGAN」だと思います、原題は。
「みんながリー・モーガンのことを愛称で『リー』『リー』って呼ぶんだけど、私は彼のことを尊敬しているから『リー』とは呼ばずに、『モーガン』と呼んだんです。」って証言したんですよ。殺した奥さんが。なので、殺した奥さんが…
リー・モーガンって射殺されたのね。ファンの間では有名です。なんだけど…
映画としてとてもよく出来てます。ここんとこジャズ映画がね…もうドキュメンタリーといわずフィクションといわず、クソ続きだったんで(笑)。ほんとにどうにかしてくれよ!っていう。
別にね、「セッション」の文句いまだに言おうっていうほど、ワタシ粘りっ気強くないですから。もう「セッション」のことはどうでもいいですけど。
その後の、とにかく待ちに待った「MILES AHEAD」…あれがとにかく「少年ジャンプ映画」になってたのには(笑)。マイルスがギャング団とチェイスを繰り広げてピストルを撃つっていうね。あれは本当に別の意味で笑いましたけど。「MILES AHEAD」がダメダメでしょ。
あと…ミッドエイジ・クライシスでちょっと具合悪くしたアイツが…チェット・ベイカーに移入して作ったあの映画もダメダメでしょ。どうにかしてよ〜と思ってたら、これ良かったですよ。
リー・モーガンは射殺されたんだけど、その射殺したの奥さんなのね。で、奥さんの談話のテープが、どっかの大学から見つかったんですよ。で、それを基に作ったドキュメンタリーで、地味な映画ですけど、ジャズファンはこれは必見です。
リー・モーガンはね…恥ずかしながら、一応いっぱしの批評家・研究家としてやってるアタシですら、リー・モーガンてのは一番売れてる頃…ハード・バップ全盛期に、あんまりモテるから…これは実際そうなんだけど、当時のハード・バッパーってのは今のアイドルどころじゃないモテ方したんですよね。で、むっちゃくちゃモテたんで、若い奥さんが錯乱して、一番売れっ子の頃のリー・モーガンを撃っちゃった…と思ってる人がいっぱいいるの。ていうか、ほとんどの人がだいたい自動的にそう考えて疑ぐることを知らないんですよね。
なんですけど、全然違うんですよ。実際は全く違って、リー・モーガンは一回売れっ子の座から転落するんですよね。で、何やっていいかわかんないっていう、まあ…70年代にすべてのハード・バッパーが被った一つのクライシスっていうか、ハード・バップっていう音楽自体が70年代にダメになっちゃって、ファンキーになるか、ピース系のフリー・ジャズになるか、相変わらずハード・バップ続けてお客が入んなくて貧乏になってタクシー運転手と兼業するか…とかいう選択肢を選ばれた中、リー・モーガンは…それまでスーツだったのがサイケデリックな…何ていうんですかね、ヒッピーみたいな格好になって、ファンキー・ジャズとピース系のフリー・ジャズを合わせたようなスタイルで復帰すんの。
で、そのプロデュースをするのがね、年上の奥さんで。まあ、もうすでにオバさまと言っていい年齢なんですよ。その人が撃つの。
しかもリー・モーガンが売れっ子でめちゃめちゃモテたんじゃなくて、せっかくそうやってもう一回立て直してくれた奥さんがいるのに、一回だけ気の迷いで浮気しちゃうんですよね。それだけで撃ち殺されちゃうんです、リー・モーガンは。
まあ…ネタ言っちゃいましたけど(笑)。これは映画のネタというより事実ですからね、これは。その事が克明に描かれてて、全然そのリー・モーガン射殺」っていうことに関する、コアなジャズファンですら間違ったイメージを持ってる事件に対して正す映画ですので。
まあまあ…人殺しの映画ですからね、気悪ぃっちゃ気悪いですけど。すごくファンキーな映画だし、ウェイン・ショーターをはじめ…リー・モーガンの中期、要するにジャズ・メッセンジャーズ時代…一番イケイケだった頃から、末期…殺されたバンドのメンバーだった…その中にベニー・モウピンとかいるんだけど…そういう人たちが出て来て、いろんなコメントするのも見ものですので、ぜひご覧になってください。
お薦めの映画は他にもいっぱいあるんですけどね。映画の話は来週しましょうかね。はい。
あとそうですね…「菊地様の風邪声が胸キュンでした♡」とかいう…何てんすか、ハスキーファンのみなさんもいらっしゃるようなので、どんどん声が治っていくので…申し訳ありませんって感じですけどね。
えー、告知でございます。1月26日、1月26日来たる金曜日、代官山「晴れたら空に豆まいて」にて、我が「TABOO」レーベルの秘蔵っ子であります「オーニソロジー」。辻村くんっていう非常に素晴らしい…彼こそ、彼こそですよ!…彼こそ、ハスキーフェチの人の垂涎の…年がら年中声嗄れてますからね、辻村くんは。
「オーニソロジー」辻村くん…これは一人ユニットですけども…が、「with 菊地成孔」ということで、ワタシも全曲にゲスト参加する形で…今年彼らはデビューするので、うちのレーベルから…それのテイクオフイベントとしてライブを演ります。
開場が18時半、開演が19時半。前売り3000円、当日3500円+1ドリンク600円となります。
そして翌日、1月27日土曜日。明けて24時間後ですね。青山クラブ0(ゼロ)、ガパオ食堂ではですね、10周年記念でジャズ・ドミュニスターズが3時間DJをします。これには誰も来ないでください(笑)。
多分そうですね、立ってらんなくなると思いますよね。我々のDJ3時間も聞いたらね。もちろんラップもしまくりますよ。
フィーチャリングで可愛いI.C.I.とか可愛いOMSBeat's来ませんからね。ガチンコです。N/Kと谷王だけ!の3時間。こんなものに耐えられる人たちがいるのでしょうか。いないと思いますよね。よっぽどの好事家だけが集まると思いますので。みなさん、27日はお休みいただいて(笑)…26日、1月26日に代官山「晴れたら空に豆まいて」で、オーニソロジーとワタシが一緒に演奏するのをお聞きいただきたく思いますね。
「ジャズ以外の…ポップスやファンクみたいなもので菊地さんのサックス吹くの聞きたい!」とかいう方には、もう絶好ですよ、これ。ファンキーな曲で…だって、演奏はDC/PRGのリズムセクションだからね。オーニソロジーの歌も素晴らしく、ワタシのサックスも素晴らしく…といった感じですので、ぜひこちら…ま、検索すれば詳しい情報が出てくると思います。
というわけで、最後の曲となりました。ジャズミュージシャンの菊地成孔がお送りしてまいりました「菊地成孔の粋な夜電波」、そろそろお別れの時間となります。
本日の最後は…そうですね、人によってはリロイ・ヒューストンって発音する人もいるんだけど、マニアは「ハトソン」って言いますね。失礼…Leroy Hutsonなんだけど、リロイ・ヒューストンって言う人もいるんだけど、「ハトソン」らしいね、これね。
ダニー・ハサウェイの共作曲「The Ghetto」…が一番有名ですけど、カーティス・メイフィールドのレーベル「Curtom」時代の曲です。今から聞くのはね。
あの…アメリカ中にたくさん、佃煮にして売るほどいる…「すげえ才能がありながら、あんまり売れなかったA・5級…ていうかA’級の」ニュー・ソウルムーブメントのシンガーソングライターですね。リロイ・ハトソンは。
「All Because of You」これのシングルバージョンをお聞きいただきたく思います。非常にいい曲です。
後にダニー・ハサウェイカーティス・メイフィールド、カーラ・トーマス等々、錚々たるメンバーとのコラボレーターとなっていきますが、彼のソロ名義の作品を聞いて、明けゆく空を彩りたいと思います。それではお聞きください。


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