「東京島」

東京島 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)

初めて読んだ桐野夏生作品。
書店で平積みになっていた文庫本、売れてるみたいだなと思って手にとって裏のあらすじ紹介を読んでみると、結構面白そうだったので購入。
これも映画化され今夏公開されるらしい。(予告編見たけど、うーん…映画はちょっと…)
無人島漂流モノの映画というと、「蝿の王」や「流されて」などが思い浮かぶが、この小説はそれらとかなり異なっている。
トウキョー島と名付けられた無人島で、たった一人の女を他の男が求め奪い合い、女はやがて女王としての存在を自覚し始める…というあらすじだったが、読み進めていくと、それはほんの始まりに過ぎず、次から次へと新たな状況が生じ、物語は意外な方向へ動いていく。
極限状態に置かれて人間の本性がより露わになるという設定を利用しつつ、いろいろ暗喩するところも多く、日本人が抱える問題を揶揄した、ある種現代の寓話にもなっているようだ。
その設定だけでもストーリーとして面白いのだが、状況に振り回されるというより、その人物がもともと持っていた本性が解放された結果、さらなる緊張状態を生み出していく。ドラマ性も十分。登場人物の描写が生々しく、その語り口も特徴的で、小説として読み応えがある。
この作品の主役、唯一の女性というのが若く美しい女…ではなくて、太った醜い中年女というところがポイント。
それは商業映画では厳しいわな。これを絵ヅラ的に良くしようとすると、この作品の凄みがなくなってしまう。
自分がなんとなく想像したのは、これ映画というより、渡辺えり子主演で舞台劇としてやったらいいんじゃないか?…と。実際に作中でもその無人島を東京に見立てているわけだから、観る側の想像力で補う方が、その状況状況での緊張感が増幅されるんじゃないだろうか。…ま、あくまでも中途半端に映画にするぐらいだったら…だけど。