「マジックディスク」

マジックディスク【初回生産限定盤】

アジカンの新作。サッと試聴した時に、疾走感のあるギターロックナンバーが減り、内省的になっている印象を受けたので、正直「今回のアルバムは好きになれるかな？」と不安だった。
だが、ゴッチの音楽に対する真摯な姿勢、不器用ながらも常に向上していこうともがいているバンドの方向性に対する信頼は変わらないので、「アジカン、相変わらず頑張ってるな」と、この変化を好意的に捉えていた。
何度か通して聴いているが、やはりパッと耳を奪われるポップな楽曲は少ない。個人的に気に入ったのは「マジックディスク」と「ラストダンスは悲しみを乗せて」の２曲ぐらい。やはり「リズムやリフの工夫」といった、バンドという縛りの中で試行錯誤したアレンジに耳がいってしまう。
ゴッチ自身はおそらくそのバンドの制約から逃れて、もっと自由に言葉を発したいと思っている時期に差し掛かっているようで、それは先行シングルだった「新世紀のラブソング」をアルバムの１曲目に持って来ていることからもよくわかる。
アジカンのアルバムは、シングルを全部収録するサービス精神と、「それ以外にもっといい曲はあるけど、あえてシングルにはしなかったぜ」というチャレンジ精神が共にあって、中でも１曲目はネットでの試聴も出来ないようにして、「今回こんな新境地に達したよ、聴いたらみんな驚くよ」という意図が込められていた。
そこにあえて「新世紀〜」を持って来たのだから、この曲を作ったことによるゴッチの手応えがよほど大きかったということを物語っている。
実際、このスポークン・ワーズ的な、語り口調とメロディが一体化した曲調を用いたナンバーが数多く収録されていて、「いつまでも衝動で叫んでいるだけではいない」という「ワールド・ワールド・ワールド」の最後の曲「新しい世界」の歌詞で宣言していた通りの、次のフェーズに移行したのだと思う。それ自体は大いに歓迎すべきことだと思う。…あと低い声が出るようになったことと、そこから裏声に行くメロディラインが歌ってて気持ちいいんだろうね。そのパターンが多すぎて、ちょっと笑ってしまった。新しい武器を手に入れたらそれを存分に振るいたくなるあたりもゴッチらしくて微笑ましい。
ゴッチはメロディメーカーとしてはそんなに起用なタイプではない。ぶっちゃけて言うと、「お得意のメロディ」もうほぼ出尽くしている。それでも常に努力を続け、工夫を重ねることを止めず、バンドもそれを信頼して演奏で応えている。
ロックバンド・アジカンに対する信頼はいまだ揺らいでない。だって、頑張ってるもの。こんな頑張ってるバンド他にそうはいないと思う。