「オーデュボンの祈り」

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

職場の同僚に貸していただいて、伊坂幸太郎作品と東野圭吾作品をちょっとずつ読み進めている。
伊坂幸太郎デビュー作の「オーデュボンの祈り」を読み終えたが、この作品を読んでようやく、「この作家のファン」になった。
それまで「死神の精度」や「陽気なギャング」などを読んで、ストーリーの面白さを純粋に楽しめたし、これは幅広い層に受けて本も売れるわ〜と感心していたのだったが、「人気ベストセラー作家」というレッテルを貼ってしまっていて、どこか認めるのに抵抗があるようなところがあった。別に純文学が偉いとかそんなことではないのだが、自分の中での村上春樹村上龍レベルの評価を基準にして、「作品の完成度が…」「文体の独自性が…」とか、ちょっとケチをつけてしまうというかね。
しかし、この「オーデュボンの祈り」…これがデビュー作というのは驚きだ。まるっきりの新人がこれを書いてデビューしてきたら、自分の中でも「すごい作家が現れた!」と盛り上がること間違いない。いや、伊坂氏のデビュー当時は実際そう盛り上がったのかもしれないが、自分は知らなかったもので。
なんだろうね。ミステリー小説の賞に、この独自の世界観を持った作品で応募してくるのもすごいが、とにかく「書きたいことが山ほどあるんだ!」というエネルギーに溢れている。そこに感動した。作品自体の完成度は高くないし、ストーリーの運びもまだ洗練されているとは言い難いが、それを補ってあまりある作家の情熱を感じた。
この会話でこの台詞、この場面でこの描写、この人物のこの行動…自分の好きな物事を全部投入してひとつの世界を作るんだという意気込み。そこには「人間が生きるこの世界を愛する」というメッセージも込められている。同時に、それが作品に結実したら、きっとわかってくれる人はたくさんいるはずだという希望も込められていると思う。
そしてその時の思いを今も保ち続けて、良質な作品を書き続け、大勢のファンを獲得している伊坂幸太郎という作家…素直にすごいと思う。