「GONZO」

土曜日出勤、仕事が早く終わったので、新宿シネマートで今日から公開の「GONZO ならず者ジャーナリスト ハンター・S・トンプソンのすべて」を観に行って来た。
ちょうど今週の「キラ☆キラ」でも水道橋博士が紹介していたように、体験ルボの過激な取材方法と権威に反抗するそのマインドは、ジャーナリストだけでなくロックミュージシャンなど多くの人に影響を与えているようだ。(上杉隆氏も推薦コメントを寄せているそう。)
そのトンプソンのシンボルマークのタトゥー入れるまでに心酔しているというジョニー・デップが語り手を務め、生前に親交の深かった著名人の証言と本人の映像を織り交ぜながら、「GONZO(ならず者)」と呼ばれた男の破天荒な生涯を振り返っていく。
60年代後半から70年代にかけてのアメリカは、自分にとっては語られる伝説や残された映像や音楽から成されたイメージとしてしか認識されていない。よって「ヘルズエンジェルズ」との共同生活や、自身がドラッグカルチャーにどっぷり浸かった中で得た体験のルポタージュがどれくらいセンセーショナルだったのか、当時のニクソン大統領への批判を強め、対立候補のジョージ・マクガヴァン氏を応援することが政治的にどれぐらいの影響力を持ったのか、そのリアルなところは実感できない。
だが、当時の本人の言葉や表情などから、彼の心の奥底にある真摯さは感じ取ることはできた。その取材対象は好奇心のおもむくままだったとしても、反体制反権力の姿勢は一貫している。理不尽で混沌とした現実に対する深い絶望があり、それを振り払うための勇気を振り絞った結果、クレイジーな行動に出てしまったのだろう。彼が飛び込んだその渦中に真実は確かにあったのだ。
やがて、特にブッシュ政権になってから彼の憂いはますます大きくなり、晩年はほとんど物が書けなくなったというトンプソン。老いた姿は痛々しく見え、ついには拳銃自殺によってその生涯に自ら幕を引くことになった。破滅に向かって加速して行く現在に取り残された自分らには寂しい限りだが、映画のラスト、巨大な塔から大砲を打ち上げて遺灰を散布するという彼のど派手な葬儀のシーンを観た時には、確かな高揚感があった。(そのセレモニーの費用はすべてジョニー・デップ持ちだったそう。クール!)
GONZOスピリットを受け継いだ者はいたる所にいて、嘘で塗り固められた現実を暴いていくだろう。そこにささやかな希望を見い出していくしかない。