「バクマン。」

バクマン。 13 (ジャンプコミックス)

バクマン。 13 (ジャンプコミックス)

いまさらながらバクマン。」が面白い。
今年に入ってからジャンプを毎週買うようになってしまって、「ONE PIECE」以外の作品も続けて読むようになって、途中からでよく分かっていなかった作品もだいぶ内容を把握できるようになってきた。
バクマン。」でハマったのは…「 人気作家恋愛読切祭(スーパーリーダーズラブフェスタ)」のあたりからかな。
漫画家としてのライバル同士が、読切作品を順に掲載して読者の人気投票によって一位を決めるという企画を通して互いにしのぎを削るという様を描きながら、実はその過程で平丸さんという作家が青木さんという女性作家に恋して告白するまでが同時進行していて、この「恋愛読切祭編」自体が恋愛マンガになっているという、構造の妙に感心しまくり。
主人公の亜城木夢叶というコンビは、原作担当の高木秋人(シュージン)に、実際のこの「バクマン。」という作品の原作者・大場つぐみ氏を、作画の真城最高(サイコー)に小畑健氏を重ねて見ることができ、すでにメタ構造になっているのだが。
このシュージンが出す作中作のアイディアが、「実際にそれを描いた作品があったら、それ面白そうじゃん」と思わせるのがこの作品のキモ。
頭で考え計算して話を組み立てるタイプのシュージンは、作者が楽しんで描いたものがそのまま大ヒット作になる、新妻エイジのような天才に挑んでいくには、「邪道の心理バトル」のような作品がいいのではないかと考える。(このあたりも「DEATH NOTE」の制作裏話のようにもとれて面白い)…いや、その「どうやったら王道に勝てるか、アイディアをひねって勝負するところをマンガにしてる」時点でこの作品が「邪道の心理バトル」になってるんだって!…とツッコんでたらキリがないくらい、とにかく二重三重にも入れ子構造になってて複雑なんだな。しかし最終的にはライバル漫画家達と闘っていくという、少年ジャンプ的な王道バトルものにまとめあげているのだから、見事というしかない。
実は本誌連載が始まった当初から、こういう「マンガを描く過程での葛藤そのもの」がドラマ性が高いのだからそれをやればいいという発想は面白いと思っていた。(さらに、ジャンプが重視するアンケートシステムの非情さが、ある種のソリッド・シチュエーション的な効果をももたらしている)
しかし「マンガ家を目指すふたりの男の成長物語」には、藤子不二雄の「まんが道」という偉大な先例がある。そのおかげで、亜城木夢叶がマンガ家を目指しデビューするまで、というあたりは「いわゆる「まんが道」の少年ジャンプ版ね…」という先入観も邪魔して、そこまで熱心に読む気にならなかった。(いや、実際1巻から通して読んだら、面白かったのだが)
やはりこの作品が本領を発揮するのは、ふたりがデビューし、ジャンプ本誌で連載を抱えてからだ。
アイディア豊富な原作者が「今までボツにしてきたが、実際作品化したらそこそこ面白いはず」と思っていた持ちネタをふんだんに投入できるフォーマットを作りあげたうえで、それを他のライバル作家たちの作中作に割当て、比較しながら「面白い作品には面白い理由がある」という分析をしてみせ、さらに作画担当の小畑氏がそれらを画風を変えて描き分けるという難易度の高いことをやってのける。そして「バクマン。」のストーリーが進むにつれ、亜城木夢叶が人気作家になるにつれて、その難易度のハードルはどんどん上がって行く。
「人気がある」ことになっている作中マンガには「実際に人気マンガを描く」のと同等のアイディアとスキルが要求されるわけで、そこに応えられなかったらリアリティも失われるし、「バクマン。」本体の熱も急速に冷めていくだろう。そこに果敢にチャレンジしているこの作品で、今本誌連載中の話がまさにそこがアツイ!ことになっているのだった。
…そう考えると、実はこの「バクマン。」という作品、これ以上長く引っ張るような話ではないと思う。
せっかく今盛り上がってるんだから、もっと長く連載してほしいという声もあるだろうが、今までも作中のキャラクターに作者の考えを代弁させていたことを鑑みるに、きっと大場先生も新妻エイジ先生と同じ考えのはず!、デス。