映画「モテキ」


http://www.moteki-movie.jp/index.html
最近原作マンガを読んでハマったばかりで、評判の良かったTVドラマシリーズというのを観ていないのだが。
TBSラジオライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の名物、映画評論コーナー「ザ・シネマハスラー」の今週末放送予定の賽の目映画(課題作品)に、この映画版の「モテキ」が選ばれたので、それならば観ておいてから放送を聴く方が楽しいだろうということで、軽くチェックしにいくくらいのつもりで観に行った。
仕事帰りにTOHOシネマズに寄り、レイトショーで。座席数に対して客はまばらだが、平日の夜なのに意外にもカップルが多い。山盛りのポップコーンを男が運び、女の子はキャッキャ声をあげながら入ってくる。…独りど真ん中に陣取る自分の前、通路を挿んで前の席には誰もいない。あれ?これ、「モテキ」だよな…デートムービーって感じでもないんじゃないの?…男がひとりでこっそり観にくるのが相応しいのでは…と、思わないこともなかったが。ここで必要以上にカップルの存在を気にしてしまうと、これから観る、モテない「セカンド童貞」の主人公・藤本幸世のモードに同調していってしまうではないか(苦笑)。
この映画版は、原作にもない完全オリジナルストーリーらしいので、むしろTVドラマ版を観ていない自分は、余計な先入観を持たずに観れていいのではないかと思っていた。
(先週のシネマハスラーでの劇場版「セカンド・バージン」のように、好評だったTVドラマ版の良かった部分をすべて省いて台無しになっている(らしい)ということもありえるだろうから…。)
しかし…観て、結論から言うと、最高に面白い!
映画として大傑作……かどうかはわからない。でも個人的にかなり楽しめた。
原作マンガの各話タイトルがロックやポップスの曲名から付けられていたことからも、この作品における音楽の重要性というのはわかっていたし、その音楽のチョイスがちょうど自分のツボだということも知っていた。
原作者の久保ミツロウ氏は、中学、高校、20代と、ほとんど自分と同じようなところを聴いてきたんだなと想像して、やたら親近感がわくほど。
岡村ちゃんや、TM、大江千里などの懐かしのEpic勢をはじめ、スチャダラや電気グルーヴソウルセットなどの90年代後期、フジファブリックPerfumeに至るまで。さらに映画では神聖かまってちゃん在日ファンクなど、今が旬のアーティストの楽曲まで取り上げられている。他にもゲスト出演者として多数登場。
突如ミュージカル風に歌い踊りだすシーン(これは映画「(500)日のサマー」のパロディ)や、カラオケビデオ風になるシーンなどは、おそらくドラマ版でもやったのだろう。こういうギミック満載なところが、映画として評価されにくいところではあるかもしれない。
ミュージックビデオの延長線上だとか、テレビドラマの拡大版に過ぎないとか、いろいろ言う人もいるだろう。
冷静に考えると、ちょっとどうかなというところもあって、特に長澤まさみのお芝居の拙さ加減によって(そこがリアルともいえる)、大事な場面でちょっと気持ちが冷めたりもした。(そうかと思うと、主人公も観客もどん引きさせる麻生久美子の演技は凄すぎる!…そして「牛丼」のシーンは泣けた)
だが、個人的にはこの映画「モテキ」は生涯愛すべき一本となった。しかも、「オレだけが好き」なのではなく、これは「オレ達の映画だ!」とまで思ってしまった。
自分に自信が持てずに屈折した主人公に感情移入したというのももちろんある。(主演の森山未來は最高の演技を見せてくれる)
だが、何よりもこの作品は、音楽や映画や本などのサブカルチャー無しでは生きていけない人達への愛が詰まっている。
後ろでイチャイチャしながらデートムービーとしてこの作品を楽しむカップル、大いに結構。…ただ、あんた方はこの作中の音楽がださいだの古くさいだの語るなよ!っつーこと。(言いたくないが「リア充」っつーの?)…ロックなんかなくても生きていける人々なんだから。
自分以外のすべての人の人生が羨ましくて、成り代われるものなら成り代わりたい、でも同時に妬ましくて…。
自分と同じような考えての人はきっと他にもいるはずと信じたいけど、「見渡せば、世の中みんなアホばっかりやん!」とうんざりするばかりで…。
そんなことを思ってしまう自分の傲慢さがイヤでイヤで…。
ぼーっとしてると出し抜かれ、片隅に追いやられ、搾取されるこの世の中をうまく渡っていけるのは図々しい奴ばかり…。
虚構の中に逃げ込んだり、表現作品について「語る」ことでしか自己表現できなくて…。
ロックが人を堕落させるのではなく、ロックに依存してしまうのがダメ人間なわけで…。
そんな思いを抱えている人なら、ある特定の曲のイントロが流れてきた瞬間に起きるマジック、自分と世界がかろうじて一瞬繋がった感覚を実感しているはずだ。
この映画で幸世がなけなしの勇気を振り絞って行動を起こす時、その瞬間に鳴り出す音楽の使い方で、「ああ、(作り手は)わかってらっしゃる!」と心が震えるのだ。ある種の「報われた感」すらおぼえてしまう。
だから、宇多丸氏が「この映画を1位にする権利は、オレにはある!」と「SR サイタマノラッパー」の評論の時に言ったように…。
九州の田舎から上京してきて、こ汚い格好で新聞配達しながら極貧生活を送りつつも、都会の生活に憧れて、当時のいわゆる渋谷系の音楽を身をよじりながら聴いていた。…何も成し遂げられない自分に対する嫌悪をかろうじて堪え、サブカルから得た知識で理論武装することによって、なんとか個性を確立しようともがき続けてきた日々を経た自分には、この作品を「個人的に1位にする権利はある」と思うのだ。
この映画の過剰なサービス精神は、必ずしも自分のような「ロック依存症的モラトリアム文系中年」に向けられていないとしても、「オレ達の映画を作ってくれてありがとう!」と大根監督に伝えたい…。

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