「127時間」


飯田橋ギンレイホールで「127時間」と「ザ・ファイター」の2本立てをやっていたので観に行った。
なにげにギンレイホールに入るのは初めて。レトロな雰囲気は悪くないが、場内はタバコくさいし、座席の背もたれは低く、座席同士の前後の感覚が狭くて足も伸ばせない。2本立てを観るにはちょっと過酷な環境。
それでもスクリーンの中のアーロン・ラルストンの置かれた環境の過酷さに比べたら…(比べるのは間違ってるが)、まあ全然マシかということで。
ジェームズ・フランコが実在の登山家アーロン・ラルストンを演じ、彼の自伝「奇跡の6日間」を元にして製作された映画が「127時間」で、ユタ州のキャニオンランズの渓谷内で落ちてきた巨大な岩と壁との間に右腕を挟まれて身動きが取れなくなった時の、事実に基づいている。
映画の予告編等で、彼が最終的に自身で右腕を切断して脱出して生還したということは知っていた。自分がもしその立場だったらと考えるとゾッとするが、それだけにこの極限的な状況でいかにして決断し実行することができたかというのは興味を惹かれてやまない。半ば怖いものみたさではあるが、ぜひ観たい作品だった。
監督は「トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」などで有名なダニー・ボイル。早回しや細かいカット割り等で勢いのある演出が特長の監督で、その作風には賛否が分かれるところがあるが、この作品についてはそれが功を奏していると思う。
悲惨な事故の経験でさえも、いかにもダニー・ボイル的な映画の題材として扱ってしまうことに対してはあまり誠実とはいえない気もする。だが元々大きな物語を語るのは得意ではなく、様々なテクニックを駆使した観せ方の工夫によって退屈させない作品に仕上げるタイプの監督なので、この身動きとれない状況の中で、知恵を絞り、工夫を凝らし、失敗し、追い詰められ、あらゆる感情が噴出する様をエクストリームな表現にまで持って行くのはまさに彼向きの仕事だったといえよう。
監督本人もこれは「動かないアクション映画」だと説明しているように、意識的にエンターテインメント化したところはあったようだ。
確かにこれを事実に正確に沿うようにドキュメンタリータッチで作品にしたら、腕を切断するシーンなどは、痛々し過ぎて観ていられないものになったかもしれない。
脱出物としてだけならストーリーが一方向過ぎるので、時間軸も前後させて単調にならないようにもなっている。極限状態で意識が朦朧とする中で、幼少の記憶が蘇ったり、過去の後悔の念が押し寄せたりするところの回想をうまい具合に挟み、自分の置かれている現状が運命に導かれてこうなったというところに考えが至り、その運命を受け入れる覚悟を決めていくところの描写は見事だった。
なんだかんだでちゃんと自分に合った題材を見つけてきては、得意技をてんこ盛りにして自分印の映画を作り続けるダニー・ボイルはさすがだと思う。そして、自分も退屈な芸術映画よりも俄然こういう作品の方が好きなんだということをあらためて確認した。

アーロン・ラルストン 奇跡の6日間

アーロン・ラルストン 奇跡の6日間

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