「第31回前口上」


「シェフのおまかせコース」だった今回は、日曜版の頃を思い出させる、本来のクールなジャズメンの菊地さんらしい落ち着いた放送でした。
「ソウルバー菊」のアッパーなフロアDJな感じも、「少女時代アナリーゼ」の時のアカデミックな感じも好きですが、やはり今回のようなご自身の幅広い音楽嗜好の中から、ちょっと変わった面白いものを勧めてみてくれるソムリエ的なスタンスが、菊地さんの魅力の本質なのではないかと思います。
そんなわけで、久々に冒頭の前口上の部分を文字起こししてみました。
日曜版の時も菊地さんが事前に用意した原稿を基に喋っていたこの口上部分は、テキストで繰り返し読む耐性のある名文で、番組HPでも全文公開されたりしていたので、金曜日になってからの口上の原稿もいずれ公開されると思いますが、そこはあえて自分で菊地さんの言葉を拾っていくのが、もう個人的な愉しみになっていますので、起こしてみました。
あらためて読んでみると、やはりインテリジェンスとユーモアのバランスが絶妙な、菊地さんにしか書けないようなテキストになっていることがわかります。

ヌーボーなボジョレーが淡白過ぎるとお嘆きの、ヌーボーな恋人が濃厚過ぎるとお嘆きの、ヌーボーなユーロの危機感が、ヌーボーなご自分の会社での評判が、ヌーボーなこの秋の寒さがすべて中途半端過ぎるとお嘆きの、すなわち混迷の現代を生きるすべての紳士淑女の皆様、貴方だけこんばんわ。
温かいリカーと高性能ラジオのご準備はいかがでしょうか。今週もここ東京港区赤坂、TBSラジオ第8スタジオより、年齢、性別、職業、国籍、宗教、階級、そしてすべてのセクシュアリティの差別なく、音楽とお喋りをお届け致します。
皆様のエレガントでハイなウィークエンドの始まりを告げる当番組、お相手は不肖私、クールストラッティンでクルーエルな、クレイジーキャッツにクーポン券使い過ぎの、ジャズミュージシャン・菊地成孔
今お聞きの番組テーマ曲は、アポロ計画が実際に開始された1961年、誰もが無重力感に憧れたニューヨークで録音されたジョージ・ラッセルの「リディオット(LYDIOT)」。
月に取り憑かれてクールにクルーエルに吠えるルナティークなアルトサックスはエリック・ドルフィーです。
先週からの予告通り今回は、毎週が特別番組である当番組の中でも、確率的に最も特別性の高い「特集なし」。「シェフのおまかせコース」となっておりますが、ジビエも豊富な季節になってきましたが故、本日4皿コースとしまして、オードブルに「秋のリミックス」、魚料理に「少女時代」、肉料理に「DCPRG」、デセールにハープをご用意致しておりますが、食い切るか残すかは皆様の胃袋次第。30分に一皿ずつ盛り合わせでお出しいたしますので、胸やけや退屈を発症した皆様におかれましては、途中での入浴、セックス、散歩などによるご退場はご自由にどうぞ。「食い足りぬ」という偉大なグルマンディーズ諸子は22時以降に、書を捨てて街へ出てくださいますよう。ばったりワタシと出くわすかもしれません。
それでは我が国の娯楽の殿堂、ビーナスが研ぎすまされる金曜夜8時へようこそ。来るべき世界、そしてその前に確実にやってくる貴方のウィークエンドが、愛と、愛の不毛に満ちた秋の、美しいものとなりますよう。11月三度目の放送です。それでは参りましょう、菊地成孔の「粋な夜電波」です。

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