「フレッシュでなければ意味が無い」
放送後もTwitterなどで大きな反響を読んでいる「菊地成孔×近田春夫2011年末放談」ですが、番組終了寸前の「音楽における〈フレッシュさ〉」について、お二人が熱く語っておられた部分も非常に感動的だったので、そこも文字起こししてみました。
話がこれから佳境に入る、まさにその瞬間に放送時間がなくなってしまうという、残念なことになってしまい、しかもこれが年内最後の放送になってしまうという(笑)…なかなかな仕打ちを受けてしまいましたが。こうやって文字に起こして、お二人の言葉を反芻しながら、次回の放送を楽しみにしつつ、年を越すことにしましょう。
菊地 あの〜、なんてーの…。最初にMIDIが出た時に、もう…楽器だとか上手くなくなっちゃって…、みんなこう…DJみたいになっちゃうんだ、みたいな、言われ方…未来展望が出たじゃないですか。
- アーティスト: The Lunatic Thunder
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近田 うん。
菊地 全然、そんなことないすよね。
近田 うんうん。
菊地 今、上手い人いっぱいいますね…歌も。
近田 だからね、逆に言うと、「上手い」ってことはさあ…、逆に足枷になってるかもしんない気がするぐらいだね。…もう、こうなってくると。
菊地 そうですね。結構、アスリートみたいな感じですよね。
近田 なんかさあ…。
菊地 はい。
近田 上手いから、あの…上手さっていうのが、逆になんか「新鮮さ」に繋がらないんだよね。
菊地 ああ。さっきの、「フレッシュさ」の話ね。
近田 そう。なんかもう…なんていうの。最初っからベテランみたいな音なんだよね。
菊地 はいはいはい。
近田 なんかこう…。その…上手いとか見事ってことはあるんだけど、「これ聴いたことねえなあ…」っていうことは、なかなか無いよね、今ね。
菊地 うん。
近田 そこをみんな目指すといいと思うんだけどね、僕はね。
菊地 でもそう…オーソドキシー…オーソドックスになってないと、不安だっていうムードはもう90年代以降、ガチガチ…じゃないすか。
近田 そうなんだけど、その中で「でもなんか今までと違うもの」っていうのをね。
菊地 うん。ちょっとでいいからね。
近田 その、ほんと1ミリでもいいから、その1ミリっていうものに対する情熱が、もっとあった方がいい気がしますけどね。
菊地 ですよね。
近田 うん。
菊地 「フレッシュ」はほんとに重要ですよね。
近田 いや、一番重要ですよ。やっぱり。
菊地 オレ、今日やっぱりあの…ルナティック・サンダー(THE LUNATIC THUNDER)聴いたら、すげえフレッシュなわけですよ。ルナティック・サンダーの前の曲よりフレッシュだね…
近田 うん、絶対常にそれは…そこだけは…そこだけだもん。ポイントは。
菊地 やっぱすげえなあと思って。やっぱこう…「フレッシュがいいんだ」とか言っても、5年や10年言い続けるだけなら大したことないじゃないすか。重みが違いますよね、やっぱり(笑)。
近田 だって、ヤなんだもん。フレッシュ以外興味ないんだもん。
菊地 とうとう楽器も捨てたし歌詞も捨てたってとこが、スゴイと思うんすよ、やっぱり、近田さんが。
近田 自分で飽きちゃったら嫌じゃん。俺…前も言ったかもしれないけど…
菊地 はい。
近田 …飽きられた方が悪いわけよ。女でも、曲でも。
菊地 いやあ。ほんとですね(笑)。
近田 だから、飽きられないもんだったら夢中でいられるわけよ。
菊地 「あきない(商い)」ってゆってね。
近田 そう。昔ヒップホップ好きだった時は…ヒップホップ好きだったんだけど、飽きちゃったわけ、ヒップホップには。
菊地 ああ〜、飽きましたか。
近田 もう…ヤなのよ。もうつまんないわけよ。そういうさあ…もう飽きちゃったら、もう…飽きられた方が悪いわけよ。だから…ということは、自分もいつか誰かに飽きられるはずだから、なるだけいつまでも飽きられないようなものを作る努力をするしかないな、と思ってるわけ。
菊地 うう〜ん。
近田 だから自分の曲なんだけど、自分でもう大体飽きてるじゃん?…だから飽きない曲…次の曲作りたい、っつう…。
菊地 …なんか、「飽きられたくない」っていう…あの、パワーを、近田さんをずっと追っかけて聴いてて思うんすけど…。ある時ね、近田さんが、例えば、70になったら、あの…ず〜っと飽きられないことばっかりやってたから、「ちょっと飽きられたい」っていうふうになっちゃう可能性ってないですかね。
近田 …今んところは想像つかないね、それは。
菊地 まあ…単なる反転だけど、デカダンなっちゃって、「もう飽き飽きされるっていうことに、今ちょっと興味があんだよね」っていうようなフレッシュさに行ってしまう…っていう。なんかこれは…
近田 それはねえ、なんかきっと、いいわけになってるよね、そん時は。ものが出来なくなって。
菊地 なるほど。
近田 だから自分でものが新しいものが作れる限りは、その気持ちは絶対起こらないと思うんで。…って俺は思うな。
菊地 はい。…なるほど。
近田 うん。
菊地 だから聴くものも結局、「どこがフレッシュか」ばっかり聴いてますよね…。
近田 そこしかない。
菊地 ですよね。
近田 要するに「これは今までなかった!…そこがなんなのか…」そのポイントだけだね。
菊地 うーん。でもフレッシュって、ナチュラルに出てくるこう…なんつーの…、天然のフレッシュと、計画して出てくる養殖のフレッシュ…養殖ってあの(笑)うなぎの養殖…養殖のフレッシュとあるじゃないですか。
近田 うん。
菊地 で、こう…作ってて、あの…どうすか、この狙っていくフレッシュさと、出ちゃったっていう時とあるじゃないすか。なんかもう…こんななって湧いちゃって湧いちゃって、気がついて「出来上がったらフレッシュだった!」っていう時と、「ここはこうした方がフレッシュになるから…」っていう…その意識は近田さんあるはず…。
近田 まず、その意識をずーっと持ち続けて作ってるんだけど、そういうことが運良く偶然になにかその…化学変化を起こして自分では気付かなかった新しさってものに繋がる時はあるよね。…ただ俺はいつも思うのは、新しさは外側には無いってことですよ。
菊地 そうですよね。
近田 内側にしかないよ。自分の内側にしか。
菊地 そうですよねえ…やっぱねえ。…だから絞り出してくるもんですよね。…大抵…あの〜なんてーの…、例えばこう…若干もうこれはデカダンですけど、「もうフレッシュさ無くていいや!」っていう…
近田 うん。
菊地 例えば…なんだろ。…マイケル・ナイマン…とかさ。ほら、なんだっけ…「料理の鉄人」の、「ジャンジャンジャンジャン…」って…
近田 ああ〜。
菊地 …あの人達って、フレッシュじゃないふうに…「もう、フレッシュなものはクラシックは何も無いから、フレッシュなものは全部止めようっつって、あえて、もうモーツァルトに似てる、ベートーベンに似てるって形を、ただ組み上げて、なんの心も込めずにやろうぜ」ってもの作ってるうちに、ジャンルが出来て、…すごいフレッシュなジャンル…
近田 うんうんうん。
菊地 あの…ニュー・シンプリシティっていうんですけど。ああいう…感じで、やろうと思って作ってても、あの…なんかフレッシュっていうか、どっか歪んだところが出てしまうんすよ。
近田 うん。
菊地 バーンって。…で、近田さんだったら、そういうのはどうやって処理してんのかなって、いつも思うんですけどね。
近田 ちょ、ちょ、ちょ…もうちょっと意味…?
菊地 要するに、あの…うまくいったフレッシュがバーンって決まる時あるじゃないですか。それはさっき言ったみたいに、もうなんかお祭りみたいな感じで、「おお、おお!」っつって湧いてる間に、うわってボトンと落ちたらそれがいい調子でフレッシュだった…っていうことに、…の繰り返しですよね。だけど、なんかやろうっつって、え〜、いわゆる詰め将棋みたいに、張ってって張ってって、で、フレッシュさが…え〜…出来たと。
近田 うん。
菊地 で…あんまりそのフレッシュさが、ありがたくない…場合があって、ほんでじゃあ、何も考えずに、あんまフレッシュじゃなくていいから…、仕事の時とか。そうすっと、それでもなんか作ると、どっかに歪んだ部分とかが、ピュッと出て、…って、フレッシュっちゃあそれフレッシュなんですけど。
近田 うんうんうん。
菊地 …そういうのを…そういうことって…、要するに、もう運命的っつうか…番組の話最初に戻りますけど(笑)、近田さんのラジオ聴いた時から、入ってきてるもんだと思うんですよ。で、それは受け継がれて行くもんだと思うんすけど…。
近田 うん。
菊地 近田さんって、その近田さんが、その前にいた、一番フレッシュな人ってのは…誰ですか。
近田 えっ?…それは急に今考えつかない…けど。…誰だろう。自分の前にいた、そういう意味でのフレッシュな人…。
菊地 はい。近田さんから、「フレッシュで行こう!」って突然変異…
近田 …例えばね。例えばね、僕…、そういう意味で「ああ〜、この人ほんとにフレッシュだ…」と思った人っていうのは…
菊地 はい。
近田 それを作り続けた人っていうのは…、一人はジェームズ・ブラウンだね。
菊地 ああ〜〜〜。……フレッシュですよね(笑)。
近田 うん。
菊地 もちろん「生肉」って意味でもフレッシュですよね(笑)。ジェームズ・ブラウンはね。
近田 あとはその…タイトルに「FRESH」っていうのがあるからってことじゃないけど…やっぱスライ&ザ・ファミリーストーンは、フレッシュだね。
菊地 ああ〜。
近田 今まで考え付かなかったものだからね、あれ…。
菊地 …そうですね、うん。…でもあっこからずっときてますよね…、部屋に籠って、ブラック・ミュージックを…打ち込みで作って行くっていう…プリンスとかね。いまだに続いてるっていう…。
近田 プリンスはそんなフレッシュって感じはしないのよ。…プリンスはやっぱねえ…、なんだろ…何かあったものを改造していく感じがするのよ。
菊地 なるほど。
近田 …どうしてこれが出来ちゃったんだろう?っていう…。
菊地 そうですね。
近田 例えばジェームズ・ブラウンの音楽って、今までの黒人音楽と違うじゃない。
菊地 明らかにおかしいですよね(笑)、あれね。突然変異ですよね。
近田 どうやって出来たって、俺、考えたんだけど…。
菊地 はい。
近田 あれさ、元はさあ。普通のブルースのコードだったと思うんですよ。
菊地 そうですね。
近田 そのさ、ブルースってコード変わるとこあんじゃん。
菊地 ありますね。
近田 あそこにくるのが延々延びてただけだと思う。
菊地 !(笑)…結構…元も子もないような説明…、なるほど。
近田 いや。これでいいじゃん!っていう…。
菊地 ああ。一発になりましたけどね。うん。
近田 だってさあ、あの最初になんかさあ…ブレイク・ビーツ…?
菊地 はい。
近田 あれ考えた人ってのも…なんか要するに…
(スタッフより残り時間の知らせ)
菊地 …ええ〜!? …もうちょっといい話が出過ぎ……もう番組が終わりなんですよ…。
近田 ほんと? じゃあ、これは今度話すとしよう…。
菊地 (笑)。今夜今から話しましょうか。…近田さん、今、酒とか大丈夫なんすか?
近田 もう…ガンガン…
菊地 ほんとっすか、わかりました。…え〜…じゃあ、まあ…、我々の番組はまだ続きますが、TBSの番組は終わります(笑)。
近田 うん。…あ、そういうもんなんだ(笑)。
菊地 (笑)…え〜…、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔がお送りしてまいりました「菊地成孔の粋な夜電波」、そろそろお別れの時間です。
え〜、それではTBSをお聞きの方、それではまた来年1月6日金曜8時にお会いしましょう。お相手は菊地成孔と、そして本年度最後の放送のゲストは、近田春夫さんでした。どうもありがとうございました。
近田 どうもありがとうございました〜。
菊地 それでは皆さん、よいお年を。
近田 よいお年を〜。