「国道20号線」


「サウダーヂ」の好評を受けて、富田克也監督の前作「国道20号線」がアンコール上映されている。
それを観るために、渋谷のUPLINK Xに初めて行ってみた。
21時からのレイトショーだったので、仕事が終わってから渋谷へ。
だいたいの場所は調べて行ったものの、東急のわきを神山町の方へ奥に入って行くことなど今までなかったため、ほんとにこんなところに映画館があるのか?と不安になるほどだった。
しかも、見つかったUPLINKは1Fがカフェになっている雑居ビルの2Fで、ますます映画館らしくない。チケットもカフェの受付で買うと知って戸惑った。
さらに中に入ってびっくり。ダンスのレッスンスタジオのような板張りの部屋の正面に、学校の視聴覚室のようなスクリーンが吊るされており、座席は形も大きさもバラバラの一人掛けソファが40脚ほど並べてある。…あ、多目的に使えるイベントスペースのようなな感じなのね…。
しかし、平日の21時からの自主制作映画の上映にもかかわらず、ほとんど席は埋まったことからも、「サウダーヂ」を観て興味を持った人が多いことが窺える。
国道20号線」は2007年発表なのだが、先に「サウダーヂ」を観ているので、どうしても比較してしながら観てしまう。
「サウダーヂ」同様に、監督の地元甲府市を舞台に、さびれゆく地方都市で暮らす若者の希望の見えない日常を描いた作品と言ってよいと思うが、「サウダーヂ」ではブラジル移民との軋轢などの要素が加わり、より広い視野から語られているのに対して、「国道20号線」は、個人の生活の荒みをよりリアルに描いている。これはこれで非常に面白かった!。
キャストも、元暴走族でパチンコ通いの日々を過ごし、シンナーがいまだにやめられない主人公のヒサシを、「サウダーヂ」ではビンちゃん役の伊藤仁、そのヒサシの昔からのツレで、闇金融屋の小澤を「サウダーヂ」で主役のセイジ役だった鷹野毅が、2作品に共通して主演している。
他に「サウダーヂ」で強い印象を残した、デリヘル経営者の男を演じた村田進二という役者さんが、同様に怪しいヤクザな男・富岡を演じている。(彼の「…わかる!わかるよぉ〜。」というセリフで笑った人は、先に「サウダーヂ」を観ているに違いない(笑))
とにかく出てくる登場人物の存在感がリアル過ぎる。地方のヤンキーの生活ってここまで荒んでいるのかと思うと暗い気分になってしまいそうだが、それがあまりにリアル過ぎてなぜか笑えてしまう。
そのリアルさも「等身大の自然な演技」とかそういうもんじゃない。カメラは「この現実を直視せよ!」とばかりに、カードローンのキャッシングパチンコ店とラブホテルと大型チェーン店ばかりが立ち並ぶ街並を執拗に映し続けるが、まさにそこで生活している人を実際に画面に登場させ、この空虚な日常が紛れも無く現実であることを観客に突き付けている。その込められた怒りのような作り手のパワーが、異様な迫力を帯びているせいで、「リアルなんだけど狂気じみている」この作品を正面から受け止めざるを得ない。
しかしただ現実を生々しく映しているだけではなくて、ちゃんと映画的な面白みを持たせるような工夫が随所になされ、自主制作映画にありがちな自己満足な表現に陥っていない。
絵的にも観ていて面白いと感じるシーンはたくさんあるし、セリフもユーモアが効いている。
なるほど、これは後に「サウダーヂ」に繋がる要素が、この時点ですでにたくさん詰まっていたのだと感心した。
「サウダーヂ」で、唯一、「このシーン必要かな?」とちょっと疑問に思ったのが、ビンちゃんがバイクで走るシーンで、しかもその撮り方が上手いので逆に気になっていたのだが、この「国道20号線」を撮ったことによって得た技術をちょっと加えたかったというのもあるだろうし、「サウダーヂ」が「国道20号線」と同じテーマでさらに発展させた作品だということを、象徴的に示しているシーンなのではないかと考えたら、すごく腑に落ちた。…両方とも観てよかった。

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