「ヒミズ」にマジ泣き…。


園子温監督の最新作「ヒミズ」が絶賛公開中。
「シネマハスラー」の賽の目映画にも決まったので、今週のうちに観るしかない!
冷たい熱帯魚」「恋の罪」と違ってR-18ではないので、今作は都内でもいろんな映画館で上映されているようだ。
その中で、テアトル系は水曜日がサービスデーなので、ヒューマントラストシネマ有楽町で観ることにした。どっちにしろ必ず行こうと思っていた映画だったが、さらに1000円で観れてラッキー。
(以下、ネタバレ含みます)
冒頭にいつもの「A SONO SHION'S FILM」の文字が出なかったので、やっぱり原作付きということで、完全オリジナルの園ワールドではないということなのかな?…と思ったりもしたが、観始めてものの5分で、「ああ…これ紛れも無く園子温作品としか言いようがないわ…」と安心。
自分は古谷実の原作マンガも好きで何度も読み返していたが、あのニヒリズムの極地のような殺伐としたトーンは、2000年代前半の当時はものすごくリアルで、刺さるものがあった。
この映画版は、原作の骨子は踏まえているとはいえ、震災以後の話に変更しているという。果たしてそれが、漫画を原作とした映画として吉と出るのか…とは思っていた。自分は園監督のファンなので、「絶対すごい作品になるに違いない」と確信していたが、原作ファンからの評価とかはどうなのかと、やや懸念も。
しかし、いきなりフランソワ・ヴィヨンの詩集の朗読から始まるなど、園節全開。
詩人でもある園監督が、言葉に重きを置いているのは間違いないと思うが、言葉の強さは、誰が誰に対して、どういった状況で、どんな時に、どれほどの思いと意味を込めて発せられるかによって大きく変わるということに、特に自覚的だと思う。
ミュージックビデオの監督がその曲の世界を映像で表現しようとするように、園監督は「詩のプロモーションビデオ」を作っているかのようでもある。そのために練りに練ったドラマを作り、俳優の極限の演技を引き出し、視覚的な効果もフル活用する。
今回も随所に印象深いセリフがあったが、それはただセリフだけ抜き出してしまうと、芝居がかっていてリアリティがないような言葉だったりする。
しかし、希望を持つだけ虚しいと自分を押し殺して生きている中学生の住田が、自分勝手に生きて他人に迷惑ばかりかけている大人達のせいで追い詰められ、実際に殴られ踏みにじられる時に、「オレはオマエらみたなクズじゃねえんだ。立派な大人になるんだ!」と叫ぶ時、その思いと意味を何十倍にも増加した言葉は、間違いなく観客の心に突き刺さるのだ。
さらに「あいつには未来がある。あいつに未来を託したい。」などという言葉は、そう容易く吐いてもらいたくないセリフだが、被災しすべてを失ってホームレス同様の生活をしている、渡辺哲演じる夜野が取り返しのつかないことに手を染めてしまい、恐怖に震え、そして目の前のヤクザ(でんでん!)に殴られながら、懇願するようにこのセリフを言うのを見ると、胸を打たれずにはいられない。原作では同級生という設定だった夜野を、わざわざオッサンの役に改変したのはなぜだろうと訝しんでいたが、このシーンを観ると、すごく重要なメッセージを託すためだったということがよくわかる。
また、他にも光石研渡辺真起子黒沢あすかなど、過去の園子温作品に出演した、ファミリーといってもいい役者陣も勢揃いしているが、特に吹越満神楽坂恵、諏訪太郎らには原作にはない役どころを、あえて彼等のために作ってまで出演させている。これは、主人公・住田、そして間接的には彼が体現している被災地の方々を、信頼できる仲間達総動員で、みんなで応援しているということを伝えているのだと思う。
そして最後のシーン。ただ「がんばれ!」というシンプルなメッセージ。そのたったひと言「がんばれ!」を、いかに嘘臭くなく言えるか、そこに向かってドラマを積み上げてきた120分…。それを若い俳優、染谷将太二階堂ふみが全力でぶつかって見事に演じきり(そりゃヴェネチア国際映画賞も受賞するでしょうよ!)、泣きながら、叫びながら、全力で走る…このシーンを観たらついに、今まで堪えていたが堰を切って、自分もマジ泣きしてしまった。
その後、音楽もなく静かにエンドロールが流れたが、それが意外に短くて、涙が乾く間がなかった。…もうちょっとエンドロール長くてもよかったのに(笑)。
「震災以後」ということを特に観客に意識させなくたって、園監督の映画は表現として十分強いものであったはずなのに、どうしても避けて通れなかった…その思いは真摯に受け止めている。傑作。今、観るべき映画だ。

小説ヒミズ 茶沢景子の悠想

小説ヒミズ 茶沢景子の悠想

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