「アンチクライスト」


キネカ大森ラース・フォン・トリアー監督の二本立てを上映していて、行こうかどうしようか迷っていたのだが…。
というのも、デンマークの奇才・ラース・フォン・トリアー監督の作品というのは「とにかくえげつない」に決まっていて、観ても絶対楽しい気分になるようなものではないと思われたから。
この特集上映は、現在公開中の「メランコリア」にちなんで組まれたものだと思うが、昨年公開された「アンチクライスト」は、他の作品を観に行った時によく予告編が流れていて、「うわ〜、またえげつない。…でも…正直、観たい。」と気になっていたのだった。結局観るタイミングを逃してしまったのだが、今また「『メランコリア』気になるわ〜」と思っているこの時に観れるのであれば、やっぱり観ておこうと思いを改めてキネカ大森に向かったのだった。
平日に仕事が休みで時間的に余裕があるとはいえ、夜には映画美学校の音楽美学講座の授業の予定が入っていたし、同時上映のもう一本は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で、これは以前DVDで観たことがあったので、「メランコリア」1本だけ観ることにした。
キネカ大森はいわゆる二番館的な名画座二本立てもやっているのだが、テアトルグループなので、毎週水曜日がサービスデー。水曜休みになることが多い自分にとっては、実にありがたい映画館。1000円で観れるので、無理して二本立てを両方観なくても十分元はとれるというわけ。
ていうか、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」長いし。これも救いがない話だから、両方みたら、きっと死にたくなる(笑)。
アンチクライスト」の内容については、予告編で観た以上の予備知識は入れていなかったが、「夫婦がセックスに夢中になっている間に、起き出してきた幼い息子が窓から誤って転落して死んでしまう」というその設定だけで、「なんちゅう意地の悪いストーリーを思い付くんじゃ…」と呆れていた。
どうせろくなことにはならないんだろう…と思って観始めたが、こちらの想像をはるかに超えて、ろくなことにならなかった!
シャルロット・ゲンズブールの体当たりの演技がヤバイ!」という評判はなんとなく耳にしていたので、きっと幼い息子を亡くした悲しみと、自責の念に苛まれて苦しむ母親を、精神的に感情移入し過ぎて、狂気を宿すほどの演技を見せるのだろう、とは想像していた。そのシャルロットの演技のスゴさが、この映画で一番観たかったところでもあった。(ていうかよくよく考えたら、この映画子役を除いたら夫役のウィレム・デフォーシャルロット・ゲンズブールのたった二人しか出てこないじゃん!)
そして、実際にシャルロットの演技は凄まじかった。ここまでの演技を要求するラース・フォン・トリアーは本当に意地の悪い監督だと思ったし、実際に過去にこの監督と仕事をした役者の大半が、「もう二度とあいつの映画には出たくない」と言っているらしいという噂もよく聞く。(しかしシャルロットは次作の「メランコリア」にも出演しているというから、どんだけマゾなんだ…)
しかし、後半どんどん希望がない展開になっていくにつれて、「単に精神的な病いから回復しようともがく女性の話」というだけには収まらなくなってきた。ほんとに狂気を宿したシャルロットの行動がヤバくなっていって、…これサイコ・スリラーかと思ってたけど、もう完全にホラーじゃん!と思うようになってきた。
実際、何度も目を背けたシーンが出てきて、心の準備をしていなかったおかげで、えらく恐ろしい体験をさせられてしまった。
案の定、なんの希望も救いもない結末。エンドロールが流れる中、「…なんでこんな映画とっちゃうかなあ…。」とぼやくことしきり。
最初から分かってて観に行ったんだろと言われれば、まあそうなんだが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はいちおうミュージカル仕立てだったり(あの暗い話をミュージカルにするところが最悪なんだが)、「ドッグヴィル」ではラストでいちおうカタルシスがあったので、ひょっとしたら…なんか学ぶべきところがあるのかも?…とちょっと期待してしまったのだった。
しかし、この映画を観て、どう感じろっちゅうねん。悪趣味やわ〜。
…といいつつ、「メランコリア」を観に行こうかな、とちょっと思ってもいるのだった…。

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