「ドライヴ」


約1年前の「キラ☆キラ」で町山智浩氏が解説していたのを聴いてから、日本公開を楽しみにしていた作品。
ブルー・バレンタイン」のライアン・ゴズリング主演の「ドライヴ」を、ヒューマントラストシネマ渋谷で観て来た。
映画のカースタントのバイトをしている主人公(名前はなく、ただ「ドライバー」とクレジットされている)は、裏で強盗の逃走を手伝う危険な仕事をしている。
寡黙で孤独なこの男が、やがてアパートの隣に住む子連れの若妻(キャリー・マリガン)に恋をして…という話。それ以上はほぼ知らないまま観た。
〈以下ネタバレ含みます〉
タイトルが「Drive」だし、主人公は凄腕のドライバーなんだから、カーアクション満載のド派手な映画なのかと思いがちで、自分がなんとなくイメージしていたのは「バニシング・ポイント」とか「激突!」とかの、ひたすら車で走り続ける映画だったのだが、この作品は…全然違う。
冒頭こそ、ドライビングテクニックを駆使して強盗を逃がすシーンがあるが、それも何台も車を潰すような事故を起こしながら、追う警察の車を振り切りっていく、よくあるカーチェイスとは違う見せ方をしている。
「とにかくすごく変わった映画だ」と町山氏が語っていたのが印象的だったが、確かにこれは…どう表現したらいいのか困るような不思議な映画だ。
監督はニコラス・ウィンディング・レフンという人で、自分は全然知らなかったのだが、デンマーク出身の奇才らしい。
画面を統一したカラーでコーディネートし、全編スタイリッシュな映像美に貫かれている。ほとんど口を開かないライアン・ゴズリングの、運転席のフロントミラーに映る目を見ているだけでもカッコよくてしびれるし、キャリー・マリガンと、ただ黙って見つめ合っているだけのシーンや、エレベーターの中でのキスシーンのスローモーションなどは、うっとりするほどロマンティック。
格闘シーンをアスファルトに落ちる影の動きを映し続けて見せるあたりなども、実にクール。
そうかと思うと、急に血みどろグチャグチャのバイオレンス描写が出て来たりする。その表現も躊躇無く、そりゃ観客だけじゃなく、恋した相手もどん引きするわ…って苦笑するほど。
ストーリーとしても破綻していて、最後もうひと盛り上がりくるかと思っていたら、「えっ?」という感じで終わってしまう。(彼女を連れて決死の逃亡…っていう展開になると思うじゃんよ、普通。)
主人公の心理描写もほとんどなく、過去についても一切語られないので、なぜこんな危険な稼業に手を染めているのかも、子連れの人妻に惹かれていくのかもわからない。普通こんな脚本では感情移入できなくてボツにされそうなもんだが…。
映像はスタイリッシュなわりに、音楽は80’sヨーロッパの歌謡曲みたいなのが流れるし、バランスはいびつなんだが、なぜか観ていてぐいぐい引き込まれる。
静かなトーンながら、緩急のつけ方が絶妙で、緊迫感もあったし、まったく退屈するところがなかった。
この世界観がトータルでツボに入るか入らないかで賛否両論分かれる作品だとは思うが、自分はものすごく気に入ってしまった。個人的には今年ベスト級の作品になるのではないかと思っている(ほんとかよ)。…なにがどういいのかっつーと、説明しにくいんだけどね。
ちなみに悪役で登場するロン・パールマンは、やはり凄いインパクトのある顔だったが、これが超極悪人に見えないのは「ヘル・ボーイ」の印象が強いからなんだろうな。
普通に考えたら、悪役がちょっと間抜けに見えてしまうと、緊張感がなくなってダメな作品になってしまいそうなもの。…その点でも昨年観た「アジョシ」(ウォン・ビン主演)に印象が近いかもしれない。
宇多丸氏が「哀しき獣」を評した際に、「いろいろ突っ込み所が多いしのは分かるが、これはノワール』というジャンルとしてはオッケー」というようなことを言っていたが、この映画もそういう感じなのかもしれない。(ノワール映画に対する理解が自分はまだまだ追い付いてないな…。「哀しき獣」もう一回観てみようか。)
むちゃくちゃだがこれはこれである意味完璧!と思わせる作品だ。

ドライヴ〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

ドライヴ〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

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