「カフを上げたら…。」

先日の「粋な夜電波」第53回の松尾潔さんとの対談は、実に内容が濃くて、どこを切ってもすごく面白かったです。
番組内でも菊地さんが何度も言っていましたが、「カフを下げた時(マイクの声がオンエアにのらない時)に限って、松尾さんがさらに面白い話をする」ようで…(笑)。
番組の最後に曲を流しながら、リラックスして話すお二人の会話を、こっそりカフを上げて流した部分…さすがにここはポッドキャストには収録されなかったようなので、こっそり文字起こししてみました。
リスナーをあまり意識せずに話せたこの時間、松尾さんの本音の部分も垣間見える貴重なトークになったのではないでしょうか。
(…内容的に問題があってポッドキャストに収録できなかったというわけじゃないといいのですが(笑)。問題がある箇所はご指摘いただければ削除致します)

Water

Water

菊地 え〜…ま、もう散々話題に出ちゃったんで、もうこれかけなくてもいいかなと思うんですけど。
松尾 はい。
菊地 かけますね。かけてる間に二人で面白い話をしようと思います(笑)。
松尾 これBGMにしてずっと喋ってもいいんじゃないですか?…近田スタイルで。
菊地 (笑)…そうしましょうか。…え〜クインシー・ジョーンズの、まあ、それこそ先程言いましたけど、マーキュリーですね。
松尾 はいはい。
菊地 クインシー・ジョーンズヘンリー・マンシーニをカバーしたというアルバムです。
松尾 なるほど。
菊地 え〜…ま、やりたいことは、もういわゆる「クインシー・ワーク」で、1曲目が「子象の行進」、2曲目が「シャレード」…。
松尾 うん。
菊地 一番最後が「ピーター・ガン」、真ん中に「ピンク・パンサー」というふうに、有名なヘンリー・マンシーニ・メドレーが入っていて…。
松尾 こう…照れずに名曲を演るってのは、僕がJUJUのアルバムを作る時に参考にしたことです。
菊地 ん、まあ、そうですね。…で、間にいい仕事が挿み込まれているっていう…。ほら。
松尾 あ、ちゃんと印が付いてますねえ。
菊地 そうなんですよ。これがちょうど間なんだっていうね。…まあ、誰のところでも客演しなかった、怪人・ローランド・カークが、唯一クインシー・ジョーンズの兵隊にはなったっていうね。
松尾 なるほどなるほど。
菊地 有名な…えーと…何でしたか…。「オースティン・パワーズ」並びに、頭にピピッとやる…資生堂の宣伝になった「♪ピッピーピービ…」っていうあの…。
松尾 「UNO」のCMですね。
菊地 そう。あのフルート吹いてんのが…
松尾 「ソウル・ボッサ・ノヴァ」のね。
菊地 そうです。ローランド・カークなんですが、このアルバムでもローランド・カークが起用されております。え〜…有名な曲ではない方、日本では放映されていない「ミスター・ラッキー」という仕事がですね。
松尾 はい。
菊地 え〜…ヘンリー・マンシーニの中でも実はサントラ・マニアの中でベストと言われてまして、それをちょっと聴きながら、リスナーの方には聞こえない、超面白い話をしよう…(笑)という感じですね。
松尾 (笑)。
菊地 ちょ、途中で試しにふわっと上げたりしてみましょうか。…あんま、やられないですからね。まず、曲流しちゃいましょうね、これ。
(曲)

Explores the Music of Henry Mancini: Originals

Explores the Music of Henry Mancini: Originals

菊地 一回落として…。
(…しばらくして、オフレコの体で話す会話がフェードインしてくる)
松尾 …そうそう、トニー・ベネットはほんと素晴らしかったな。ま、もちろん…。
菊地 今日ね、3枚持って来ていただいて、そのうち1枚をかけるわけですよね。
松尾 そう、名前だけでも言いますかね。
菊地 そうですね。
松尾 グレゴリー・ポーターは僕はやっぱり最近のシンガーで一番好きなんですよねえ。
菊地 いいですよね、はい。
松尾 前のデビュー・アルバムの「Water」も好きでね。
菊地 「Water」ね。
松尾 「1960 What?」っていう…
菊地 あったあった。
松尾 あれが最高ですよねえ。
菊地 あれ、超いい!…うん。まだ番組でかけてないですけどね。あとは、ニコラス・ペイトンの「Bitches」を持って来ていただき、ところが、かかるのが何かっちゅうと…。あ、向こういっちゃったか…
松尾 トニー・ベネット
菊地 トニー・ベネットですね。
松尾 トニー・ベネットは前から…まあ、うちの父親がジャズ・ヴォーカルを好きだったんで、たくさん聴いたもののひとつですけれども。
菊地 さっきなんか…お父さんが…み、右っぽい人だったっていう発言が…ペラッとオンエア前に出てましたけど…どういうお仕事をされてたんですか。
松尾 いやいや、まあ…。
菊地 仕事とは関係ない?
松尾 仕事とは関係ないですね。…まあ、若い時はなんかいろいろやんちゃやってたみたいですけれども。
菊地 ほう。九州ですよね。
松尾 そうですね。若い時はまあ…こっちで右寄りの活動をやってたみたいですけど(笑)。
菊地 (笑)…それで江藤淳の講演を見に行ったら、エーロクさん(永六輔)が付いてたという…。
松尾 (笑)…そっちのほうにね、けど人生なびいちゃったっていうのも面白い話なんですが…。
菊地 はい。
松尾 そうそう。まあ、昔の不良少年のたしなみとしてジャズが好きで…。
菊地 はい。
松尾 そん中のひとつとしてトニー・ベネットを聴いたりもしてたんですけど。
菊地 はいはい。
松尾 ま…「長生きも芸のうち」って言葉あるけど、トニー・ベネットの…なんでいうんだろう…ま、若い時はすっごいきれいな声なんだけど、もう60歳以降…ま、彼今85だけど。
菊地 85ですね、はい。
松尾 60歳以降でちょっとこう…なんてのかな…悪声に入りかけているところに、僕、惹かれるんですよね。
菊地 うん、そうですね。あれは…ま、いわゆる「ダミってきた」っていう…。
松尾 そう、ダミってきたっていう感じで、で、「Fly Me To The Moon」っていうのが、すごく…ま、いろんな人歌ってるけど、トニー・ベネットが僕すごい好きで…。
菊地 はい。
松尾 で…「Fly Me To The Moon」って元々「In Other Words」っていうのが原タイトルで…。
菊地 はい。
松尾 で、アメリカのあれですよね…アポロ計画の時に「Fly Me To The Moon」っていうね…。
菊地 そうそうそう。
松尾 乗っかって。
菊地 乗っかってね。
松尾 で、確かシナトラ・バージョンの「Fly Me To The Moon」を、月に…アポロ10号…11号…持ってったんじゃなかったんでしたっけ。
菊地 …かなんかですよね。持ってったのか…
松尾 月面で初めて鳴らしたとか…。
菊地 そうそうそう。
松尾 ね、確かそうですよね。
菊地 そうそうそう、うん。…ま、月に行ってればの話ですけどね(笑)。
松尾 けど、その時期っていうのは、トニー・ベネットって、やっぱフランク・シナトラ…同じね、イタリアンの先輩っていうか領袖である、シナトラの陰に隠れて、多少目立たなかったわけですよね。
菊地 そうですね。
松尾 けど、さっき「長生きも芸のうち」って言ったけど…。
菊地 「長生きも芸のうち」ですよ。だってブルーノート東京のイメージアイコンですよ、トニー・ベネット
松尾 そうですよね。そうそうそう、あそこに来たんですからね。
菊地 いや、ほんと。オープニングとともにね。…うん、このままかけてしゃべりながら終わりましょうか。
(曲)

松尾 そう、だから僕、ブルーノートの人に「トニー・ベネットまた呼びましょうよ。」って言ってんだけど。
菊地 はい。
松尾 もうね、今アメリカでギャラが高騰してね、合わないみたいで…。
菊地 ブルーノートでも?。
松尾 ブルーノートでも。
菊地 うーん。
松尾 で、こないだシドニー観に行って来たんですよ。もう、じゃあ行くしかないなってことで。
菊地 はいはいはい。
松尾 あの…シドニーだったら時間作れそうだから。
菊地 (笑)…なにげにやっぱりリラックスした時にカッコいいの出ますね。「シドニーだったら時間作れそうだ」っていう…(笑)。
松尾 いやいやいや(笑)。
菊地 新大久保だったら時間作れそうですよ(笑)。
松尾 もういつでも乗りますけど。それはそれでいつでも乗りますけど。
菊地 高田馬場だったら時間作れそうですけどね。…そうですか。
松尾 だけどね、「Fly Me To The Moon」…「In Other Words」…要するに、詩人ってのは難しいことをいろいろ…
菊地 うん。
松尾 あのね、簡単なことをいろいろ難しい言葉並べて言うけど、要するに「I Love You〜」って終わるわけじゃないですか。
菊地 そうですね。はい。
松尾 で、これって、夏目漱石が「I Love Youってのはどう訳したらいいんですか?」って…。
菊地 うんうん。有名なね。
松尾 彼が旧制高校のね、先生だった時に。…そしたら「月がきれいですね』とでも言えばいいんだ」っていうのと、まったく符号してるなって…。
菊地 (笑)…そうですね。
松尾 だから、僕はすごくあの…黒人音楽とかジャズとかが好きで…。
菊地 はい。
松尾 で、そういう…好きな自分と、歌謡曲のプロデューサーになってしまった自分っていうので、すごく…なんていうか…悶々とした気分もあったんだけど…。
菊地 …そんななんか…昔のモダニストみたいな葛藤があるんですか、松尾さんにも。
松尾 ん?…ま、ちょっと気取って言ってるんですけど。
菊地 (笑)。いやいやいや、まあまあまあ。
松尾 「なんだ、こう…違う山の登り方で、結局はトニー・ベネット夏目漱石同じ景色を見てるんだ」っていう…。
菊地 おお〜っ。
松尾 …で、腑に落ちて。
菊地 はい。…すごいセレブリティな合理化ですね、それは(笑)。カッコいいな。
松尾 …そんな大層なことでもないですけど。
菊地 いやいや。すごいですね。はあ〜。
松尾 で、「Fly Me To The Moon」ね、ショーの最後にアカペラで彼は歌うんだけども。
菊地 はいはい。
松尾 まあ、彼にとってもこの歌は特別なんだなっていうのを確かめたんで。
菊地 はい。
松尾 まあもう…いつトニー・ベネットが天国に召されても、こっちは心の覚悟はできてるっていう感じですかね。
菊地 なるほど。ほう…いい話ですね。
松尾 あとこれ65年のこのアルバム、「Songs For The Jet Set」ってのは当時チャラいタイトルなんですね。
菊地 ま、Jet Setがね。
松尾 はい。「ジェット族のためのアルバム」って…なんだこの薄い塗り方はって感じなんだけど。
菊地 はい。
松尾 けどやっぱこれがあのぐらいの時代の淘汰に耐えて…。
菊地 はい。
松尾 「あ、元不良ってカッコいいね」みたいな…とこにきて。
菊地 うーん。
松尾 だから僕は昔からあの…一番売れてるとこで仕事辞めたいとか思ってたけど。
菊地 はい。
松尾 長生きしたいと最近は思ってます(笑)。

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