「自由人どうしの師弟対談。」

第58回の粋な夜電波は、菊地先生の大恩人に当たる山下洋輔氏をゲストに迎えての師弟対談。おふたりとも本当に楽しそうに語っていらっしゃったので、聞いている方もすごく元気がもらえた、実にいい対談でした。…ジャズメン、憧れるなあ。
番組後半の、いつまでも自由で楽しくいられ続ける山下さんの元気の秘訣が窺えた部分を文字起こししてみました。

プレイグラウンド

プレイグラウンド

菊地 はい。え〜「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションにして、全国にお送りしております。え〜、今週はワタシの師匠であります、ジャズピアニストの山下洋輔さんをゲストにお迎えしております。…と、いう感じですけれも。
これ…さっき…あの…コマーシャル中にね。話題に上がったんですけど、今日かけた、最初にかけたギル・エヴァンスの「INTO THE HOT」。
山下 びっくりしました。…なんて面白いんだと思って、聞いたら、セシル・テイラーが弾いてるんだって(笑)。
菊地 これはセシル・テイラーのいわゆるネフェルティティ・コンサートっつって、62年…かな。…に、セシル・テイラーがガンとブレイクする…、ま、もうちょっと前からやってましたけど、…の前に録音された、61年のレコーディングで、作・編曲、コンダクツがギル・エヴァンスで、演奏してるのがセシル・テイラーのチームだっていう…。
山下 すごいですねえ。
菊地 変わってますよね。
山下 ほんと、アレンジされてるってとこがあって。なんかね、僕はね、今の菊地さんの最新作…。
菊地 はいはい。
山下 あれにすごく似てると思いましたよ。
菊地 あ、そうですか。あ、こんなに素晴らしいものじゃないですけど(笑)。
山下 いや、まあ、それはもっともまた、別の新しいコンセプトだけどね。
菊地 ああ、いえいえ。
山下 …菊地バンドは。…なんであんなこと考えつくのかなあ。変な…もう…ポリリズムでリズムは全員違うし、あの…ハーモニーも全員違うし、メロディも全員違うでしょ。
菊地 まあ、そうですね(笑)。
山下 それを全部コンダクトしてんだよね、菊地成孔が。
菊地 そうですね、はい。コンダクトしないと、ただの…なんていうか、集団フリージャズになるんで。
山下 (笑)。
菊地 切ったり貼ったりして遊んでんですけど。
山下 いやあ、面白いわ。うん。
菊地 いや、すべては…なんていうか、山下イズムですよ。それを言ったら。
山下 いやいや。あの…どっかの、いわゆる「ク・ラ・ブ」のライブだよな(笑)。
菊地 「ク・ラ・ブ」のライブですね。
山下 「ク・ラ・ブ」のライブ…かっこよかったなあ。踊って大騒ぎ、大ウケだったね。
菊地 あの〜、でもそれ言ったら、まあ…なんでもこじつけたらキリないすけど。
山下 うん。
菊地 山下さん…ていうか、山下トリオっていう運動体こそが、進んでフォークのライブとか、ロックのライブ出てたじゃないですか。
山下 はいはいはい。
菊地 要するにジャズ…最初はもちろんジャズクラブ、なわけで。要するにムラ社会なわけなんだけど、あの…率先して出て行かれましたよね。
山下 そうそうそうそう。周りにいるヤツがね、もう…その…あんなムチャクチャ音楽やったから、ジャズの方ではあまり呼びにくかったのかもしれないね。
菊地 (笑)。
山下 (笑)。だから、周りのヤツが…
菊地 そんな消極的な理由だったんですか。
山下 そうだよ。…「こいつらジャズじゃありません、ロックです。」とか言っちゃって。
菊地 ああ〜なるほど。
山下 それでその…出ちゃったんですよ。あの…中津川(フォーク・ジャンボリー)もそうだったし…。
菊地 中津川、そうですよねえ。
山下 それから、武道館であいうえお順に全部やったのよ。
菊地 ああ…はいはいはい。
山下 浅川マキから、赤い鳥から、青い三角定規から…。
菊地 はいはいはい。
山下 そいでずーっといくと、最後に三上寛の後に山下トリオで、その後が吉田拓郎という。
菊地 (笑)。
山下 とんでもないよ。ドワ〜ッとか演ったらさ、女の子がさ、「帰ってよ、帰って帰って!」(笑)。
菊地 (笑)。
山下 「帰れ、帰れ!」じゃなくて、「帰ってよ!」って、かわいらしいんですよ(笑)。
菊地 …まあ、当時のヤジとか想像すると、やっぱりその…今ね、演奏で、やれヤジられただの、あの…なんだツイッターですか、などで…。山下さん、結構パソコン導入も早かったですよね。
山下 うん。早かった。
菊地 SNSとかされてます?
山下 う…。なんですかね、僕は最初に「アンコール」というパソコンソフトで、Macを買ったの。
菊地 あの〜…なんての…。
山下 すごい、小っちゃい…何っていったっけね。Mac…こんな小っちゃな画面で、まだ白黒で、もちろん。
菊地 にわかに、一瞬おじいさんっぽくなりましたけどね(笑)。
山下 (笑)。
菊地 例えば、ツイッターとかですね、あと何ですか…。そんなこと偉そうに説明してるテメエがわかんないんですけど。え〜…例えばYouTube見たりとか、そういうのされてます? インターネットとか…。
山下 してません、してません。
菊地 してないんですか。
山下 僕がね、パソコンが欲しかったのは、その前にワープロで字書くのがとっても便利だったので…。
菊地 はいはいはい。
山下 これを音譜でもできないの?って、聞いたら、それはマッキントッシュしかありませんって。それで、無理してまだ高い頃に買っちゃったんですよ。
菊地 …知ってる(笑)。ある時から…これはまあ、ラジオでしかできないいい話っていうか、ある時から山下さんの現場の譜面が、パソコン出力になったじゃないですか。
山下 はいはい(笑)。
菊地 PC出力になって。それまで手書きだったわけですよね。
山下 はいはい。
菊地 で…うちらファンだったから、「風雲ジャズ帖」とかに載ってる「Gugan」の書き譜とかがさ、こう載ってるわけじゃないですか。
山下 はい。
菊地 そいで、当然、山下組に入るんだっつって、こう…譜面が来る…で待ってると、手書きのあれが来るんだと思って、もうこんな…家宝にしようと思って待ってたら、なんかパソコンのプリントの…間違ってる(笑)…
山下 そうそうそう(笑)。
菊地 ノーテーションがぎこちねえ、なんかこう…3小節で1段になってたり、譜面が飛んで次のにこう…引っ掛かっちゃって…(笑)。誰かちゃんとしてやれよっていう…出力の楽譜がなんか、意気揚々と「ほら、これだ。」っつって。
山下 書けないまんまに渡しちゃって(笑)。いくらやってもダメなんだよ。
菊地 「山下さん、この譜面おかしいです。」って言えないんで(笑)。
山下 いやいや、それを言ってもらおうと思って渡してるんだけど。
菊地 もう…わけわかんない、ページ数とかばっかりちゃんと入ってたりなんかして。「これ読みづれえな、手書きになんねえかな〜」と思いながらこう…毎回毎回ね、意気揚々たる感じでプリントアウトがくるんで(笑)。
山下 (笑)。
菊地 でも、まあ読めちゃいましたけどね。あれのために買ったんですか。
山下 そうなんです。
菊地 なるほど。…いや、だからね、さっきの話はその…、やれその…「インターネットでライブ来た客が悪口言った」とかね、なんとかいって心がポキッと折れるひ弱なミュージシャンが多いんですけども、山下さんの頃は「あんなもん、何妙法蓮華経だよ」とか言う人がいたり、「ソロ長えぞ!」というテンプラ屋がいたりした(笑)…いたんですよね。
山下 (笑)。
菊地 その場で言うんでしょ。
山下 その場で。終わったらすぐに。…そん時はエルヴィン・ジョーンズのセッションだったのよ。
菊地 はいはい。有名なね。
山下 エルヴィンが風邪をひいてんのに、「おまえはくだらないソロ延々とやりやがって!」とか言われちゃって。
菊地 その演奏中にヤジられて、そんで、どうしたんですか、そん時は。
山下 それは終わってからだったけど。「何を〜!」(笑)。「お前の言うことなんか誰が聞くか!
菊地 (笑)。
山下 それから、あとはゲバ学生的なやつが、フリージャズになってから聞きにくるでしょ。
菊地 はいはい。
山下 この人たちはやっぱり、あの…ちょっとこう…黙らせないといけない、という…。
菊地 はいはい。
山下 そういう動機はありましたよ。早稲田のバリケードの中で演った時なんかはね。
菊地 あの時は極端ですよね。
山下 うん。
菊地 あれは最初から仕込みで、喧嘩させようっていう…(笑)。もう…そっちはそっちでテレビ屋悪いじゃないすか。
山下 そうそう、田原総一朗限定ですけどね…。
菊地 田原総一朗さんですよね。…なるほどね。
山下 そいで、覆面とヘルメットとゲバ棒持ってこうやって聞いてるんですよ。
菊地 はいはい。
山下 で、もしも反対派が来たら暴れるぞっていうのがあって。
菊地 はい。
山下 それはでもね、音楽に対しても向けられてたって、僕らは感じてたの。
菊地 なるほど。
山下 そんで「つまんねえ音楽を聞かせやがったら、革命家の俺達が許しちゃおかない」…
菊地 許しちゃおかないってね、ま、そのムードですよね。
山下 そう。その…あったんですよ、緊張関係は。
菊地 演奏がつまんなかったら、自己批判だっていうね。
山下 そうそう(笑)。その場でゲバ棒で殴るっていうような…(笑)。ま、そういうことは起きなかったけど。
菊地 起きなかったんですよね。ただ、緊張感はね。
山下 そうそう。
菊地 緊張感はね、やっぱヨーロッパなんか行っても緊張感…。僕がその…山下さんにヨーロッパ連れて行っていただいて、その…一番びっくりしたのは、あの…いい!っていう時の反応がデカイじゃないですか。
山下 はいはいはいはい。
菊地 ものすごいデカイですよね。日本じゃ聞いた事のない圧力の。
山下 うん。
菊地 それは人数が多いとかじゃなくて、まあ…150人収容のニュールンベルクの地下のカフェとかで演って。
山下 うん。
菊地 まあまあ、150人くらいじゃないですか。で、当時ハイエイトで。…まあ、あのハイエイトも元はエロい目的で持ってたんですけど(笑)。
山下 (笑)。
菊地 そのハイエイトで、その…まあ、録画しますよね。拍手のシーンになると、リミッターが振り切れて拍手が割れるんですよ。
山下 やったー!
菊地 あの…ものすごい拍手がきますよね。
山下 そうそう。
菊地 ヨーロッパ、日本と全然違って。日本の聴衆はなんというか、能狂言っていうかね、静か〜な感じのサーッっていう拍手に対して、ものすごい肉食の拍手がドカーンってくるじゃないですか。
山下 肉食の拍手ね(笑)。それがとっても気持ちがよくなっちゃう…ことが多いね。
菊地 ですよね。あれで相当やられますよね。でも、それで喜んでると、嫌がる人もすごいじゃないですか。
山下 うん。そうそうそうそう。
菊地 ですよね。僕一回ベルリンで、これは山下さんのグループじゃないですけど、あの大友(良英)ってやつのグループで、やっぱりヨーロッパ回ってた時に。
山下 最先端だねえ。
菊地 最先端っつっても、もうすでに20年くらい前ですけども。あの…ベルリンで、演奏終わって、楽器パッキングしてたんですけど、店が小っちゃいんで、夏だったから、路上でパッキングしてくれって言われて、店の外出て、店の裏でパッキングしてたら、最前列にいた黒人が来たんですよ。
山下 うん。
菊地 で、演奏中はね、まあまあ喜んでたわけ。で、「YO!」って言うから、こっちは演奏してたし、一番最前列にいたし、「YO!」って言った瞬間に、サックスのストラップ、いきなりガーッと引っ張られて、演奏が気に食わないっつんで、ボコボコにやられたことあります。
山下 なんじゃ、そりゃ!(笑)。…そいつはなんか…。
菊地 物盗りだったんですけどね。
山下 物盗りだったんですか(笑)。
菊地 あの…財布持ってパッと投げたら、そっちにバーッと行ったんで…。
山下 何よ、それ(笑)。
菊地 一命をとりとめましたけど。…あの、怖いことも怖いですよね。あの…ヨーロッパね。ヨーロッパのヤバかった話、ラジオで出来るギリギリなんで、今のだいぶ端折ってますけど。
山下 うん。
菊地 あの…怖いこともあるし、面白いこともあるし。
山下 だからあの拍手には、こっちは落とされちゃうんですよね。そいでその…例えば僕らの場合だと、何遍も何遍も言ってるけど、5月あたりのメルス・ジャズフェスで、何千人にそれをやられて。
菊地 はい。
山下 そしたらその秋に、ベルリン・ジャズフェスとドナウエッシンゲンに、迎えられちゃうわけだよ。
菊地 そうですね。
山下 で、そういうことがあって、そうやって「オレたちは大ウケしたぞ〜」といって日本に帰って来ても、実は日本ではあまり…変わってないっていう現実があるので(笑)。
菊地 (笑)。まあ、でも、日本の人々はやはり、結局はんなりしっとり優しい人達なんで、心はどんなに盛り上がってても、ワーッていうのの音量が低いのは、しょうがないんじゃないかと思ってるんですよ、最近。
山下 なるほど、なるほど。…よくさ、「オレはヨーロッパで大ウケしたのに、日本の奴らは全然ウケない。日本人はバカだ〜」というアーティストがいる…かもしれないんだけど、それは間違いなんだよ。
菊地 そうですよ。
山下 日本での歴史はまた自分で作んなきゃ。
菊地 そうですよね。
山下 うん。ヨーロッパでウケるってこと、よくあるのよ、これ。
菊地 ヨーロッパ人のあの音楽のウケ方ってのは、半端じゃない。
山下 半端じゃない。
菊地 半端じゃないですよね、ほんとに。あれはね、音楽家としてステージ上がるまでは、わかんないですよね。
山下 ああ〜。
菊地 行くまで全然わかりませんでした。山下さんの本読んでるでしょ。めちゃめちゃドナウエッシンゲンとかメルスでウケてるってのは、山下さんの筆致によって「あ、ウケてんだろうな〜」って思って行ったんだけど、実際一緒に演ってウケたら、こんなのか!って想像10倍ぐらいの大きさなんだよね。
山下 そうそう(笑)。
菊地 でもそれ、マイルスも言ってんですよ。「パリに行ったら一流スター、アメリカに行ったら無名の黒んぼだ」って。
山下 うわ〜(笑)。
菊地 それでキレ続けてそんなもんですよね。「死刑台のエレベーター」のアメリカのプレミアム上映には呼ばれなかったんですよ。
山下 ありゃりゃりゃりゃ。
菊地 フランスではもう大スターで主席に座ったんだけど、アメリカはね、呼ばれなかったんですよ。
山下 なるほどなあ。それはヨーロッパ事情をよく表してるな。
菊地 表してますね。
山下 みんな移り住んだもんね、その後ね。ヨーロッパにね。
菊地 そうですね、ケニー・クラークとかね。…いやあ…もうなんていうか、話題が汲めども尽きぬので、あの時のあの話っていうだけで、多分1時間いっちゃうんで。
山下 1時間いっちゃう(笑)。
菊地 いろいろあるんですけど。でもやっぱりなんていうのかな…。結局、山下さん、あるいは山下さんより上の世代の…、プレイヤーの大先輩ですけど、その…まず健康だし、まあアンチエイジングっていうか、さっきもちょっと言いましたけど、いつまでも老けないし、もうこんなヨウヨウになっちゃってる感じの方っていないじゃないですか。市川秀男さんとかだって、スゴイですもんね。
山下 そうだねえ。僕より上には…ま、例えば渡辺貞夫さんもいるし。
菊地 そうですよね。貞夫さんもお元気ですしね。
山下 音出したらもうバリバリですからね。
菊地 「秘訣はありますか?」っていう質問がサブからきてますけど、秘訣は何ですか。
山下 秘訣は…(笑)やっぱり面白がり続けるってことでしょうね(笑)。
菊地 やっぱね。あの…暗い顔…当たり前…これ言うと、瀬戸内寂聴さんみたいなね、お坊さんみたいな話になっちゃうんですけど(笑)。
山下 (笑)。
菊地 あの…いろいろ人生は地獄なんだけど、暗い顔してる順から堕ちていきますよね。僕そのことを山下さん見てるとほんとに思うんですよ。
山下 ほう。
菊地 あの…やっぱりどっかで哲学的な斜が入っちゃうと、どっか壊されるじゃないですか。…山下さんが何にも考えてないってわけじゃないんですけど(笑)…。
山下 いや、そう言ってる、そう言ってる。
菊地 いやいやいや(笑)。山下さんなりの苦悩とかね、あられると思うんですけども。そんな笑って言っちゃあいけないんだが。…もう行った先で囲碁打ったり、面白い変なヤツが楽屋訪ねて来たり、ずーっと面白いじゃないですか。
山下 まあ、そうですね。
菊地 結局ずーっと面白いですよね。「山下さん、シブくなっちゃってさ、面白くなくなっちゃったんだよ。」っていうのは、多分ないですよ、これからも。

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