「シネマヴィジョナリーズ」

甘い生活 プレミアムHDマスター版 ブルーレイ [Blu-ray]

甘い生活 プレミアムHDマスター版 ブルーレイ [Blu-ray]


銀座のGUCCIのビルの中になんて、初めて入った。
入り口にドアボーイがいるようなブランドのショップなんて無縁の生活をしているので、グッチのビルがどの辺にあるかなんて、気にしたことすらなかった。
しかし、今回は堂々と中に入れる理由がある……映画を観に来ただけなんだもんね。
高級バッグとかには目もくれないし、買える身分でもないけど、このビルの6Fにだけは用事があるんだもんね!…と内心ビビリながらも開き直って突入。
今月よりGUCCI銀座の6Fに開設された「シネマヴィジョナリーズ」は、クラシック名画のフィルムを修復して公開するというシネマルーム。
水・土・日に一日一度13時から、限定20名(要予約)に上映してくれる、この貴重なミニ映画館は、なんと無料!
文化財保存の大義に一役買っている、さすがはグッチ、太っ腹!

その第一回目の上映作品が、フェデリコ・フェリーニの「甘い生活」。
ちょうど観たかったし、たまたま水曜日休みなので、メールで予約をとり、この日上映会に入れてもらえる幸運に恵まれたのだった。
今頃になって「甘い生活」を観たくなったのは、ちょうど今発売されているHDリマスター版のBlu-ray Discの解説文に、菊地成孔先生が寄稿されているというのを知ったから。しかし、我が家にはBlu-rayを視聴する環境がない。
いずれにせよ、前々からフェリーニの「甘い生活」はタイトルだけは知っていて(弓月光の同名コミックではないよ…)、いつか観たいと思っていた作品で、それは「村上龍映画小説集」という村上龍の中でも特に好きな一冊の一話目が、この映画に関連していたから。
有名な映画のタイトルを各篇の題に掲げたこの連作短編集は、「限りなく透明に近いブルー」と表裏に当たる内容で、怠惰な生活の中で自分を見失いかけながらも、無力感に必死に抗おうとする若者のエネルギーが感じられて、何度となく読み返しては勇気を得ている、自分にとってはかなり重要な一冊。
この中で挙げられた映画はいずれ観たいと思ってはいたが、古い作品が多くて、なかなか観れずじまいのまま。
そこに(重ねて言うが)無料で!…しかもデジタル修復されて高画質で!…「甘い生活」が観れるというのは絶好のチャンスだったのである。
限定20名のシネマルームは、大きいソファが並べられ、肘をついてゆっくり観れるようなゆとりある空間。お土産用の封筒には、名画の名シーンを厚手の紙に印刷したきれいなカードが数枚入っていて、今後上映予定の作品の紹介にもなっている。細かいところまで高級感があるのはさすがグッチか。大人数が入る広さの部屋ではないのに、スクリーンは思っていたより大きく、音もかなりいい。
甘い生活」を観るのは初めてなので、昔と比べてどうかというのはわからないのだが、フィルム傷によるノイズなどは全くなく、コントラストもくっきりしていて、とても50年以上も前の作品とは思えないほど。
始めのうちは、出てくる景色、建物や小物の数々、そして何よりも登場する人物が美し過ぎて魅了された。しかしモノクロで、時折音楽もなく会話だけが続くシーンがあったり、何しろトータルで3時間近くもある作品なので、気付けばうつらうつら眠気にとられていたりもした。
村上龍の小説の中では、主人公がこの作品を観た後、フェリーニの凄さに圧倒されて、「ひどく興奮し、同時にひどく打ちのめされた」というので、どれほどすごい作品かと期待していたのだが、正直内容的にはあまりピンとこなかった。
ただただ、デカダンへの憧れが増し、いい時代があったんだなと遠い憧憬の念が浮かぶばかり。
しかしこんな爛熟期のローマの優雅で退廃的な生活を映しだす作品を、銀座のど真ん中の高級ブランド店の一角で観たというのも、なにかと象徴的な経験が出来て貴重だった。
村上龍映画小説集

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