「『元祖萌え』の吾妻先生、降臨。」

ポスト非リア充時代のための吾妻ひでお』(河出書房新社)の刊行記念トークイベントに行ってきました。
LIBRO池袋本店が主催し、池袋コミュニティ・カレッジのホールで行なわれたこのイベントの前売りチケットは発売日早々に買ってあったのですが、予想していたよりも大人数が収容できる広い会場で、しかも満員。
観覧者の客層も幅広く、特に年配の方が多く見かけられたのは、昔からの吾妻先生のファンの根強さのあらわれでしょうか。
「元祖萌え」とも称され、多くの作家に影響を与えた存在でもあるので、いわゆるアニメ・マンガオタクっぽい方も多く、菊地先生のファンだけでは成立しないような独特の雰囲気の中で、登場したお二人の対談がスタート。
吾妻先生が人前に出るのが大変苦手そうなのは見るからによくわかったので、なおのことこの場がいかに貴重かというのも実感。
うつむき加減で言葉少なに朴訥とした語りの吾妻先生から、なるべく多くを引き出そうと、司会者と菊地先生がいろんな角度から語りかけていたが、ボソリとつぶやくその回答がやたら面白かったのはさすが。実感をともなった言葉の重みを感じました。
今回の吾妻ひでおベストセレクションの第二集を監修された菊地先生が、いかに先生を敬愛しているかも伝わってきたし、格闘技好きなど意外な共通点もあって、おふたりの相性の良さによる和やかなムードの中、話が佳境に入ってくると静かに熱も帯びていく…。
選集の菊地先生の解説に対する吾妻先生のアンサーの中で、秋葉原メイドカフェに行かれた時のエピソードを引き出したのが最大の功績だという話から、菊地先生が現在の「萌え文化」に対する「元祖萌え」のご意見を伺うと、「『萌え』には慈しむ心が含まれていると考えているが、現在の秋葉原などには純粋性が感じられない。天然ではなくて演技としての可愛らしさを商売にしている。」などという本質を鋭く付いた発言も出ました。
「物語の空想に思い入れを持つのが正しい『萌え』ではないか」と遠慮がちに語る吾妻先生を、「造物主から見ると、現代は頽廃しているということだ」と、面白くフォローする菊地先生…。心から憧れている人の前に立つと、ボーッとしてうまく喋れないと言いながらも、「『失踪日記』で奇跡的なカムバックを果たした先生から、タフネスを学んだ」と感動を露わにし、会場の深い共感を呼んでいました。
「吾妻先生が現場から離れていた空白の時間をどう思っていましたか?」という司会者からの問いに、菊地先生が「吾妻先生が不在の間に、『萌え』というものも何段階か変化し、それが世の中の大きな変化を象徴しているということを考えながら、SPANK HAPPYをやっていた。…SPANK HAPPYの真のリーダーは吾妻先生だと言っても過言ではない。」と答えられたのが、個人的に最も面白いと思ったところで、コミックカルチャーと菊地先生の音楽に接点を見出せていなかったのが、なぜかすとんと腑に落ちた気がしました。
おふたりとも筒井康隆先生の大ファンだというところも共通しており、吾妻作品の特徴のひとつでもある「不条理SF」に、筒井作品が大きな影響を与えているということもわかり、菊地先生の方も兄の菊地秀行先生の影響で筒井作品に入ったという流れも明らかにされたので、いろいろ繋がっていることがわかって面白かったです。
この対談自体が成立したことも貴重でしたが、様々な重要な発言が聞けて、とても有意義な時間が過ごせました。