「新しいマイケル・ジャクソンの教科書」

新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書 (新潮文庫)

新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書 (新潮文庫)

自分は特に熱心なマイケル・ファンというわけではないが、やはり世代的に世界的スーパースターといえばまずはMJ(今でこそMJといえば、みうらじゅん先生だが。)、その音楽もパフォーマンスも、あらためて再評価する必要を感じないほど、圧倒的なものとして擦り込まれている。
確かに晩年は「堕ちた偶像」扱いされ、スキャンダルでしか近況を知られていない状態が、結局亡くなるまで続いていて、あれだけのスーパースターがなぜこんな扱いを受けないといけないのだろう…とは思っていた。
熱烈なマイケル・ファンでもあり、彼の研究家でもあり、自身がマイケルに憧れて音楽を始め、プロにまで辿り着いたミュージシャン・西寺郷太氏は、その愛の分だけ、マイケルが正当に評価されないことへの腹立たしい気持ちも大きかったに違いなく、本書を著す動機にその怒りのパワーもあったことも想像できる。
西寺郷太氏は実は同じ大学の同じ学部出身。(自分は中退だが、1浪して1年生を2回やっているので、ひょっとしたらキャンパスですれ違ったりしていたかも…と思って、今では勝手に親近感を持っている。)Nona Reevesも耳にしたことはあったが、「小島慶子のキラ☆キラ」を聞いてしばらく経つまでは、ノーナのヴォーカリストと、この音楽に詳しくて文才もある関西弁の面白いあんちゃんがなかなか一致しなかった。
同世代とはいえ、自分にとっては80年代のファッションや音楽は、いまだにど〜しても恥ずかしいものと感じられてしまい、西寺氏のように大いなる愛をもって肯定的に語ることができない。それでも彼の語りと共に紹介されると、当時の音楽が「確かにいい曲だったし、今聴いてもいいな!」と思えるので、すごいなと感心してもいたのだった。
その西寺氏の渾身のマイケル評論本。内容の濃密さは半端ない。以前からいずれ読みたいと思っていたので、文庫化された機会にちょうどいいと思って買ってみたら、面白くて一気に読み終えてしまった。
文庫版の解説に湯川れい子さんが書いているように、マイケルにかなり詳しいつもりでいた人でも驚くような新事実もふんだんに盛り込まれているようで(それは多分にプロのミュージシャンならではの楽曲の分析や深い解釈によるところが大きいのだろう…)、さんざん語られ尽くされた感のあるマイケル・ジャクソンについての最新の評論であり、決定版として重要な一冊になっているのは間違いない。
それでもやはりこの本が他の評論・伝記本と異なるのは、あくまでもファンとしての視点をキープし続け、決して上から目線で決めつけたり、暴露本的な秘話のひけらかしにならずに、愛に満ちたまま語り通しているところだと思う。
マイケルの残した功績は50年後、100年後も輝きを失わないということに微塵も疑いを抱いていないからこそ、彼の音楽家としての素晴らしいところ、パフォーマーとして天才的だったところを、まっとうに評価してもらうための基準を示したいという純粋な動機が、さわやかな読後感を生んでいるのだ。

"CHOICE II" BY NONA REEVES

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