「『シャボン玉ホリデー』の思い出に捧ぐ。」

今週はradikoの不具合がなく無事に聴けた(笑)。
「粋な夜電波」は恒例の「ジャズBAR〈菊〉」。
番組の最後に、亡くなったザ・ピーナッツ伊藤エミさんを偲んで、「シャボン玉ホリデー」というテレビ史に残る名プログラムへの思いを語った菊地先生。
自分は世代的にその当時のことはよくわかりませんが、ジャズと大衆の娯楽が最も接近した幸福な時代だったことが想像されます。その頃のクールで遊び心に満ちた雰囲気の片鱗を、今我々は「粋な夜電波」で味わえているわけですね。
その部分を文字起こししてみました。

I Loves You Porgy

I Loves You Porgy

ええ、というわけでですね。もう最近はあの…なんていうんですか、スピード時代っちゅう…スピード時代ってのも古いですかね(笑)。え〜…言い方も廃れまして、なんだかもう…スピードと情報があり過ぎてね、なんかあり過ぎで止まっちゃってるような時代になりましたけども。
まあ、そんな中、これはもう…旧聞に属すると言っていいところでしょうか。皆様ご存知の通り、先日、ザ・ピーナッツ伊藤エミさんが亡くなりまして…。え〜これはまあ…虚を突かれたと申しましょうか、つまりその…なんでしょう…我々、もう熱狂的なね、クレージー・キャッツファンにとってはって…「我々って誰だよ!」って話ですけどね(笑)。
ワタシもう…贔屓は圧倒的にね、最初のアイドルがクレージー(キャッツ)なんで。あの…もう全然…ドリフ世代なんですけどね、年代的にはね。ま、兄貴と歳が離れてるせいもありまして、こう…上の方に引っ張られてまして。圧倒的にクレージーキャッツですねえ…。
まああの…クレージーの話し出したら止まらないんですけどね、例えばね、東京スカパラダイスオーケストラさんなんかと一緒に仕事させていただく時なんか、まあ…輪廻転生、「現代のクレージーキャッツここに在り」というね、感じでしょうか。目頭がもう熱くなる想いですけども…目頭さすがに嘘ですけども(笑)。スーツ着てカッコ良くてジャズベースで、お茶の間も楽しませることができるっていう英雄っていう意味では、スカパラがかなり…臨界まで行ってると思いますけどね。
ですからあの…そうですね、1980年代っていう時代は、ワタシなんかが20代ですね、クレージーの業績が再評価されたバブル元禄狂い咲き。浅草東宝のオールナイトで全部もう…一本残らず観ちゃって(笑)。物によってはオールナイトのプログラムの関係で10回ぐらい観ちゃって…っていうね。さらにはレンタルビデオ、VHSで借りちゃって…という。ってまあ、そういう時代ね。
で、その馬鹿騒ぎが終わりまして、文字通り「シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ」…で、「こわれて消えた」ってね(笑)。そのあと90年代から00年代という20年間というのは、…まあ、我らがハナ肇とクレージーキャッツが、ひとり…またひとりと、花びらがこう…20年以上かけてですね、スローモーションでゆっくり散って行くような様を見せられるという時代に入ったわけでして、まだそれは続いているわけですね。
現在ご存命の犬塚弘さんも桜井センリさんももう大変な御高齢で、桜井センリさんなんかもう90近いはずですからね。番組に出ていただけたらなあ…なんて、思ったりする時もあるんですけど、まあ…無理でしょうね。第一にアタシがもう…桜井センリさんなんか前にしたら、何も喋れなくなると思います。
…とまあ、そんな中、とうとうあのザ・ピーナッツが、ピーナッツではなくなってしまったというね。こう…パカッとふたつに割って、どっちもそっくりだってんで、ザ・ピーナッツという名前ですからね、言うのも野暮ですけど。
ま、ザ・ピーナッツに関しては、「あな、懐かしや…」ばかりじゃあ…ね、DJとして金取ってちゃいけないわけですから。…ね、お聞きいただいてるノルタルジーお父さんと一緒になっちゃいますんで、音楽史家の端くれとしてひと言差し挟ませていただくならばですよ。あの〜、特にアイドルポップスでですけどね、ヴォーカルの声を加工するのに、ああいうのにもトレンドっちゅうのがありまして、今はね、コンプレッサーとオートチューンの時代ですね。オートチューンってのはあの…ケロケロしたロボット声ね。…の時代ですけども。60年代から80年代にかけて…結構長きにわたってですね、「ダブル」っつってね、同じ人が自分で2回重ねるって手法が、これが全盛でして。廃れながらもまだ健在でして。
どっちかいうと今ヒップホップなんかに生きてますけどね。SIMI LABのレコーディングなんか全部ダブルです、あれね。…ですけれども、これはザ・ピーナッツが常にふたりで同じ声でね、双子なんで…歌っていて、ハモリがきれいなんだけども、そっちじゃなくてユニゾンの時ね、同じメロディをふたりで歌う時に、その時のえも言えぬ効果が良くって定着したんだ、っていう説があります。
ま、それにしてもですね、伊藤エミさんったら、まあ…お綺麗なね。あの…椎名林檎さんっていらっしゃいますね、ワタシ不勉強ながら椎名さんの音楽は詳しく存じ上げないんですが、デビューされた時から一貫して、お顔に伊藤エミさんの面影がね、あってね。…ワタシの周りでこのこと騒いでたのはワタシだけでしたけども(笑)。ですから、椎名さんがね、「アタシのママは歌舞伎町の女王」なんちゃって出て来た時には、「ひょっとして…え!?…え?…でもピーナッツ…歌舞伎町?…何それ?」と思ってちょっと冷やっとしたもんですけどね。
まあ…それはともかく(笑)。こうやってクレージーキャッツが…だけではなく、ああそうか!「シャボン玉ホリデー」という偉大な運動体がね、少しずつ少しずつ、黄泉の国へと昇っていくのであるな、と虚を突かれた気分でございます。
毎週日曜の夜7時…3分前ぐらいになると、ザ・ピーナッツが「スターダスト」を歌い出す。…ふたりの間にハナ肇が割り込む。ちょっと気障な嫌味を言う。ピーナッツが歌いながらハナ肇に肘鉄。ハナ肇があの「ふんが、ふんが…」みたいな面白い顔して、「また来週!」ってのがね(笑)…あの完璧なエンディングが、空にこう…昇って行きます。
ま、番組をですね、「シャボン玉」を下火にしたのは、番組自体が…それ自体が飽きられたってのもあるんでしょうけども、実際に息の根止めたのは「サザエさん」と「ヤングOH! OH!」…つまりアニメと吉本ですからね。ワタシ今、表向きはニコニコしてますけど、心の中では仇としてね、認識してますよ(笑)。…ま、そんな話はどうでもいいんですけども。
何回か前に、シーズン3のマナーとして故人への追悼ってのは止めときましょう、というふうに申し上げました。ですから、まあこれは…伊藤エミさんへ、故人へというよりかはですね、「シャボン玉ホリデー」という思い出全体に…という感じでしょうか。
ジャズヴォーカルがいいなと思いまして、とはいってもジャズヴォーカルゆうてもいささか広うござんすで、誰にしようか大変迷いました。曲の方は有名なガーシュウインのミュージカル「ポーギーとベス」ですね、ジャズファンならば知らぬ者はないという。あの「ポーギーとベス」から鉄壁の「I Loves You, Porgy」ですね。
「Loves You」…三単現の「s」おかしいですね。「She Loves You,yeah,yeah,yeah」とは言うけれども、「I Loves You」とか「You Loves Me」とかこれ…言いませんね。二人称ですから。
しかしなぜ「I Loves You, Porgy」かというと…主人公であるベスですね、「ポーギーとベス」。ポーギーは男の人、ベスは主人公の女の人。このベスがあまりに教育を受けてなくてアバズレで、心も荒んでたんで、三単現の「s」を間違えて付けちゃった、っていうのが「I Loves You, Porgy」。これもまあ、ジャズファンの間では有名ですね。
ですが歌う時にはさすがにこの「I Loves You」はさすがにちょっと…「Loves」って歌うと芝居がかってるんで、「I Love You, Porgy」と歌われるということで有名な曲です。
ただ…この曲もう、ジャズの女性ヴォーカル、全員歌えますから。もう…誰のにしようかな。数えたら自宅に36人分ありまして(笑)、とにかく座して瞑想し、心のチャンネルを「シャボン玉ホリデー」の思い出にこう…合わせてね、決めました。
1968年のライブであります。68年は「シャボン玉ホリデー」も全盛期を過ぎ、爛熟期に向かってた頃ですな。え〜、ちょっと調べたところ、68年ってのは、ハナ肇38、伊藤エミ27です。歌ってる歌手はちなみにハナ肇の3つ下です。
ライブ録音ですので、大変なアプローズが入っております。そのアプローズごと、「シャボン玉ホリデー」の思い出に捧げたいと思います。
菊地成孔の粋な夜電波」、それではまた来週同じ時刻、日曜の夜ですね、「シャボン玉ホリデー」と同時刻に、お会いしましょう。お相手は菊地成孔でした。
それでは本日の曲です。ニーナ・シモンで「I Loves You, Porgy」。

(オンエアされたのと同じライブ録音版はYouTubeで探せませんでした。)
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