「ベルフラワー」



「キラ☆キラ」で町山智浩氏が解説していたのを聴いて、公開を楽しみに待っていた映画「ベルフラワー」。ステッカー付きのおまけに惹かれて、シアターN渋谷の前売り券も買って臨んでいたのだが、今の今まで観に行く時間をなかなか作れず…。
土曜日出勤で仕事が意外に早く終わったこのタイミングで、急遽19時からの回を観に行った。…チケット財布に入れておいてよかった〜。
エヴァン・グローデルという男が製作・監督・脚本・編集・主演をこなした、思いっきり自主制作の映画。
マッドマックス2」にハマって、核戦争後の世界を支配することを妄想し、火炎放射器とモンスター・カーを手作りする、中二病ボンクラ男の話らしい…と聞いて、俄然興味を惹かれていたのだが…。

会場内では劇中に登場するモンスター・カー「メドゥーサ号」をあしらったデザインのTシャツなども販売されており、結構普通に着れそうなデザインだったので、もし映画を観た後で、テンションが激アガりするようだったら買っちゃおうかな…と思っていたほどだった。
しかし…これは期待していたのとはかなり違う内容で、ボンクラ男の痛快なリヴェンジという感じの、能天気なところに着地する作品ではなかった。激アガりどころか、殺伐とした空虚な心持ちで映画館を出ることになってしまった。
だが決してこの作品が駄作だとか、カタルシスのない自己満足的な映画だったというわけでもない。好きか嫌いかで言えば、結構好き。
「たかが失恋で自作の火炎放射器を振り回す」という、突拍子もないストーリーなのに、そこに至るまでの描き込みから溢れる切なさで、他人事としても笑えない、かといって安易に感情移入も出来ないという、冷めながらにして胸をしめつけられるような感情が起こされることにより、さらにどこまでが現実でどこからが妄想なのかわからなくさせられるトリッキーな構成によって、リアルかついろんな問題を象徴しているかのようにすら感じられた。
これはやっぱり、「実は役者としてかなりイケていた」エヴァン・グローデルが、主人公ウッドローを演じたことによる、当事者感がスクリーンからビリビリ伝わってきたからだと思う。
話自体は随所で破綻しているし、主人公は最初から最後まで自堕落なままで、失恋による傷心の反動も、ほとんど逆恨みのような気がしないでもないが、「正しくはないかもしれないが、本人にとってはそれが世界の終わりに等しい大問題なのだ」という、身勝手な当事者意識を無理やり突き付けてくる。そこに乗れるか乗れないかでこの映画の評価は賛否きっかり分かれると思う。
個人的にはヒロイン(?)のミリー役のジェシー・ワイズマンが、最初っからビッチ感丸出しで、この女相手に純愛求めてもロクなことにならないのは分かり切ってるじゃん!…という思いが拭い去れずに(そもそも虫を食ってたような女に惚れるかねw?)、主人公に同情することもできず、怒りに同調することもできないまま最後まで観てしまった。それでもこういうことって起こりうるし、こういう孤独と怒りを抱えている人が大勢いて、明日は我が身かもしれないという、うすら寒い絶望感は共有できた。そして、そこから抜け出すための唯一の救いの象徴としてのメドゥーサ号の爆走シーンに、理由もわからず興奮した。
究極にインディペンデントな態勢で作られた作品の最大の強みは、誰がどう思おうが知ったことではなく、とにかく自分の撮りたいように撮るのだという志を高らかに宣言できることだろう。その点ではこの作品が帯びているパワーは圧倒的だ。
2012年は、「ドライヴ」とこの「ベルフラワー」が、カルトムービーとして強烈なインパクトを残した年になることは間違いない。

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