「LOOPER」


町山智浩氏が2012年の個人的ベスト第一位と評価していた「LOOPER」。TBSラジオ「たまむすび」で紹介されたのを聞いた時から、これは面白そうだと、公開を楽しみにしていた。
シネマーハスラー賽の目映画に決まっていたのだが、放送日前に観る時間が取れず、録音したものも聞かずに我慢していたのだった。
仕事帰りに平日のレイトショーで観たので、その時は客数はまばらだったが、ブルース・ウィリスというビッグネームの主演ということで大きく宣伝もされていて、ヒットしているようだ。
ただ「ブルース・ウィリス主演」というのが前面に出過ぎていて、アクション大作のような先入観を抱いている人も多いようで、観終わった後の感想は賛否両論に分かれるそうだ。
自分は町山氏の解説も聞いていたので、この作品に関しては大体の内容を知った上で観たが、確かに「タイムスリップもの=近未来SF」として観ると、また「殺し屋が未来の自分と対決するバイオレンス・アクション」として観ると、どうにも中途半端な作品に思われるのかもしれない。
町山氏が「後半、意外な展開になっていく…」と言っていたのが、そこが逆に楽しみでもあったし、「終わってみれば、実は深いテーマが根底にあり、強いメッセージ性もある作品」というようなことも言っていたので、単なるSFアクションではないというところにこそ期待していた。
そして実際に観て、単純にストーリー自体もめちゃめちゃ面白かったが、不思議なバランスで成立しているこの作品の、すっかりファンになってしまった。
ちょっと奇をてらった演出が随所に目立ち、監督のライアン・ジョンソンという人の個性がかなり色濃く反映されているので、好き嫌いは分かれるだろうが、あまりあざとい感じは受けず、工夫凝らしてんなあ…と感心することしきり。
意外な展開に進むプロット自体も面白いのだが、タイムパラドックス的な複雑な辻褄合わせのようなややこしさには向かず、いい意味でざっくりした話運び。わかりやすいし、細かい矛盾はどうでもいいと思える感じ。そのわりにはディテールに妙に凝ってたりして。
この不思議なバランスは、やはり主人公のジョセフ・ゴードン=レヴィット君が絶妙に体現していたから成立したのだと思う。「(500)日のサマー」ではナイーブな青年、「ダークナイトライジング」では勇気ある熱血警官…を演じ、優男にもタフガイにも見え、少年のように無邪気なようにも、すべてを諦めた冷めた男のようにも見える彼だからこそな感じはした。
レヴィット君が30年後、つるっぱげのブルース・ウィリスになっちゃうよ…というのは、リアリティだけ追求すれば、笑っちゃう感じになるはずなのだが、そこもブラックジョーク含みのユーモアとして、この作品の魅力になっている。逆に若き日のブルース・ウィリス役ということを意識しすぎて、マッチョな俳優をキャスティングしたとしたら、途端にB級アクション感が漂ってしまっていたかもしれない。
観終わった後に心に残るメッセージにも、素直に感じ入ることができた。「ループ=憎しみの連鎖」であり、それを断ち切るのに必要なのは自己犠牲の精神であり、希望へ繋ぐのは愛ある献身なのだ…と、言葉にしてしまうと、しらじらしいようなメッセージに、説得力を持たせるためには、逆にこれぐらい奇抜なプロットを駆使しなければ、現代の寓話として成立せず、近未来を舞台にこれぐらい凝った設定にしなければ、感情移入することができないほど、我々が抱えている現在の問題が複雑化しているということがよくわかった。
一本の映画としての完成度は棚上げして、愛すべき作品だと思う。