「愛、アムール」


ミヒャエル・ハネケ監督の「愛、アムール」、重い内容で、決して面白い映画ではないということを承知のうえで観に行った。
病に倒れた妻を介護する、老老介護の話。
「たまむすび」での町山さんの解説を聞いて興味を持っていたのもあるし、カンヌやアカデミー賞でも高く評価されていたというのを知って、観ておくべき作品だと思っていた。
ミヒャエル・ハネケ監督作品は、たまたま「カフカの『城』」を観たことがあるだけで、「愛、アムール」までの間にどれほど救いの無い作品を撮りつづけ、「底意地の悪い監督だ」ともっぱらの評判になっている経緯とかをほとんど知らない。
ただ、この作品に関しては、観る前からハッピーエンドになるわけがないとわかっていたし、ストーリー的にも大きな起伏はないことも予測される。ただ、どうしようもない現実を突きつけられに行くのだと覚悟を決めて、それでも観終わった後にはなんとも言えない感情がわき上がってくるのだろうと、それを期待して観たのだったが。
有楽町のヒューマントラストシネマで、午前10時の回、一日一回のみの上映。明らかに高齢者向けのプログラム。
この日はサービスデーだったということもあったが、場内はやはり老夫婦ばっかり。
当事者意識が強すぎて辛すぎるのでは…と、端から見て心配にもなったが、案の定観ている最中から嗚咽が漏れ聞こえてくる。
自分はまだそこまで身につまされるということはなかったが、いずれこういう事態になった時、どれぐらい自分は覚悟を決められるか?と自問しながら、ひとつのシミュレーションとして観た。
確かにところどころグッと胸に込み上げてくるものもあり、感動的な作品だったが、それよりも抑制の効いた演出や画面構成の美しさに気付いて、映画としてよく出来てるな〜という感心する気持ちも強かった。
結末も救いがなくて辛いのだが、それでもラストに現実から離れた、主人公の妄想が具現化したようなシーンがあって、そこに優しさが詰まっていて、監督が投げかけるメッセージに不愉快さは感じられなかった。
…なんだ、ミヒャエル・ハネケ監督…むしろ誠実じゃないか!と思ったのだが、他の作品を観るとまったく違う気持ちになるのかな? それはそれで興味があるので、いずれ過去作も観ていきたい。