「sakanaction」

sakanaction (初回生産限定盤CD+DVD)

sakanaction (初回生産限定盤CD+DVD)


新作でチャート1位も獲得し、快進撃中のサカナクションだが、個人的には3rd AL「シンシロ」の時がピークで、そこからの彼らの音楽的な進化にちょっと不満を抱いていた。
今回のアルバムも買おうかどうかかなり迷っていたのだが、初回盤に付くDVDが目当てで購入。
先行シングルの「僕と花」と「夜の踊り子」が、ちょっとまた違うパターンの曲調を提示してきたので、ひょっとしたら期待できるかも…とも思っていた。セルフタイトルだし、本人達も自信作なのだろうとも思ったし。
しかし…やっぱり、歌メロがもう尽きてるやん!
「僕と花」と「夜の踊り子」でいいと思っていたら、残りの曲はすべてその2曲のバリエーション違いとしか思えないような曲。過去のアルバムに入っているどれかの曲に似ているとかなら、初めてこのアルバムでサカナクションを聴く人は気にならないだろうから、それもアリだとは思うけど、1枚の中で、さっきの曲とほとんど同じ歌メロの曲が続くと、どんなに音色やリズムを変えようと、さすがに「え?どれも一緒じゃん」と思われてしまうのではないか。
アジカンの「ランドマーク」を聞いた時も同様の感想を持ったが、いくら自分お得意のパターンがあって、それがヒットして、ある程度客ウケが計算できるからといっても、やっぱりポップソングとして、「新曲」として発表するからには、歌メロがどれも同じっていうのは致命的なんじゃないかと思う。
まあ、そんなこといったらひとりのソングライターが作り出す曲なんて、どんなに多彩な才能を持つ人でも似通ってしまうものだとも言えるが、山口一郎に関してはフォーキーな曲も、あえて一本調子なテクノ歌謡のようなものも、多くのパートからなる組曲のような曲も、詩吟を取り入れた曲などもあり、いろんな実験的なチャレンジもしてきた人なだけに、「あれ?こんなに引き出しの少ない人だったっけ?」と、落胆してしまったのが正直なところ。
とはいえ、アルバム後半、「映画」や「ストラクチャー」のような、サウンドコラージュというか、テクスチャー的な遊びに走った曲には新鮮味も感じられたし、「mellow」とか静かな曲には、今までにはなかったメロディも取り入れられているようなので、尻上がりに良くなっていくアルバムだともいえる。トータルで繰り返し聞けば、そこそこいい一枚と思えるのかもしれない。
まあ、音に関してはiTunesに取り込んで、後は気に入った曲だけのプレイリストを作って、過去の曲とシャッフルして聴くことになるだろうから、捨て曲が出てしまうのは仕方がないかな。
…とか思いつつ、初回盤おまけのDVDでライブ映像を観たら、これが非常に良いんだな。
演奏する佇まいや照明などの視覚効果も含めて、空間を演出するサカナクションのライブに定評があるのは今に始まった話ではないが、ライブで鍛え上げられて自然に淘汰されてきたセットリストは鉄壁に近づきつつある。
特に、メドレーでキラーチューンが続く時の高揚感は圧倒的で、今こんなライブが出来るバンドは彼らの他にはいないんじゃないかと、感心しきってしまう。
ひょっとして、曲調が全部似てるとか指摘するのは野暮な話で、あえて似たような曲を並べた方が、メドレーにしやすいじゃん!と確信犯的にやっているのかも…とも思えてきた。
戦略家・山口一郎ならそれもありえるな。
〈文中敬称略〉