「楽しき『ウガンダ組』。」

「粋な夜電波」109回はスペシャルウィーク特別企画。「あの頃オレは若かった!菊地成孔の二度と語らぬ若気の至りMIX!」と題して、修業時代の菊地先生の思い出話をたくさん聞くことができた充実の内容でした。
元ビジー・フォーの故ウガンダ・トラさんのバックバンドに起用された頃、良くも悪くも浮かれていたバブル時代の話が楽しかったので、一部を文字起こししてみました。

…まあ、悪ぃ友達がいて。
「あのさあ、ウガンダっていんじゃん。テレビタレントの。俺、あの人に世話になってんだよね。」っつって。
「今度あの人がバンドやるから、菊地も入ってよ。」って言われて行ったんですよ。
もう何でもいいからやる!っていうノリでした。
何でもいいからやるってね、別にウガンダさん、舐めてたとかでもなんでもないんですけど。
ただワタシね、当時…入ったのがねえ…今からかけるレコードが87年ですから、多分「86年、ウガンダ組入り」ですよね。…だと思うんですけど(笑)。
まだね、自分の過去のバイオグラフィちゃんとしてないんで、86年が手前にとってどんな年だったのかって、あんまりちょっと覚えてないんですけどね。
86年は確かね、山下洋輔にも入ったのが、確か86年だった気がするんですよ。
だから「菊地成孔、86年に山下組」…こっちは有名なんですけど、「ウガンダ組にも入ってた」…これはメモっといてください。
ウガンダ組」に同時に入ってました、ワタシ(笑)。
で、その当時ね、ワタシ、ハウスだとかヒップホップはイケてると思ってたんですけど、ソウルがちょっとダサいと思ってたんですよ。恥ずかしながら。
そう思ってる若い頃のお前がダサいよ!って話なんですよ、今から思えばね。ケツも青いくせにね。「サザンソウルとか田舎臭いし、ダサくない?」みたいな…まあまあ、ケツ青く嘴黄色い者の言うことですよ。
そんで、ソウルなんかちょっとダサいと思ってたの。で、ヒップホップ、ハウスはいいな。打ち込みのファンクもかっちょいい。マイケルもかっこいいし、MCハマーとかいい。アースもカッコいい。だけど、ソウルはなぁ…って思ってたんですよ。
そしたらね、ウガンダさんがやる気満点で(笑)、120分テープ4本に、自分が演りたいソウルの曲、夢の選曲ですよね。ウガンダ、夢の選曲」が入ったテープをくれたんですよ(笑)。それを…カセットテープですよ、時代ね。
んで、家で再生したらもう…良くてね。で、それからソウル開眼ですよね。
もうヒップホップなんかあんなもん、手で演奏してないし、コキュコキュ擦って小賢しいとかね。ガキの言い分ですけど、コロッと転向しちゃって。ソウルマニアになって。
それから転がる石で、今〈ソウルBAR・菊〉とかやって、ご好評いただいているわけですから。
ウガンダ無くして〈ソウルBAR・菊〉無し!ですよ、ホントに。恩人ですよね。
で、もう…オーティスから何から、ずら〜っとソウルが120分テープ4本ですよ。
で、そのテープに、ウガンダさんの手書きで、油性ペンで、ウガンダ&ザ・ワッツ レパートリー候補 1・2・3・4」って書いてあって(笑)。
「『ザ・ワッツ』ってなんですか?…ウガンダさん。」っつったら、
「お前、菊地…ワッツ・ボードを知らねえのかよ。」って、あのワッツ・ボードのワッツなんですよ。すごいなんか思いがあるの、黒人のカルチャーに。
で、「ザ・ワッツ」ってのが、なんかどうやら我々がやるバンドのことなんですよね。
そんな頃、ウガンダさんが…まあ、ひとつのこれもバブルですよね。時代がバブルだったところに持ってきて、ウガンダさんもバブルだったんで。
レコード出しちゃうんですよね。これもよく芸人さんがやることですけど。
このレコードがですね、「IDEN」…I・D・E・N。これは自分が…まあ、デブネタですよね…太ってるのは俺のせいじゃない、親が両親ともデブだったんで遺伝で太っているんだっていう、ギャグソングなんですよ。
でB面が「憧れの正常位」っていうね。これは肥満されている方は正常位が出来ないんだっていうネタなんですけど。これはウガンダさんの持ちネタでした。
「正常位ができねぇんだよ。」ってのと…とにかくウガンダさんの裏のネタ、テレビに載せられないネタってのは全部シモなんで(笑)。ラジオでも全然言えないんですけど。
まあまあ、ウガンダさんのねえ…やっぱこれ言えないわ。名人芸があるんですよ。いろいろ名人芸持ってますよね、昭和の芸人の方って、こう…。
ウガンダさんはね…言葉濁しますけどね、風俗に行った時の、風俗嬢さんの真似っていうのが天才的に上手くて(笑)。
とにかく…ネタだけで25分ぐらいあるんですけど、一人二役でね、もう…腹抱えて笑ってね。
河口湖に合宿に行くんですけど、行きのバスの中はね、これが「ひょうきん族」だと踊るしか能がない人の姿なのか?っていうぐらい、エンターテイナーで。とんでもない、もう…ワッツ全員腹抱えて笑いながら、河口湖に着いて。
着いたらすぐ始まるのがカレー作りなんですけど(笑)。
まず着くでしょ。バスから降りるでしょ。もう周到に用意してあって。とにかくその頃、ウガンダさん肩で風切ってますから、合宿所付きのスタジオの人も、もうね…上げ膳据え膳で。
ウガンダ&ワッツのバスがバーッと着く→扉が開く→降りるとドラム缶が置いてあって薪がくべてあるんですよ(笑)。
そのドラム缶に、「おう!」っつって、ウガンダさんがもう…軍用みたいなバッグ持ってんの。その中に何が入ってるかというと、肉と人参と玉葱が入ってるんですよ(笑)。
その肉と人参と玉葱をまず…「おう!」っつって、「菊地!ナントカ!…ま、仮名ですけど、山崎、戸塚、降りて来い!」って、バーッて降りて来させて、で…「ほら!」っつって。みんなでワーッって水汲みに行って。そのドラム缶の半分…。
「半分までだぞ!ほら、半分だよ、半分!」っつって、半分まで水入れさせて、ガーッ…もう火を焚いてね。
合宿所に荷物とか下ろしてないんですよ。楽器とかまだバスの中に入ってるの。
なんですけど、まず水沸かしてお湯にして、そこにウガンダさんがもう…神の手さばきっていうんですかね、じーっと見て、沸いてきて、「ここだ!」っていうとこをウガンダさんが見つけて、ドサドサドサッて。もうね、全部切ってあんの(笑)。家で切ったのをリュックサックに詰めてあるんですよ。
それをバーッと煮てね。もう湯気がいい匂いでね。あの人が作ると、もうカレー粉入れる前からカレーが美味そうな匂いがするんですよね。出汁がね、フォンが出てね。牛・豚、混ぜてくんですけどね。
…まあまあ、そんでね、話が止めどなく行っちゃいましたけど(笑)。シングル出したんですよ。で、これでライブ演ったんですよね。
今思い出しましたけど、このシングルは間奏がサックスなんですけど、ワタシが吹いてると思ってましたけど、ワタシ吹いてません、これ(笑)。スタジオミュージシャンの方ですね。
ただ、ただ…ですけど、これはウガンダさんが…ま、ここはあんまりウガンダさんの…今、ウガンダさんがここにブワ〜ッと居ますけどね。「あ、もう、湿っぽいのは嫌だよ!」って。
ウガンダさん、とにかく湿っぽいのは嫌な方でしたから。楽しいのがお好きだったんで。湿っぽくしたくないんですけど。
「自分のバンドにサックスが居るから…」ワタシのことですよ。「自分のバンドにサックスが居るから、間奏はサックスにしろ!」って、レコード会社の人に頼んだの。そいでサックスになったんですよ。
ワタシはね、これ演らしてもらえるかと思ってたんだけど、何かの理由で演れなくて、スタジオミュージシャンの人になったんです。確か。…だと思うんですよね。
ただ、デモテープ、ワタシが吹いてんですよ、これ。そいでそれをスタジオミュージシャンの人がね、なぞってるんですよね。
ま、ま…ここら辺の話はね、ササッっとラジオでうまくコンパクトに伝える自信がないんで…曲いきましょう。

プレイグラウンド

プレイグラウンド