「3人のアンヌ」


シネマート新宿に「3人のアンヌ」を観に行った。
わりと韓国映画をよく観る方なので、シネマート新宿はメンバーズカードも作っている。
前回のホン・サンス監督の特集上映の時もここで観た。その時は「次の朝は他人」1本のみ。
先日の代官山蔦屋書店で行なわれた、菊地成孔先生のトークショーでの、この「3人のアンヌ」の紹介も聞いて、ぜひ観ようとは思っていた。
しかし正直なところ、おそらく明確なオチやカタルシスのない、なんだかよくわかったようなわからないような作品であろうことが予想されたので、ケチって男性サービスデーの月曜を狙って観に来たのだった(笑)。
実際のところ観て、やっぱり「なんだかなあ…」という腑に落ちない作品ではあったのだが。
とはいえ、好きか嫌いかというと、この作品決して嫌いではない。ホン・サンス監督のセンスは独特で、キム・ギドク監督作のように押しは強くないけど印象に長く残る。
「次の朝は他人」はモノクロの作品だったので、ソウルの街並みもとても美しく見えて、登場人物も魅力的に映っていた。確かに韓国映画らしくなく、ヌーヴェルヴァーグっぽい。
なるほど、フランス映画に影響を受けた作家だから、今回はとうとう本家の名女優イザベル・ユペールを主演に迎えて、よりフレンチテイストな作品を撮るに至ったのか…と思ったら、どうもそうでもない。
自分は不勉強ながら、ゴダールだのロメールだのはさっぱり分かっておらず、イザベル・ユペールがどれほどの大女優なのも知らない。初めて観たかも。
確かにきれいな女優さんだけど、さすがに加齢は隠せないので、周りの男たちがみんな彼女に夢中になる…というのは無理があるかな。
しかもその登場する男たちがみんな不細工で、おっさんと往年の名女優のキスシーンとか、全然ロマンチックじゃない。
海辺の街が舞台だが、「次の朝は他人」のようにモノクロで撮影してるわけでもないから、「Beau…(美しい)」とか言ってるけど、貧乏くさい漁村みたいなロケーションなのがはっきりわかる。
酒を飲んですぐに喧嘩したり、女性を都合良く身体だけ求める、マッチョな韓国男を皮肉るような描写やセリフもあったりして、これは自虐的なジョークなのだろうか。
自分の中では、ホン・サンス監督作は、ものすごくシニカルなコメディなのだと捉えて納得しているところもある。
特長である構成の妙は今作にもあって、「次の朝は他人」と同じように、パラレルな世界が同時に語られる。
イザベル・ユペール演じるアンヌは3人いて、着ている服だけが違うのだが、成功した映画監督、浮気中の人妻、離婚したばかりの女性と、いちおうはそれぞれ別の人物として登場する。
ただそれは、この映画の語り手的な登場人物である、同じ宿にいる脚本家ウォンジュ(チョン・ユミ)が、頭の中に描いた物語の人物であることが示されるから、どこまでが現実でどこからが妄想なのかわからないといった混乱はない。
それでも時系列を無視した伏線とその回収などによって、どことどこが繋がっているのか曖昧な、これがホン・サンスワールドなのだろうか?、なんとも不思議な作品世界の中に入り込んでしまう。
ホン・サンス監督作というのは、半分アートフィルムのようなものなので、積極的に細部に面白味を見出していかないと楽しめないものだと思い込んでいたところがあって、自分にはあまり合わないのかも…とも。
しかし、騙されてもいいかぐらいの気持ちで、受け身でぼや〜っと鑑賞し、翻弄されるのも悪くないと思うようになった。
たしかに「ホン・サンス」というジャンルが確立したら、大化けしそうな存在の監督である。