「人は皆ストレンジャー。」

選挙特番により1時間のショートバージョンだった、「粋な夜電波」第114回放送。
人気ドラマ『Glee』のフィン役コーリー・モンテースの悲報に捧げた、番組最後の曲紹介部分を文字起こししてみました。
1曲を誰かに捧げるという行為に、いろんな思いやメッセージを込めることができるのだということを身に沁みて感じたのも、この番組を聞いてからでした。
追悼は哀しいことではありますが、あらためて音楽って素晴らしいなと思える瞬間でもあります。
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え〜…ワタシですね…ピレキーニョが終わりまして、次の日ピットインだったんですよ。
で、自分のパーティーやったんですね。パーティーの最中、結構ご贔屓の、昔から非常に深く強くご贔屓して下さってる方が、トコトコトコ…とワタシの方に歩いていらしたんですけども。
ま、その方は会場でワタシとすれ違ったら「やあ、菊地さん!」とか言うような感じのタイプの方ではないので、一番古いぐらいのファンの方なんですけども、それでもそういうことはなさらない方なのに、こっちに向かって真っ直ぐ一直線に歩いて来られたので、どうしたのかな?と思ったら、え〜…フィンが亡くなった…という話でした。
収録なのでオンエア日にはもう過ぎてますが、収録日の前日はブルーザー・ブロディの命日です。
まあまあまあ…時間もありませんので、この曲でお別れしたいと思います。
今、世界中のグリークがこの曲を聞いて、もう動画サイトの再生数なんか見ただけでも、何千万回いくのやら?というような、天井知らずの伸び方をしている曲ですね。
まあ、もう、アメリカというですね、フォリナー…そしてストレンジャーの曲ですよね。
この楽曲のこの歌詞がですね、訳されることが多いんですけど、ほとんどの歌詞で、「Stranger」に当たる部分を「彼ら」とか「みんな」とか訳されてるんですけど、ま…はっきり「Stranger」と歌っています。
「Stranger」ってのは、要するに「よそ者」ですよね。
で、誰も知らない…「オマエ、誰だ?」っていうような奴のことを「Stranger」というわけです。
この曲はジャーニーの曲ですけども、「ストレンジャー大国」でありますアメリカの、まあ…ほとんどの国民がストレンジャーですからね、アメリカってのはね。…のアンセムっていうか、もう一番有名な曲ですから、あえてもう一回歌詞を読み、もう一回聴くということも、どうかと思うんですけども。
ま、今夜ばかりはですね、捧げたいと思いますね。
コーリー・モンテース…まあ、口幅ったい人はね、その…「リヴァー・フェニックス以来だ」って言ったりしてますけどね。
まあ…ヘロインとアルコールのODですよね。まあねえ、アルコールはワタシやりますけど、ヘロインなんて名前も聞いたことないですから分かりませんけども(笑)。
ヘロインとアルコールのODってのは相当ヤバいですよ。心停止でしょうね。ODってのはオーバードーズってことですけど。
まあ…更生施設に入って、止めたってことになってね。施設出て、で…家に帰って、友達と会って、友達と…やっちゃったんでしょうね。ま、ドジったわけですよ。
ODってのはね、自殺でもないですし、もちろん他殺されたわけでもないですし、ほんとにね…「しくじった」ってやつだと思いますよ。
そんなつもりないはずですから。ODで逝っちゃう奴は。死のうと思ってやってるわけじゃないですよね。
「ちょっと久しぶりだから楽しもうか…」って思ったら、「あぁ〜!」って逝っちゃったと思うんですよ。
だから…フィンが、音楽があったのにも関わらずダメだったっていうふうには、ワタシ考えてないですね。
この人、若い頃からやってたんで、で…なんとか大丈夫になって「Glee」のキャストになったのね。…そしたらお金が入って来ちゃうでしょ。そしたらまあ…買っちゃいますよね。で…どんどん悪循環があって、「もうこれは止めなきゃ!」っつんで止めて、ほいで家帰って「久しぶりに…」っつったら、ドジっちゃったってことですよ。
でもまあ…我々は彼がドジったって事を…「Glee」って番組をね…まあ、「Glee」って番組のテーマは、「人類は全員よそ者だ」ってことですよ。「全員ハンディキャッパーだ」ってことですね。
「全員がハンディキャッパー、で、全員がマイノリティだ」ってのが…そして、「人生の問題はポップミュージックの歌詞が全部解決する」っていうのが、「Glee」のテーマだと思いますよね。
ま、ワタシも「Stranger」でありたいです、常に。
ワタシのファンに対して、元からのご贔屓筋に対して番組やって、自分のアルバムかけて、「どうもどうも…次ライブがいつですよ…」って番組だってできますよ、そりゃあ。その…一応タレントですからね。
でもワタシは「Stranger」でありたいです。だから「誰?こいつ?」っていう…「オマエ、何なの?コイツ…歌舞伎町だか何だか言ってるけど…」っていうようなことから番組を立ち上げて、皆さんのご支持をいただきたいと、常に思っていますよね。
(曲)

単なる町の小さな少女は  孤独という世界に住んでいたが
ある時  夜行列車に乗って旅立った
行き先はわからない


単なる都会の少年は  サウス・デトロイトで生まれ そして育った
そしてある時  夜行列車に乗って旅立った
行き先はわからない


燻されるような煙の中で歌っている歌手
ワインと安っぽい香水の香り
この店で夜を一緒に過ごせるよ
その微笑み それだけがあれば


夜は  果てしなく果てしなく  続いて続いて続いて続いてゆく 


よそ者たちは待っている  道のあちこちで
奴らが  奴らの影が  この夜の中で探し始めている
シティライト  街灯の下で  心を震わせる何かを求めて
この夜  今夜のどこかに  それはきっと  隠されてるはず


誰だって食べていくために必死に働くさ  でも
誰だってスリルは欲しいよね
次のサイコロを振るためだったら  オレは  アタシは  何だってするよ


だからもう一回だけ  チャンスを


勝つ奴  負ける奴  ブルースを歌うために生まれてきたような奴も
そう  映画は終わらない
映画は果てしなく  続いて続いて続いて続いてゆく


よそ者たちは待っている  道のあちこちで
奴らの影が  夜の中で探し始めている
シティライト  街灯の下で  魂を蘇らせる何かを求めて
この夜  今夜その何処かに  それは  きっと  隠されているはず


信じることをやめてはいけない
自分を裏切ってはいけない
多くの  街灯の下で彷徨う  よそ者たち
君らに言いたい


信じることをやめるな
そして  今のこの気持ちを  忘れないでほしい
街灯の下で  彷徨う人々


信じることをやめては  いけない


GLEE: THE MUSIC, VOL.1

GLEE: THE MUSIC, VOL.1

…ワタシこの番組で、最初の頃は、誰かの訃報があると、その方に音楽を捧げてきたもんで。人が死んだら音楽を流すってのは当たり前のことですから。そのままやってきました。
が、番組始まって1年を待たずしてですね…あ、1年は過ぎたのかな?
約1年弱ぐらいで、川勝正幸さんが亡くなって、番組全体をラジオ葬にしました。
あれからきっぱりと、番組で追悼をするということはやめています。
やめていますが、まあ…今日はそういうわけで、特別ということで、フィン…そして、ブルーザー・ブロディ、そして川勝正幸さんに再び…捧げたいと思います。
この曲は初めてこれで、「Glee」バージョンで聴くという方も、ジャーニーでは知ってるけども、「Glee」で初めて聴くという人も、そもそもこの曲を知らないという人もいますし、もうとっくに、あの日から100回目だよという人もいるかと思いますが。
今晩この曲を最後にお別れしたいと思います。
菊地成孔の粋な夜電波」お別れの時間がやってまいりました。また来週。…来週はフリースタイルです。日曜の夜7時にお会いしましょう。お相手は菊地成孔でした。
最後の曲は「Glee」キャストによる「Don't Stop Believin'」をお聴きいただきたいと思います。ありがとうございました。