「伝説のナイトクラブ。」

「粋な夜電波」第116回放送は、かつて赤坂にあった伝説のナイトクラブ「ニューラテンクォーター」のオーナー・山本信太郎氏をゲストに迎えたスペシャルな回。
世知辛い現在では成立しない、昭和のショービジネスの豊かさへの憧れを伴って、なんとも贅沢な気分を味わえた貴重な時間となりました。
山本氏の音楽愛の強さが窺えたトークの一部を文字起こししてみました。

菊地 あの…今、ヘレン・メリルの「Yesterday」なんかかかって、もう染み入るっていうか…シーンとした音楽じゃないですか。
山本 ええ。
菊地 もうそれが、その時は山本さんも胃が痛い思いされたっていう話…。
山本 そうなんですよ。お客さんがね、全部静かに聴いてくれるコンサートホールと違うんで。
菊地 はいはい。
山本 ファンの人もいるし、そうじゃない人もいるんで。
菊地 はい。
山本 女性…ね、ホステスさん目当ての人もいるし、いろんな目的が違うものですから、やはり、いかに静かに聴いてもらうかっていう教育をしたのが、一番難しかったですね。
菊地 なるほど。やっぱりこう…どんちゃん騒ぎっていうか、アゲアゲの音楽なら気が楽だったとか…。
山本 そうですね。一番…だから気が楽なのは踊りですよね。パリのブルーベルとか、ベンチバーガーとか、そういうダンスの場合は、お客さんが喋られても、キャーキャー多少声掛けられても平気ですからね。
菊地 なるほど。
山本 歌の場合はやっぱそうはいかないし…。
菊地 そうですね。
山本 ええ。
菊地 特にバラードなんかやってて、こう…レストランノイズっていうか、カチャカチャってのが、ミュージシャンに聞こえちゃうと、ミュージシャンのほうも…ってのもあったりして、気遣って大変ですよね。
山本 そうですね。だからもう、一切サーヴィスはやめたんですよね。
菊地 なるほど。演奏中はそのサーヴィスをしない…。
山本 演奏中はもう…一切サーヴィスをしない。
菊地 すごいな。そういう話はほんとに、誰に聞いてもわかんないじゃないですか。
山本 すると後でやはりね、マネージャーの方から、サーヴィスをしないと…かれこれ1時間でしょ?…1時間サーヴィスしないと売り上げが落ちるんですね、やっぱり。
菊地 ま、そりゃあそうですね(笑)。
山本 だから「なんとかこれ、社長…これやっぱしサーヴィスした方がいいんじゃないか。」なんて、支配人会議で必ず出ましたけど。
菊地 なるほど。
山本 いや、やっぱりやめよう、と。やっぱこれは歌っている人に対しての礼儀だよ、と。
菊地 いやあ、素晴らしいですね。
山本 ということで、一切やめました。
菊地 いや、それは何と言うかね(笑)…BLUENOTE TOKYO」に爪の垢でも煎じて飲ませたい話ですよね、ほんとに。
山本 ああ…でも、ぜひ、良い事はやってもらいたいですよね。
菊地 そうですね。要するに、演奏家の気持ちあるし、お客さんの気持ちもあるし、どこで料理を提供して、どこで音を立てるのか…っていったような話がね。
山本 大事なことですよね。
菊地 いやもうほんとに(笑)…頭を垂れる思いですけども。
山本 やっぱり演奏とお客様と一体にならないと、いい雰囲気出ませんからね。
菊地 そうですね。
山本 はい。
菊地 …とはいえですね、これ今ね、単にお料理好きだっていう方だけでも垂涎だと思いますけど、メニューが一覧出てるんですよ。で、もう和洋中たくさんの料理、あともう酒はスピリットからカクテルからね、今じゃ名前も聞かないような当時のカクテルの名前とかいっぱいあって面白いんですけど。厨房には何人ぐらいいらっしゃったんですか。
山本 厨房には中華が3名で、洋食が2名ですね。
菊地 中華のほうが出てたんですってね。
山本 ええ、中華のほうが圧倒的…8割中華です。
菊地 ほんとですか(笑)。
山本 特に中華蕎麦が(笑)。
菊地 ラテンクォーターで、みんな中華料理食べるんですか。
山本 終わったらみんなね、中華蕎麦食べに見えるんですよ。
菊地 ああ〜。
山本 みんな、お客さんが何ておっしゃってるかというと、みんな「一万円の中華蕎麦食べに行こう!」って。女の子に、口説き文句みたいに言うわけですよ。
菊地 はいはいはいはい。
山本 すると銀座の女の子たちが「1万円の蕎麦なんかあるの?…行こう行こう!」っつって、「ラテン」に見えるんですよ。
菊地 なるほど。
山本 ところが、なんだかんだトータルすると、1万円になるんですね。
菊地 ああ〜結局ね(笑)。中華蕎麦一杯が1万円じゃなくて…
山本 中華蕎麦は1500円ぐらいですけど(笑)。
菊地 (笑)…なるほど。
山本 意外に、ステーキとかめんどくさいのはダメなんですね。フォークでナイフで…なんてのは、なかなかお客さん召し上がらないですね。
菊地 あ、ほんとですか。
山本 はい。
菊地 うぉ〜…すごいですねえ…これこそリアルって感じですけどね。
山本 だから、もっと洒落た雰囲気じゃないのかな?…なんて言われるんですけど、そうじゃないんですね。
菊地 なるほど。あの…今日聞いてる方はもうほんとに、話の面白さに驚いてると思うんですけど、それが濃縮された本ですので。まあ…二度三度宣伝を重ねるのは野暮ったいとはいえ…『昭和が愛したニューラテンクォーター』、こちらが二冊目で音楽に関するものが中心になってます。特にね、勝新太郎さんとの親交…「兄弟!」っつってね。そこはほんとに素晴らしいですし、一冊目『東京アンダーナイト』…ま、音楽はちょっとよくわかんないけど、力道山だとか当時の話を知りたいね…っていう方はこちらというね。ま、二冊合わせて読むのが一番いいかと思いますけど。そしてCDもね。もう1曲いってみましょうか。
山本 ええ、ぜひ。聞きたいですね。
菊地 ナット・キング・コール
山本 いいですね。
菊地 ナット・キング・コールのどれいきましょうかね。「Unforgettable」ですかね、やはり。ナット・キング・コールが1回目の来日の時、ゴリゴリのジャズだったらあんまり入んなかったんで…。
山本 この時ですね。
菊地 2回目ですよね。
山本 この時は…ウケなかったですよ。
菊地 ウケなかったですか。
山本 この時は。この後に、あとでウケたんですね。
菊地 「Unforgettable」はどっちかというとポップスのビートですよね。
山本 そうですね、ナタリー・コールとやった時にですね。うちに出た後から「アンフォゲッタブル」が売れてきたんですよ。
菊地 日本でですか。
山本 ええ、日本で。
菊地 ああ〜、なるほど。
山本 その当時はやっぱし…「トゥー・ヤング」とか「プリテンド」ですよね。
菊地 はいはい。「Too Young」「Pretend」ですね。もうジャズソングというよりは、ポップソングですね。
山本 もう、まず。はい。
菊地 そうですか。
山本 でも「アンフォゲッタブル」も聞いてみたいですね。
菊地 聞いてみたいですよね。聞いてみましょう。

(曲)

ライブ・アット・ニューラテンクォーター

ライブ・アット・ニューラテンクォーター


菊地 …いやあ…もうねえ…とにかくオフマイク話が面白過ぎてですね(笑)。聞き入ってしまいますけども。ま、ナット・キング・コールは…何と言うんですかね…今で言うと「スムース、ソフト、ジェントル」っていうイメージがね、あって…
山本 ええ。そのままですね、そのままに素晴らしい人でした。
菊地 でも大変に気骨のある人でね、人種問題と…人種偏見と闘って、クー・クラックス・クランとかからね、「庭に出てけ」みたいなね、庭焼かれたりしながらも居座って…
山本 ほんとですよね。
菊地 ま、そういう葛藤もあったんですかね、早く亡くなってしまわれましたけど。
山本 ええ。ちょうど3回目の契約をね、うちが…2年後ですから…やってたんですよ。
菊地 はいはい。
山本 そしたら、本人ががんだっていうことで、先に手紙がきたんですね。
菊地 ああ〜、そんなことがあったんですか。
山本 それで来日ができなかったんですけどね。寂しかったですね、やっぱり。本人は知らないけど、がんだからってことで。
菊地 はいはい。…どうですか、接客というか、付き合い…ミュージシャンの中で、ナット・キング・コールなんかは…。
山本 いやあ…もう、非常に…みんなから評判が良かったし。もう、みなさん…「ナット・キング・コールが一番紳士だったんじゃないのか」って、みんな言ってましたね。
菊地 なるほど。やっぱ見た通りなんですね。
山本 はい。見た通りだし、やっぱり自分が苦労されてるし…。
菊地 はいはい。そうですね。
山本 だから、チャビー・チェッカーとのトラブルがあった時なんかも…
菊地 はいはいはい(笑)。…本で出てきますね。
山本 本にもちょっと書いたんですけどね。
菊地 書いてありますね。チャビー・チェッカーとトラブル起こすんですよね(笑)。そういう…ほんとにね、読むのがやめられなくなっちゃうような本ですけれども。ま、こういったエピソード満載の本ですけどね。

東京アンダーナイト (廣済堂文庫)

東京アンダーナイト (廣済堂文庫)

ライブ・アット・ニュー・ラテン・クォーター

ライブ・アット・ニュー・ラテン・クォーター

ライブ・アット・ニューラテンクォーター

ライブ・アット・ニューラテンクォーター

※文字起こしの「NAVERまとめ」あります。