「オン・ザ・ロード」


新宿武蔵野館のレイトショーで「オン・ザ・ロード」を観た。
あまりに有名なジャック・ケルアックビートニク小説の金字塔、待望の映画化。
長らく「路上」と訳されてきたが、数年前に原作の新訳版も出され、原題通りの「オン・ザ・ロード」で定着してきた。
監督はブラジル人のウォルター・サレス。今までこの原作の映画化は何度も試みられて頓挫してきたが、彼を監督に決定したことによって、ようやく完成までこぎ着けた。
それにはやはり「モーターサイクル・ダイアリーズ」の成功があってのことだろう。
若き日のチェ・ゲバラの南米旅行記を映画化した、このロードムービーの傑作は、自分もDVDで観てかなり好きになった作品。
実際今回の映画化について、「あ、あの『モーターサイクル・ダイアリーズ』みたいな感じで撮れば、けっこういい出来になるのではないかな。」とすぐにイメージできた。



そして期待して観た「オン・ザ・ロード」は…。
良くも悪くも予想通り。決して悪い作品ではないと思うが、やっぱり「モーターサイクル〜」で一度観たよ、この感じ…という印象が拭えなかった。
まあ、でもこれは仕方ないか。同じぐらいの時代の、同じような旅の記録が原作なのだし。
後は自分でも意外だったというか、佐野元春経由でビートニクの生き方にミーハー的に憧れを抱いていたはずだったのに、今映像で50年代アメリカの破滅的だが自由を謳歌したライフスタイルを見せられた時の「ピンとこなさぶり」(笑)。
主役のディーン・モリアーティは演じた役者もハンサムだし、魅力的に描かれてはいたのだけど、どうにも憧れられないというか。
ていうか、語り部役でケルアック自身でもあるサルも、最初からなんか引いてなかった? 後半あることをきっかけに、まさにドン引きするわけだけれども、出会った時から一目で彼に魅了されて、引き込まれるように路上へ…という物語の軌道に、上手く乗れなかったまま、最後まで観てしまった。
時代によるギャップがあるのは当然なのだから、原作を忠実に映像化するというよりは、もう少し現代の人が観ても共感できるような演出が必要だったのかもしれない。
旅の道中での出来事自体には、何の目的も意味もなく、乱痴気騒ぎでしかないわけで、そこにストーリーとして「オチ」のようなものがあるわけではない。
だからこそ、すべてが過ぎ去ってから、あの日々に思いを馳せているうちに、だんだん書きたい衝動に駆られてきて…という、ケルアック自身がこの原作を書き始めるシーン。
タイプライターにロール紙をセットして、ものすごいスピードで言葉を叩きつけていく…というところこそが、最もカタルシスを得られるところなのだから、このシーンだけでもガンとアゲて欲しかったなあ。なんか最後まで淡々としてたな。
でもそういう作為的な部分が少なくても観れちゃうのがロードムービーの魅力でもあるわけで、難しいところなんでしょうけど。

オン・ザ・ロード (河出文庫)

オン・ザ・ロード (河出文庫)