「凶悪」

サービスデーのヒューマントラストシネマ有楽町で「凶悪」を…。
ええ、ええ…覚悟を決めて、観ましたとも。
冷たい熱帯魚」を観た時のショックで、マイブームが訪れてしまい、頻繁に映画館に足を運ぶようになった自分にとって、「冷たい熱帯魚」以来の衝撃!とか煽られると、期待は募るものの、ちょっとたじろぐというか…。
これは恐ろしい、凄まじいという感想の声を周囲からも聞いていて、それなりに腹くくって観に行った。


実際に起こった殺人事件を追ったドキュメントが原作で、獄中からの告発によって首謀者逮捕に至るというストーリーは、日本版「羊たちの沈黙」のようで、サスペンスフルなところもある。
しかしハンニバル博士とは違って、知性もなくただ粗暴で、慣れによって麻痺しただけの残忍さが身に付いた男、ピエール瀧演じる暴力団員・須藤は、どうあっても擁護できない人物。
この映画がいくら残忍な殺害のシーンの連続で恐怖におののきっぱなしとはいえ、実は本当にこんな事件があったんだという現実の方が遥かに恐ろしいわけで。
そういう点では、ピエール瀧リリー・フランキーという、面白く楽しいはずの人を起用して、そのギャップで恐怖を演出し、山田孝之のシリアスな演技で緊張感を持たせるという作り方は絶妙で、中味はものすごくドイヒーな話なのだけど、映画としてはエンターテインメントとして見事に成立している。
それにしても、瀧とリリーさんの役者としての能力の高さにはあらためて感心した。瀧だと分かっているのに!…リリーさんだと分かっているのに!…でも、超怖えぇ〜。
ジジ・ぶぅ、超かわいそう!(この人選も絶妙過ぎる)…オニ!悪魔!…と本気で思ったもんなあ。
この映画を心から楽しんだと言うと、かなり不謹慎な感じがして気がひける。
でも、自分のようなサブカルをこじらせた自意識過剰中年にとっては、怖いものやショッキングなものも、それに触れた時に自分がどう反応するのか、というところに興味があるわけで、そこがストッパーにもなっているおかげで、こういう映画を観ても現実が引っ張られることなく楽しめるので。
移入しやすい人はヤバいかも、この映画。

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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