「ポップスの歴史の粋なお勉強」。

「粋な夜電波」第138回は「ポップスの歴史のお勉強」特集。
久々の先生モードによる充実の内容でしたが、まさか大瀧詠一さんへの追悼番組をこういう形で捧げるとは思いもしませんでした。敬意の表し方が、やっぱり「粋」ですね。
オペラのアリアを聞きながら、ポップスの源流について解説されたお話の一部を文字起こししてみました。

プッチーニ:歌劇「トスカ」

プッチーニ:歌劇「トスカ」

え〜…というわけでですね、ま…正月気分ですし、なんでまあ…今日は、試しにですね、「ポップスのお勉強」ってんでね。
「お勉強」っていうといやらしいですけどね。昔、植草甚一さんっていう方がフリー・ジャズの勉強」とか言ってね、こう…あれが多分サブカルというか、音楽…そういったものへ「勉強」って言い始めた最初だと思いますけどね。
え〜…ホッブス」の勉強じゃないすよ。ホッブス」の勉強は楽しくないんで。え〜…「哲学言論」!リヴァイアサン」!唯物論」!(笑)。「唯物論の先駆」、デカルトとのツンデレ」!…まあ、その…「ホッブス」は大変なんで、「ポ」…「ポップス」のほうですね。
えと…さてですね(笑)、ポップスと言ってもですね、20世紀ですよね。レコードのポップスの話なんですけど。
特にシングル盤っていうか、今言っても若い方なんか分からないかもしれませんけど、「ドーナツ盤」っつって、1曲だけ入ってる…ね。
「シングルカット」っていう言葉自体も、なんか…死語、古語になっちゃいましたからね。五十になったな…って感慨でいっぱいですけど。
ま、20世紀のポップスといえば、片面に1曲だけ入ってるシングル盤…ま、裏面が後から出てきますけどね。
あのレコードに1曲だけ入って、それを家で何回も聴く…っていう欲望ですよね。
「いやあ、そりゃあテクノロジーが発達したから、そうなったんだろ?」っていう話かもしれないですけど、やっぱテクノロジーが発達するにしても、やっぱり後ろには欲望がないとダメですから、まず。
なんで、ある欲望があって、1曲だけ家で何回も聴きたい…っていうことになったと思うんですよね。
20世紀の、特に欧米のポップスですよね。ま、もっと言うと、アメリカン・ポップスっていうのは、もちろんフォークソングだとかですね、大衆の音楽ですよね…路端の音楽っていうか…ストリート側の音楽も出自にしているっていうか、親の片方ですけどね。
ただやっぱね、クラシックからも来てると思うんですよ。特にまあ…その直前の娯楽だった、オペラですよね。
で、これもね、ワタシが考え付いたってわけでもなくて、日本人にはあんまりいないけど、外国人で言う人多いんですけど。
今オペラが好きな人にとっては、オペラはもう…観に行くんだって決めてから、観終わって帰るまで全部楽しいと思うんですけど。
あの…やっぱ、かったるいですよね、オペラはね(笑)。
オペラの中に「アリア」っていうのがあってね。まあ、クラシックマニアの方…クラシックマニアはある意味ジャズマニアより、はるかにゴリゴリですから、めったなこと言えないんで、ちょっとヒヤヒヤしながら喋っちゃいますけど。
「アリア」ってもんがあるんですよね。よくアリア、アリアって言いますけど、あれがね、簡単に言うと、オペラの中のシングル曲なんですよ。
で、アリアの定義ってのは、まあ…いろいろあるんですけど、よく言われるのは、「叙情的な、2〜3分間で、主人公が歌う歌」なんで。
ここに「叙情的」ってのが入ってきてんですよね。というのは、オペラってのはただ単に、「敵軍が門の前まで来ています。」っていう…見張りの報告まで、全部歌でやりますから(笑)。「叙情的な歌」ってのだけじゃないわけですよね。全部歌ですからね。
アリアってのはそういうわけで、いわゆる…それがシングル曲なんですよ。そんな長くないんで。こう…パッと聴けるやつですね。
まあ…オペラ書く時には、「何幕物で、一幕につきアリアが何曲で、よろしくお願いします。…序曲が何曲で、前奏曲が…」とかっていうような発注がくるぐらい、アリアってのは一種の…ほんとにシングル曲なんですね。
とりあえず番組でかかるの珍しいですけど、普通のアリア聴いてみますか。いいやつ…ね?…一流のってやつね。
レオンタイン・プライス…黒人のソプラノさんですね、ソプラノ歌手さんですけども。
ま、有名なジャズの帝王マイルス・デイヴィス…あのマイルスがですね、「レオンタイン・プライスの入った風呂の湯なら飲む!」って言わせしめた…これ本当ですよ…言わせしめた、それほど崇拝…マイルスですら崇拝するカリスマを持った、黒人ソプラノ歌手ですね。
しかも演奏がウィーン・フィルで、指揮がカラヤンっていう(笑)。昔テレビでよくやってた、正月やってた、山城新伍さんの新年会みたいな、芸能人の新年会みたいな、豪華絢爛ですけども。そういう盤ですね。
しかも歌劇「トスカ」ですね。プッチーニの名作の中の名アリアと言われている「恋に生き、歌に生き」っていうね。
まず、聴いてみましょうか。こんなの番組でかけるのは、後にも先にも最初で最後だと思いますから、ガッツリ聴いてみますか、試しにね。

(曲)

…と、まあ、こんなふうに続いていっちゃうんですけどね。(曲F.O.)
これが…やっぱ凄いですよね。途中でよっぽど切ろうとしたんですけど、完奏してしまったら違う番組になってしまう…と思いながら(笑)。どこで切ろう?…としたら、切れませんでしたけどね。やっぱ凄いですよね。
まあ…ロゼワインなんかいいんじゃないですかね。まだもうちょっと先ですけど、花見の季節になったらアリアいっぱい持ってって、アリア大音量で流してね。桜の花見ながらロゼのワインとか飲んで、焼鳥とか食うのが一番いいと思いますけどね。
ただね、これ…第二幕の10曲目なんですよ(笑)。なんで、一幕全部聞いて、ほいで二幕も10曲聞いてやっとこれが出てくるわけですよね。
まあ…映画のクライマックス…何でもそうですけど、20世紀ってのは編集の時代で、おいしいとこだけちょっとちょっとずつつまんで編集しちゃえ!…って欲望がですね、19世紀までに溜まりに溜まったわけよね。それが出来るようになっちゃったんで、レコードだと可能になるわけですよね。


(中略)


…「アリアの歴史」って話だけでも、大変な長さになっちゃうんですけど。
ま、とにかくこういうふうにして、叙情的で主人公が歌う、シングルカットみたいなものがあって、ただこれ聴くのは大変だ、と。
なので「それだけ聴きてえよ。」ってことで、こう…ポップスの1曲だけ聴くっていう欲望が準備されて、それがこう出来てきたって話ですよね。実際にレコード盤も出来てきてね。
でも、それはオペラだけに限ったことじゃないっしょ?…っていうね。さっきも言ったように映画とかだってそうだし、音楽ひとつとったって、ポップスの源流はオペラだけではないですよね、決してね。
ただ「アリアだけ聴きたいな。」っていう…シングル曲ってのはよっぽどの…歌曲だって歌曲集になりますからね。1曲だけ聴くっていうことがなかなか難しい…そっから取り出すんだっていう欲望になってるんですけど。
ただ、そこだけ取ってんじゃないんですよ。この…いかにポップスがオペラの血も引いてるかっていう話の前にCMいきましょうかね。

ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ

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リヴァイアサン〈1〉 (岩波文庫)

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