「わたしはロランス」



昨年秋に公開されてから、観よう観ようと思っていた「わたしはロランス」をようやく観ることができた。
Twitterで絶賛コメントをよく目にしていて、なんとなく自分が好きそうな「せつないじらしい話」でありそうだったので、いずれ観るつもりではいたが、なにしろ168分の長尺の作品なので、なかなか時間の都合がつかず、ついつい先延ばしにしてしまっていた。
幸いUPLINKでロングラン公開してくれていたので、年が明けて2月も半ばになったが、ようやく。
カナダの若き天才(まだ24歳!)、グザヴィエ・ドラン監督の第三作目。
同じくUPLINKで現在も公開中の一作目「マイ・マザー」と二作目の「胸騒ぎの恋人」を既に観ていて、その才能の迸りに感服しまくっているので、期待値も上がっていたのだが。
…いや、傑作。素晴らしい!
観る前にストーリーについての予備知識を入れないようにしていたが、「女性として生きたい男」の話だと知って、同性愛者であるグザヴィエ・ドラン君本人の主演だとばかり思い込んでいた。(前二作は本人主演だったし。)
しかし、今回主人公のロランスを演じたのは、フランス人でキャリア十分の実力派俳優、メルヴィル・プポー
こんな背が高くてセクシー・ガイな彼が、性同一性障害?…と意外に思った。
彼の恋人…男性時代からの恋人で、カミングアウトしてからも理解しようと努めるストレートの女性・フレッドをスザンヌ・クレマンが演じている。
本当の自分を偽って生きてきたロランスの葛藤も切なくて胸に迫るものがあるが、観ているうちに、それでも彼(彼女?)を愛してしまっているフレッドの方に、どんどん感情移入していってしまい、もう切なくて切なくて…悶え死ぬかと思った。
自分がこんなに女性目線で作品に没入したのは初めてだ。168分が長く感じず。
「マイ・マザー」と「胸騒ぎの恋人」を観た時も思ったが、とにかく心の機微を描く、その繊細さたるや、脚本も手がけるドラン君の才能のたまものでしょう。
時折大胆な演出も加える緩急の上手さもあり、色彩センスも抜群で、いちいち美しくて…もう、たまらん。溜め息と一緒に魂も抜け出るかと思った。
この才能は映画界の宝だな〜。
実は、おそらくこの作品が2013年のマイベスト1になりそうな予感はしてて、結果やっぱりぶっちぎり、生涯ベスト級の作品だったわけだが。
それを踏まえて、映画秘宝の今発売されている号の「2013ベストムービー」の記事をざっと立ち読みしてみた。
「秘宝」的に「パシフィック・リム」祭りになることは予想が付くが、この「わたしはロランス」をベストに挙げている人が、たった一人しかいなかった。(ざっと見た限り)
小説家の樋口毅宏氏だった。彼だけがぶっちぎりの一位に「ロランス」を挙げていて、さすが同い年のロッキン・オン愛読者!…なんか激しく同意できて、ちょっと嬉しく思った。
最新作「トム・アット・ザ・ファーム」の全国公開はいつなのだろう。楽しみだ!

映画秘宝 2014年 03月号 [雑誌]

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