「トム・アット・ザ・ファーム」



公開を楽しみにしていた、天才グザヴィエ・ドラン君の新作「トム・アット・ザ・ファーム」を観に、アップリンクへ。
前作「わたしはロランス」で、その映像作家としての才能を決定付けたドラン君が次に挑んだのは新境地。
初めての原作付き…というか、戯曲の映画化で、しかもサイコ・サスペンス?
本人主演で、衣装も自分で担当。こだわり抜いた映像美と、ダークなストーリーとの相性はどうなのか、大いに期待して観た。
トム(グザヴィエ・ドラン)が向かった農場は、ゲイの恋人であるギヨームの実家で、事故で亡くなった彼の葬儀のために訪れたのだったが、ギヨームの母には息子がゲイであったことは隠されており、サラという女性の恋人がいたということにされていた。
ギヨームの兄・フランシスから、単なる友人として振る舞うことを強要されたトム。暴力性を露わにしていくフランシスは、トムを農場に留め、彼を服従させようとするのだが…。
映画が始まってから、ずっと漂う不穏なムード。
表情のアップが多用され、表面上は普通の会話を交わしているに過ぎないのに、圧迫感がある。
スリリングでミステリアスな緊張感は最後まで途切れることがなく、暴力的なシーンでもうっとりするぐらい美しい。
結局何も起こらなかったのか? もっと酷い事が起きようとしていたのか? 真相は明らかにされたのか?
疑問を残したまま、やや唐突に終わる。
自分はドラン君のファンなので、これで充分に面白かったけれど、この作品にのれないという人が多くても、それもわかる気がする。
「わたしはロランス」の色調豊かな美しさとはうってかわって、今作ではダークな映像美を追求していて、それはそれで美しい。
ただ、この作品を謎解き、スリラーという面から観ると、やや耽美的に過ぎると思う人もいると思う。
ドラン君が美し過ぎるがゆえに、ナルシスティックに思われるのも仕方がない。
編集の段階で省いたのか、やや説明不足なため、ストーリーの落としどころとしては、スッキリしない感じも残る。
ガブリエル・ヤレドの音楽も、ちょっと仰々しい。
ただ、自分はこの作品、かなり好きだなあ。
登場人物の関係性は、表に出ていない部分で、相当複雑に絡みあっているのであろうことは想像がつくし、それがいろんなことを象徴しているのだろうとも思う。
分かりやすいところでは、最後にトムを追い回すフランシスが、なぜか背中に「U.S.A.」と大きく描かれた皮ジャンを着ており(笑)、支配的なアメリカと母国カナダの関係性を表している…唐突な気がしないでもないが。
繊細な心の機微を描くのが上手いドラン君の良さは、ロマンティックでない会話劇の時でも生かされることがわかったし、街でも農場でも彼が撮ると美しく見える。やっぱりアートフィルム寄りだろうから、作品の内容は選ぶ作家だとは思うけども。
次作の「Mommy」の公開が今から楽しみでならないが、とりあえず監督業は一旦お休みするらしい。ちょっと残念だが、役者としての出演作も決まっているので、まだまだドラン君のことは追い続けるぞ。フランシスのように、どこまでも(笑)。

マイ・マザー Blu-ray

マイ・マザー Blu-ray

胸騒ぎの恋人 [DVD]

胸騒ぎの恋人 [DVD]