「ブラック・ロック化によって、プリミティブさを取り戻すか?」

「粋な夜電波」第233回放送はブラックミュージック特集パート2。
先週に引き続き、ディアンジェロの「ブラック・メサイア」を解説しながら、今後のブラックミュージックのトレンドがどうなるかについての見解を述べられていました。
菊地先生の解説は単なる音楽批評にとどまらず、いろんな角度からの視点を獲得することによって我々の音楽の楽しみ方が変わる…つまりはちょっと人生が豊かになることへの誘いとして機能させることを目的とされているところが素晴らしいんですよね。
前回の放送と合わせて、関連音源もいろいろ聞いてみて、今後のブラックミュージックシーンがどう変化していくのかを、楽しみつつ見届けていきたいです。
「ウマヘタウマ」のバンド演奏によって、ブラックミュージックがプリミティブさを取り戻していくかという点についての解説の一部を文字起こししてみました。

First Ya Gotta Shake the Gate

First Ya Gotta Shake the Gate


はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。今週は「アフリカ音楽からディアンジェロまで。ブラックミュージックを語るには、クラブの中にいるだけでは不十分だ」と題した、ブラックミュージック特集のパート2となります。
えーと…ハーモニーに関しては「まあ…理屈は分かんないけど、なんとなく感じとしては分かったよ。」というところまで行けていただけたんじゃないかな…と思いますね。
次に来るのがですね、ディアンジェロが…まあ、これはもうすでに「Black Messiah」の名義がですね、D'Angelo だけじゃないですよね。「D'Angelo And The Vanguard」…バンドのヴォーカリストとしてディアンジェロが参加してると。つまり、「これはバンドのサウンドなんだ。」というところに戻って行く感じですよね。ブラック・ロック化っていうかね。
で、まあ…「ブラック・ロック」って言うと、例えば…「ジミヘンはブラック・ロックか?」とか、いろんな話もあるんですけど。ワタシはジミヘンはブラック・ロックでも無いし、ロックでも無いし、「ジミヘンはジミヘン」だと思うんですよね。
ワタシはちなみに…モロッコでジミヘンが着想を得ていたと言われる、モロッコのタンジールのジミヘンが泊まっていた…俗称「ジミヘン・ホテル」の13号室で、年末年始を越した事がある男ですから(笑)。言う事に間違いは…あると思いますけども(笑)。ま、ま、ま…ジミヘンは…ジミはジミですよね、やっぱね。
で、まあ…「ブラック・ロック」って言われるものがいっぱいあって、ま…黒人がロックやるわけなんだけど。ただ、そのほとんどは、黒人が演奏しているだけで、まあ…ロックなんですよね。「黒人がファンクだとは限んないよ。黒人がR&Bだとは限んないよ。」ってことだと思うんですけど、ブラック・ロックはいっぱいあります。
が、「ブラック・ロック」に独特の音楽性ってのは…なかなか…パッとわかりやすくは見つかんないですよね。
それよりも「ブラック・ロック化」と今言ってるのは、「バンド化」ですよね。その…バンド化することによって、何が変わるか?っていうとね…やっぱり「Black Messiah」聴いた方は、みんな思ったと思うんですけど、先週申し上げたように…ほんとはすごい上手い人が下手っぽく雑に演って、そんで「やっぱウマい!」ってことなのよね。
これはほんと難しいです。二回ひっくり返ってますから(笑)。えーと…先週何て言ったっけ?…「ウマヘタウマ」の状況だと思うんですよ。
で、まあ…「ヘタウマヘタ」とかもあるわけなのよね。ローリング・ストーンズさんとかは…ま、ワタシ別に全然ディスする気ないですけど、まあ…「ヘタウマヘタ」でしょうね。結構ね。そこがいいんですよね、結局。
だけどやっぱり…ブラック・ミュージシャンは…アスリートの側面がすんげえ強えんで、ヘタっていうのがね、なかなか難しいの。これはある意味、弱点でもあります。
ヘタは別に音楽的価値として…別に「ウマい」だけが黄金じゃないですからね。音楽はオリンピックではないんで。
歌が下手、踊りが下手、楽器が下手…ってのが「いい!」って事だって、十分あるわけなんで。それができないってのは、ある意味…不全でもありますよね。
(中略)

Killing Time

Killing Time

ジミもそうですし、(キャプテン・)ビーフハートもそうですし、今聴いた物たちは結構…一番近いのが…やっぱこれ白人ですから「Killing Time」だと思うんだけど、そんなにギンギンになってないと思うのね。興奮しきってないっていうか。トランスしてないっていうか。
で、ディアンジェロはやっぱり今回演奏が…例えばね、ついこないだまで「ブラックミュージックの演奏ってのはこういうもんだ。」っていう…つまり、よしんば「演奏のドラムが揺れている」と。「で、その揺らぎがカッコいいんだ。」…これ番組で散々やってきたことですから、改めてもう一回言うのも馬鹿馬鹿しいぐらいなんですけど(笑)。
しかも今、それに関する本書いてますから、出たら読んでいただきたいんですけど。
いわゆる「J-Dillaイズム」ね。「J-Dillaイズム」ってのは何かっつーと、リズムボックスを使うんだけど、機械でピチッと合わせないで手で打ってって…そうすっとヨレるじゃないですか…そのヨレた感じのカッコいいのを、そのまま使うってのが、まあ…「J-Dillaイズム」で。
で、最近の物は、そのJ・ディラっていう人がやってきた、手打ちでヨレてるリズムってのを、身体で今度は真似していく…機械を人体が真似していく、と。人体と機械は真似のし合いっこですからね、バックの取り合いですから。
ほいで、まあ…「ブラック・レディオ」のどれ聞いたっていいですけど…これ聞きましょうか。ロバート・グラスパー・エクスペリメントですね。
(曲)

これはまあ…最初に聞いた時にはすごいショック…もう5〜6年前のアルバムですけど、すごいショックで。誰もが打ち込みだと思ったのね。ところが生ドラムだった。
という意味において、70年代の頃の…スティーヴ・ガッド時代の…スティーヴ・ガッドレニー・ホワイトといった時代の、フュージョンと全く同じで。最初みんな打ち込みだと思ってたの。ところがなんと人間が叩いてた。録り音…録音の方法も変わったし、プレイも変わった。で、それによって「これまるで機械じゃん。」と思ったが、機械ではない…ということで動く、と。
さらに「中2」っぽくない、と。「大2」っぽい。「ダイニッポイ」って大日本って意味じゃないですよ(笑)。大学二年っぽいってことですけど。デートにも使えるし、ジャズ研の練習にも使えるっていう意味においては、「大二病音楽」だと思うんですけど。「高2」でもないですもんね。高校にコンボ無いもんね。高校にジャズの研究会あっても、ビッグバンドでしょ。
だから、高校にロバート・グラスパーのバンドのコピーとかが軽音楽部に出来ると、相当いいと思うんですけど。もうあんのかな?
それはともかく…今聞いたグラスパーの…これはもうどなたも御存知「Black Radio」の「1」ですけども。これが「カッコいい〜!…来年以降も。」あるいは「カッコいい〜!…今年までは。」…となるのかが問題だ…ってのが、先週今週の問題提起ですよね。
ディアンジェロは思い切って、ヘタすればキャプテン・ビーフハート…もっとヘタすればですけど「Massacre(マサカー)」、もっとヘタすればもっといろんなもんがあると思うんですけど。
つまり、R&Bのスティーミーな…女が口説ける、シャンパンが似合う感じ…を、全部テーブルの上から放り投げたわけですよね。それによって「Black Messiah」っていう、ものすごい強度の強いアルバムを作った。
で、まあ…そのことは、先週から言っているように、アフリカのコーラスっていう物にも戻ってるし、あらゆるプリミティブがファンクミュージックの中に取り戻されて、トレンドが変わるかもしれない…相当プリミティブに。
しかしそれはただ単に、アフリカ的な…ワールドミュージックみたいな事をやってるだけじゃないんですよ。そんな音楽、面白くも何ともないですよ。
ワタシはこの番組でワールドミュージックずいぶんかけてますし、アフリカの音源もかけてますけど、じゃあそれをアメリカのヒットチャートだと思って聞いたら、面白くも何ともないですよ。音楽的に興味があるなと思って、素敵だなと思うから聞いてるわけで。やっぱアメリカのチャートインして1位になるには、それなりの意味がやっぱり必要ですよね。ディアンジェロにはそれがあるわけなんですよね。
で、ディアンジェロが今回ヤバいな…とワタシが思ったのは、コーラスもそうですけど、もうひとつは誰でも分かる…ドラムがさっきの…ロバート・グラスパーはジャズ発ですけど、J-Dillaイズムっていうか…ちょっとこう…ヨレた感じのドラムを、つまり「機械がヨレさせたものを人間の手で再現できる…これはクールだよ!」っていうのが、ここ5〜6年のトレンドだったんですよね。
これ、かなぐり捨てたの、バーンと。かなぐり捨てて、思いっきりロックバンドみたいにバッカンバッカンに演奏して、ギターも適当なチューニングで弾いたりなんかしてですね(笑)。ベースももうルート弾かないで好きなところで歌に合わせて適当…適当っつっちゃあ失礼ですけど…今まで無かった、定番のファンクあるいはブラック・ロックのやり方じゃない…ある意味のパンク的な感じっていうかね。
ニューヨークの70年代末から80年代の頭にかけて起こった、ニューウェーブ、パンク…ノーウェーブって言われる、楽器が演奏出来ない人達が演奏してきた音楽ってのもあるんですけど。ま、ヒマがあったら番組でも御紹介しますけどね。ほんとに凄いです、教養主義の極点ですけど。あれに、すごい上手くてカッコいい連中が、ちょっとそれっぽさを入れて、トレンドを変えるのか否か…非常に興味があります。