「音楽技術大国クバ。」

「粋な夜電波」第246回放送は、急遽キューバ音楽の特集回となりました。
アフリカ音楽の影響については番組で何度も語られてきましたが、実はキューバ音楽にも精通している菊地先生が、キューバアメリカの関係の歴史も解説しつつ、名演奏の音源を次々に紹介。内容充実の回となりました。
映画「Cu-Bop」について解説されている部分を文字起こししてみました。
(「Cu-Bop」は自分も観ましたが、最高でした。)

インヴェイション・パレード [直輸入盤・日本語帯解説付]

インヴェイション・パレード [直輸入盤・日本語帯解説付]

はい、今日はキューバの…Cubaの人は「キューバ」なんて言わない、「クバ」って言いますけどね。
まあ…日本人のクバに対するイメージは、いろいろその…あるのだと思いますけれども。なにせ音楽的に言うと、クバはとにかく技術大国です。ものすごいテクニシャンの国ですね。クバにいる人は全部化けもんなんで。ほんとですよ。
いろんな事情があるんですよね。社会主義国ですから、コンペなんかのお金がすごい貰えて、一回コンペに優勝すると…ま、国がやる何かの大会とかで優勝すると、もう一生食ってけるぐらいに近いお金貰えたりとかですね。
あとは元々音楽大国ですから、家が代々シェケレ…っつって、こう…シャカッシャカッって振るシェイカーのでっかいみたいなのあるんですけど、シェケレだけの一家…後で紹介するユリオール・テニー、ヨスバニー・テリーなんかを輩出したテリー一族ってのはシェケレの奏者の一族なんですけど、そういう「一家でシェケレなんだ!」「一家でコンガなんだ!」っていう、一族が全部それやってる等々の理由によって、ものすごく技術が発達したんですね。文字通りガラパゴス的に発達したの。
で、もうひとつ「キューバとジャズ」って事を考える上での大きな軸は、在郷っていうかね…要するにキューバに残ってジャズを続けた人…それはさっき言ったように一族がそうだったり、コンペがあったりっていう世界の中で伸びていった人ですね。
あともうひとつは、前口上で言いましたけど、ニューヨークまですぐですから。キューバ革命までは、もうリゾート地だったわけ。ニューヨークの金持ち…ニューヨークとかニューイングランドとか…あの辺りの金持ちにハバナってのは相当…何て言うんですかね、東海岸ラスヴェガスっていうかさ…ような感じだったんですよ。
で、まあ…それがキューバ革命に因って国交が断絶し、ましてやアメリカはあの近距離で革命が起こったっていうことで、「キューバ危機」って言うぐらいね…「ドミノ・セオリー」なんつってね、クバが共産主義国になったんで、ドミノが倒れるみたいにどんどんどんどん周りがブワーッと共産主義になるんじゃないか?って、ものすごい被害妄想みたいなもんを抱いたんですよね。ここら辺はまあ…世界史の授業みたいだからあれですけど(笑)。
ということは、つまり…ニューヨーク移民としてのクバのプレイヤーと二種類いるってことなの。

今年ワタシ…失礼、去年だ。2015年にワタシ「Cu-Bop」って映画の旗振り、すごいやったんですよね。ま、おかげさまでと申しましょうか、本当に作品が素晴らしいからですけど、ワタシの旗振りなんぞは…ほんとに何か…屁の突っ張りっていうかね…その程度なんですけど。いろいろ原稿書いたり、パンフレット書いたり。
御覧になった方もリスナーの方の中でいらっしゃると嬉しいですね。日本人が海外で撮った音楽ドキュメンタリー映画っていう意味では、今のところ歴史上最高傑作だと思いますけどね。なにせ日本人が撮ってるんで。
高橋さんって人が撮ってるんですけどね。高橋慎一さんっていうね、実際に会うとAKBの追っかけやってるような感じの人なんですけど(笑)。追っ掛けてんのが「AKB」じゃないっていう…「CUBA」だっていうね(笑)…クバなんだっていう人なんですけど。
この人はほんとにキューバ音楽にめっちゃめちゃハマって、そいでキューバに居残りのほうね、セサル・ロペスっていう英雄がいるんですけど、サックス奏者ですけどね。キューバチャーリー・パーカーって言われてる…ま、人によっては「キューバジョン・コルトレーン」とか(笑)…もう何でも大物ならくっ付けちゃう…「南米のエリザベス・テーラー」みたいなもんで、キューバの何とかって言われるサックス奏者がいて、そいつのバンドと…あとアクセル・トスカってね、ま…映画観た方じゃないとちょっとわかりづらいと思うんですけど、もう金髪のアフロで…彼はニューヨークに渡ったほうですね。キューバ移民として生きて行くことを決定して、ニューヨークで活動している人。で、ヒップホップと混じったり…どっちもジャズミュージシャンなんですけど。
と、まあ…その二つの選択肢がクバの人にはあって、どっちももの凄い技術力を持ってるんだけど、アメリカとの関係がなにせコレもんなんで、アメリカのジャズ界が…アフロ・アメリカン芸術ですよね、基本的にジャズはね…なんで、そのラテン・アメリカン芸術、イベロ・アメリカン芸術…イベロ・アメリカンってのはイベリア半島だった所ですけど…イベロ・アメリカン芸術に対して、やっぱちょっと…あんだよね、まだね。いかにジャズが自由の音楽っつっても、まあ…ミュージシャンにはないんでしょうけど、マーケットや上のほうの偉い人たちにはまだ…排撃とまでは言わないけど、ちょっとあるんで、クバの人たちはガラパゴス化してんですよ。ニューヨークにいるのにね。
で、この二つの選び方…ハバナに残って活動してる人、ニューヨークで頑張ってる人…をハバナで対バンにして、二つのバンドでツアーをさせようって、日本人が考えたわけ。ま、これはアメリカ人だったらちょっと考えられない事なんですよ。ね?…日本人だから出来たってこともあるんですけど。
で、まあ…これが大変で。なにせアメリカがビザ出してくれないんで。アクセル・トスカっていうニューヨークにいるほうの奴は、ギリシャ経由でキューバに行くんだよね。ニューヨークに住んでるのに。とんでもない大回りして。じゃないとキューバに入国出来なかった…っていうところが、ドキュメントで描かれているんですよ。

キューバはですね…まあ、もちろんディスるつもりはまったくないですけど、あの人…ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を…ヴェンダースライ・クーダーが作りましたよね。ヴェンダースライ・クーダーはロックとフォークの人なんで、ああいう人たちが…ああいう人たちって、立派な人たちですけど(笑)…ああいう人たちがクバに行ったりすると、ああいう感動のしかたして、ああいうところをピックアップするってのが「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」なんですよ。でも、あれはクバのうちの30%も見てないですから。クバの70%は見落としてんの。
あれはギター持ってロック&フォークやりたい人が見た、クバの美味しいところだけ凝縮した映画で、それが世界中に広まるでしょ?…そうすっとクバってのはああいう所だと思われちゃう。ですが、クバはガラパゴスで、とんでもないのがいたわけ。
さっき聞いたアルフレッド・ロドリゲスなんて、とんでもないですよ。アルバムはですね、「The Invasion Parade」…アルバムのタイトルチューンを聞いたわけですけども、まあ…エスペランサ・スポルディングは入ってるし、ペドロ・マルティネスペドロ・マルティネスってのはパーカッション叩いてた奴ですけど、こいつもヤバいんですけど。dCprGとペペ・トルメント・アスカラールの音源聞かせて、「メンバーにしろ!」って言ってきた奴ですね。「俺がやればもっと凄くなる!」って。「どっちのバンドが?」って言ったら、「どっちも!」って言った奴なんで(笑)。いまだにちょっと共演できてないですけどね。共演の約束を酌み交したままになってるペドロ・マルティネスですけど。
まあ…FKA Twigs病に罹ってしまったエスペランサ・スポルディングが本当に素晴らしい。エスペランサが自分でやったらこんなに出来ないよっていうぐらい、彼女の力を引き出している、素晴らしいチューンも入ってますんで、このアルバム是非チェックしていただきたいと思います。
ちなみにアルフレッド・ロドリゲスはニューヨークです。つまり移民の道を歩んでる人たちね。
次に聞いていただく曲は、シオマラ・ラウガーっていう…まあ、端的に言うと、おばあさんですよね(笑)。
もうすでにキューバ音楽のファンの方だったら、ワタシがどういうストーリーを今踏んでるのかわかると思うんですけど。今から聞くシオマラ・ラウガーさんは、「Cu-Bop」に出てくるアクセル・トスカ…ニューヨーク移民のほうの…あの母ちゃんです。
映画観るとわかりますけども、アクセル・トスカはニューヨークに行って、ものすごい才能と能力があるもののですね、やっぱり不遇なんですね。その時にニューヨークのクラブでキューバの民謡とかを歌って…その音楽は「スープ・ミュージック」っつって、ものすごい差別されてたんだけど…そのお母さんのバックから始めて、アクセルはやっとニューヨークでも一目置かれるようになっていく…というストーリーが描かれていますが。そのアクセルの母ちゃんが、今から聞くシオマラ・ラウガーなんですよね。
で、話は複雑に交錯してまして、この番組は…フィラーっていうの?…広告が無い時に流れる音楽が、これはスタッフが選曲したんですけど、ワタシがやった「大停電の夜に」っていう映画のサウンドトラックから取ってるんですよね。サウンドトラック「大停電の夜に」の一番最後のクロージング・テーマの曲があるんですよ。「Wait Until Dark」つまり「暗くなるまで待って」っていう。「大停電の夜に」っていう映画は、東京都内が全部一挙にクリスマス・イヴの夜に停電が起きるとどうなるか?っていう映画なんですけど、それの映画音楽やりまして、主題歌も作りまして、「暗くなるまで待って」っていうタイトル付けました。これでヴォーカル・ヴァージョンとインスト・ヴァージョンがあるんですけど、ヴォーカル・ヴァージョンを歌ってる人が、シオマラ・ラウガーです。
(曲)
はい、これはシオマラが歌ってるから、後ろのオーケストラもクバ人か?とかニューヨーク?とかじゃなくて、後ろの演奏は全員日本人で。トラックだけ送って、シオマラに歌って返してもらったんですけど。
このシオマラ・ラウガーの息子がアクセル・トスカ・ラウガー…つまり「Cu-Bop」に出てくるニューヨーク在住のほうのミュージシャン。で、今からシオマラの最新作を聞きます。
で、このシオマラの最新作のプロデュースをしているのが、ユリオール・テリー。先週お話した、大西順子さんの次のアルバムでベイス弾く人です。その兄貴がヨスヴァニー・テリー…dCprG野音で活動再開した時にいた奴です。サックスで。
ヨスとワタシは…あ、ヨスバニーは「ヨス」…「ヨス!」「キクーシー!」って呼び合ってますけど。
結局、クバとズルズルの菊地…という事なんですよね、はい。

Tears & Rumba

Tears & Rumba

オリジナルサウンドトラック 「大停電の夜に」 Wait Until Dark

オリジナルサウンドトラック 「大停電の夜に」 Wait Until Dark