「恋はから騒ぎ。」

「粋な夜電波」第247回放送は、スペシャルウィーク
「音楽手相見・新宿のおじき菊地成孔が、あなたのお悩みに選曲で答えます!」と題して、好評のミュージックプレゼント企画。
多数寄せられた恋愛相談のメールに、粋な一発回答。そっとメッセージを込めた超訳詞を添えて、プリファブ・スプラウトの名曲をオンエアされた部分を文字起こししてみました。

黒い聖者と罪ある女

黒い聖者と罪ある女

  • アーティスト: チャールス・ミンガス
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2012/03/21
  • メディア: CD
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恋愛…もうメールすごいですよ。メールがね、恋愛のメールはもう何ていうか…「恋の悩みが2万通だ、もう!」(笑)。
1枚、代表して読ませていただきます。
(恋愛相談のメールを読んで)
同様投書多数です。まあまあまあ…
昔、人類はですね、具体的に言えば19世紀には人類はですね…オペラを観に行ってたわけです。
それは、音楽があって、物語があって、オペラ座っていう素晴らしい建築が見れて、舞台衣装が見れて、自分もドレスアップして、幕まではシャンパンなんか飲んじゃったりして、社交もあったりして…一緒に観に来た人のね、エンターテインメントの総合体だったわけですね。これが普通だったわけです。それしか無かったんです、19世紀は。
しかし人間は20世紀に入ると、コンテンツを分解して、その1個だけを貪ろうという…悪い癖がね、あるんですね。
まずレコードが出来ます。家で寝転んで、オペラ座まで行かなくてもオペラの音楽だけ聞く事ができるようになりました。そのうちアリアだけを…めんどくさいから、衛兵が「大変です、敵の軍勢が来ています!」っていう歌なんか聞かねえから(笑)…アリアだけ聞きたい…アリアってのは主人公が歌う、アルバムでいうとシングルカットのことをアリアと言いますが、アリアだけを聞くようになります。
呑みに行くのは呑みに行くだけになります。舞台衣装は、とにかく服が好きな人がハイファッションのショーを観ればいい…ということになっていく。
19世紀までくっ付いていたものは、みんなバラバラにされた。
つまり何が言いたいか?
「恋愛」と「結婚」と「セックス」と「出産」と「死」は、昔は無理なく全部が総合的に癒着していたんですね。でも、今はどうやら違うようです。
セックスにはセックスの関係が、そして結婚には結婚という関係があり、そこには各々現実的なリスクやタクティクスがあります。
ただ、そういった…バラバラにしていった時にですね、恋愛…「恋」ですね、恋としましょう。
恋を、過去癒着していたもの…総合的なものから、ピンセットで取り出します。その場合、恋とは何かというと…
シェイクスピアは言いました。「Much Ado About Nothing」…これは「から騒ぎ」と訳されました。
100年前の話じゃないです。1600年…17世紀の到来と同時にこの戯曲は出版されました。416年前です。それは喜劇であって、恋の話ですね。
ロミオとジュリエットは死にました。でもあれは結婚が絡んでる。政治も絡んでる。
恋愛だけピンセットで取り出して、恋愛だけを行うという事は…つまりこれは空っぽのから騒ぎ、大騒ぎであって、中心には何も無いです。
セックスに先天的病的な不全や障害がある方、結婚に先天的不全や障害がある方…そういう方が、もし悩んでるとしたら、ワタシはこんな事は絶対に言わない。
ただ「恋だけ」は、どれだけその人が深刻に悩み、またそれがフェイクでなくガチガチのリアルであろうと、すべての恋は原理的にから騒ぎなので、答えはひとつ。「好きなだけ、勝手に悩め!」ということですね(笑)。
そして、ついでに言わせていただくならば、音楽というものがこの世にはあって、それは恋してるアナタのすぐ目の前、あるいは脇にあって、絶大な効力を発揮します、と。ワタシに言えるのはここまでですね。
だから実際のところ、選曲なんか何でもいいわけです。ラブソングなら。
ワタシなりに最高の1曲というのは決まっております。
恋愛なんっちゅうもんは、「恋焦がれる」って言うぐらいで、煙を出して焦げ目が付くまでやるのだからし、個人的に。つまり、ステーキのようにしてですね、「焼き加減はこのぐらいにして欲しい。」という気持ちも込めて選びました。
非常に詩的な英語を使うので、大胆な超訳による歌詞を読みます。ワタシが訳しました。
曲を聞かずに、この歌詞だけ読んで、もう話終わりにしてしまうぐらい、この歌詞は完成されてますし、ラブソングとして純化されていると思います。ヴォーカルはやや下手ですが、またそこもよろし…ということですね。
では歌詞を読んでプレイさせていただきます。


福音の残酷さは 僕たちをみんな あらゆる束縛から解放しておきながら
僕から君を奪い去った
なんてこった
シカゴのアーバンブルースだって
今 嘆き悲しんでいる僕の切実さは 歌えっこない
なぜなら 君を失った
僕は 寛大な男で どんな事があっても 男としての欲望…その苦悩を人前で見せたりなんか 絶対にしない
だけど あのケーキの上にのっかっているサクランボに噛み付く 君の秘密の前歯も
僕の発言をグラグラに左右してしまう 君の偽善的な微笑みも
つまり あの文句の付けようもない 完璧だった日々が
やっと何とか生きていられるぐらいに 堕ちてしまったことを
いまだに うじうじ悩み続けている日々


ああ どうすればいいんだろう
独占欲が強いなんて 責めないでくれよ
だって 君がアイツと抱き合っていると思うと
もちろん 世界中の人々は 自由であるべきだ
だけど 人と同じことをしちゃいけない
人真似は くだらない
君に恋をしたからって 誰だって君と抱き合えばいいっていうわけじゃないじゃないか
そう 僕の心は こんなになるまで 偏り過ぎている
公正で 中立で 冷静な考え方なんて できると思うか?
無理だよ
一緒に君と Papapa Papapa…と歌って
どう? どんな感じがする?
かけがえがない 僕の友だち
Papapa Papapa…
こんなの酷過ぎる
Papapa Papapa…
残酷だよ
残酷って言葉じゃ とても足りないぐらいに


でも 福音の残酷さは
僕たちをみんな あらゆる束縛から解放しておきながら
僕から君を奪い去った
なんてこった
真の愛は 自分を捨てること
相手の為に 喜んで血を流すべきなのだろうか
それとも あくまで誇り高く 何事も無いかのように 振る舞うべきなのだろうか
しかし 君のスカートの皺 それだけでもこんなに気になるということは
男達が皆 君に手ひどく傷付けられる そのことが
その責任が 全部僕にあると意味しているような気がしてならない
しかし 僕は現代のマグノリア (つまり名花ですね、花。)
マグノリアも バーに置いてあるマスカットも
都市部に現れた天使にさえ どうすることもできない
油絵を描く技術を 持っていないんだ
洋服に覆われた 君の裸を 熱狂的に思い出して
悶々とすることすらできない
詩を書く才能がないんだ


福音の残酷さは 僕たちみんなを
あらゆる束縛から 解放しておきながら
僕から君を奪い去った
福音の残酷さは 僕たちみんなを
あらゆる束縛から 解放しておきながら
僕から君を奪い去った
なんてこった!
これが 僕の捧げもの
アーバンブルース

はい、プリファブ・スプラウトで「残酷」という曲です。

スウーン

スウーン