「継続の力(バイトをクビになったとしても)。」

「粋な夜電波」255回放送は3週間ぶりの収録によるフリースタイル。
バイトをクビになった爆笑の懐かしエピソードを語る中に、ワーカホリックな菊地先生の音楽に向かう日々の姿勢が垣間見えた部分を文字起こししてみました。

シリータ

シリータ

(「毎日練習しているジャズメンの方々は、継続の力をどのようにお考えですか?」という、リスナーの方からのメールを読んで)
そうですね…考えた事無いですけどね。
まあ…「毎日練習しているか?」って言われるとね、恥ずかしながらですけどね…さすがに毎日ではないですね、ワタシなんかは。
毎日してる方もいらっしゃいますし、逆にワタシよりずーっと副業の無いピュアジャズメン稼業の人でも、「もう練習はしてねえよ。」っていう…「イメージトレーニングだけだよ。」っていう…「あとCD聴いてりゃそれがもう練習だ。」っていう方もいらっしゃいますけど、基本的にはアスリートに近い仕事ですからね。
練習は…こんな副業の多いワタシでさえ、そうですね…今どのぐらいの感じかな?…月に20日してますね。
練習っつってもいろいろあるんですよね。ワタシ、サックス吹いたり歌唄ったりラップやったり作曲したり…っつんで、全部それスタジオでやるんで。部屋でできないんで、貸しスタジオまで行ってやるんですけどね。
まあ、結局アスリート的にならざるをえないですよね。継続の力ってのはね。
ただ、やっぱね…アスリート的ってことはつまり、才能っつう…何つったらいいんですかね…一種の霊感みたいなものが、いかに体力と結び付いてるかっていう事を、常に意識してるって事でもあるんですよ。
あの…ジャズは抜いて抜いて…枯淡の境地で演奏すれば、90ぐらいまでできますけどね。ハンク・ジョーンズとかそうでしたけども。
だからまあ…ゴリゴリの…オリンピアードなアスリート…アスリーテスの人々ほどではないですけど、アスリート的なんで。
ワタシ、52.8歳っていうか…再来月で53になりますけどもね、23の時と比べてとは言いませんけど、43の…つまり10年前の演奏を聞くと、いやぁ…やっぱ持続力も体力も違うなぁ…って思うんですよ。
だからアスリートの方だと、その基礎体力付けるための運動をやったりするし、大西順子さんなんて「水泳やってる。」っつって、実際心肺が直接演奏に影響するわけではないピアニストですら、そういうふうに身体作ってるわけですよね。
我々なんかもう…サキソフォン、ラップ、歌ってなったら、もう心肺機能が直接関わってきますから。花粉症で鼻グズグズさせてる場合じゃないんですけど(笑)。
まあ、ただこれがね…アドレナリンの効果ですかね?…ステージ上がると、どんなに花粉症が酷い時でもピタッと止まるんですよね。終わった瞬間に、どっときますけどね。
ていうか…まあ、何でしょうね…段々段々体力が落ちているし、ハードコアな演奏…例えばワタシなんかフリースタイル…「フリースタイル」っていうとね、言葉が多すぎてぐちゃぐちゃになっちゃいますけど、いわゆるノイジーなフリージャズ…ね。
ま、ま、ま…山下洋輔組の若ぇ衆だったわけですから。あん時、30代だったかな?…最初に山下組に草鞋を脱いだ時は。
そん時はもう疲れ知らずだったですよね。もう疲れ知らずで、演奏し過ぎて唇切れて血吹いても、まだ全然平気で演奏して。アドレナリン出てるから、血が流れてることも気が付かずに、終わった後、酒飲んだら沁みるから「おかしいな?」って思って、ティッシュで拭いたらティッシュが血だらけっていう。
それでもね、若いと組織の再生が早いですから、あっちゅう間に…ツアー中に治ったりしたもんですけど。
今もう組織の再生は遅いしね、楽譜はかすむしね(笑)。2時間立ったまま演奏しただけで、軽く腰にきたりとかね。まあまあ…普通にくるんですよ、そういうことが。
ただ、そればっかり気になっちゃって、あとの事は気になんないっていうかね。えとね…何が言いたいかっていうと…話があっちゃこっちゃになるきらいがありますけど。アスリートとここが違うとこだと思うんですよね。
こないだね、こないだっていうか何回か前の放送で、ワタシが新宿新南口の「NEWoMan(ニュウマン)」っていう商業施設のテーマ曲を作りました!っつって、プレイしたことがありますよね。
そん時にサブから戸波Dが、「大変な出世ですね。」っていうウィズダムをくださったんですけど。最初、何の事を言ってるのか、よくわかんなかったんですよね。何をして「大変な出世」と言っているのだろう…と思ったら、まあまあ…そうですね、この番組では話したこと無いかな?…無いかもしんないですね。
ワタシやっぱり…芸術家とまでは言わないですけど、「やっぱ堅気は無理だなぁ。」って思うのは、この歳になるまでに、続いたバイトが1個しか無いんですよ。ああ、ごめんなさい…3日以上続いたバイトが1個しか無いんですよね。で、そもそも…バイトした事が3回しか無いんですけど(笑)。そのうち2つは2日間の間にもう行けなくなっちゃったんで。
で、一番長く続いて…ひと月ぐらい続いたのがあって、それがね…南口のほうね、新南口じゃなくて南口のほう…高島屋のほうじゃないほうね、要するに昔の南口ですよ…の、ルミネだったんですよね。
そこでね、掃除のバイトやってたんです。その時のワタシの(笑)…たった一ヶ月間の…何ていうかやっぱね…こっちの仕事も…芸事も、職場っちゅうのは面白いもんですけども、堅気の職場もやっぱり負けず劣らず面白ぇな…っていう。
あのルミネで掃除のバイトをやってた一ヶ月は、ほんとにね…夢のような(笑)…めくるめく事が毎日あったんですよね。まあ、それ喋ってると今日終わっちゃうんで、省略しますけども。
様々なこう…ほんとに人生泣き笑いって感じで、いろんな事があったんですけど(笑)。最終的にワタシがそこを解雇されるに至る、きっかけとなった瞬間ってのが、あまりに眠くて(笑)…無理に早起きしてやってたバイトだったんで、毎日眠かったんですけど。
ある日とうとう…ですね、ベッド売り場の掃除を任された時に、誘惑に負けてベッドに滑り込んでしまってですね(笑)…そのままベッドで安眠していたんですよね、それも高いやつで(笑)。
で…「あっ!」っつって、「顔がザラザラする!」って思ったら、上司が寝てるワタシの顔をモップで擦ってたんですよね。それで目が覚めたっていう。ええ。その結果…クビになったんですけど(笑)。
それまでね、結構面白おかしく、いろんな事をしながらね、バイトやってたんですけど。そんな感じでクビになっちゃったんですけど。
まあ、だからあれですよね…よくテレビ番組とかで、「アメトーーク!」とかで…ここヤバかったらカットしていただいていいんですけど、「20年後の自分に…」とかいうじゃないですか。
「おい。ルミネでバイトやって(笑)…ベッド売り場でつい寝てしまい、上司にモップで顔をこすられてクビになったオマエ!…20年後オマエは、道を挟んだ新南口で、ルミネが社運を賭けた新宿の都市計画を観光庁まで交えてオリンピックに向かっていく大プロジェクトの一翼を担う、テーマ曲を書く作曲家になっているんだぞ!」
…とか、いうことになりますよね。形としては。これは事実なわけですよね。
そうすっと、まあ…一般的な思考からいったら、ワタシだってこれが他人事だったらね、「そりゃ大変な出世ですねぇ。」ぐらい言うんですけど
これは謙遜とかね、恥ずかしがりとか、端的に嘘とかじゃなくて、まったく出世したって感覚が無いんですよね。…っていうのが、話戻ってくんですけど。
結局、毎日演奏…練習してるんで、気になるのがね、「あそこのフレーズが吹けるようになった。」とか「吹けなくなった。」とか、そんな事になっちゃうんですよ。
それは多分ね、アスリートの人も同じだと思うの。ボクサーが、何分間でガードが何センチ下がっちゃうか…っていう事ばっかり気になると思うんですよね。その…おそらく。推測ですけど。
だから…そんな事ばっかりですよ。「こないだステージで、あんだけ練習したフレーズが出せなかった。」かと思えば、「まったく練習してなかったんだけど、なぜかこう…やっぱアドレナリンとか、あとはまあ…音楽の神様に導かれて、あの難しくて出来なかったフレーズがスッと出来た。やったー!」とかね。
気にしてんの、気が付いたら40年間そればっかりなんで。40年ってことはないな…30年ですね。そればっかりなんで。
だから、ここでメールの方がおっしゃってる、「才能が途切れるとか錆びれるとか枯渇する…」とかね、考えてる暇無いですよね。とりあえず毎日練習して、次のライブの事だけ考える…だけですよ。ほんとに正味の話が。はい。

ゲッツ/ジルベルト '76 [輸入CD][日本語帯・解説書付]

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