「新作は売れるしかないって声高に言って。」

「粋な夜電波」第318回は、まもなくリリースされる〈ものんくる〉待望の3rdアルバムを大特集。
発売に先駆けてほぼ全曲試聴。その合間にレコーディングの裏話など、かなり詳しいところまで聞くことができました。
トークの一部を文字起こししてみました。
※勝手ながら文中読みやすくするために、バンド名をあえて括弧くくりの表記にしています。

世界はここにしかないって上手に言って

世界はここにしかないって上手に言って


菊地 はい、今日はすごい普通の感じ(笑)…「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。今週は〈ものんくる〉のヴォーカル・吉田沙良さんに…ピンで…お迎えしまして、7月12日…もう一回申し上げます、7月12日発売のニューアルバム「世界はここにしかないって上手に言って」を、ほぼほぼ全曲試聴…しましょうかね。
沙良 はい!
菊地 というわけで、吉田沙良さんにスタジオに来ていただいております。お久しぶりです。
沙良 お久しぶり…でム…っす。「です」…「です」が言えなかった(笑)。
菊地 もう「です」すらね。「です」すら攣っています。
沙良 「デムス」って(笑)。久しぶりじゃないですからね。
菊地 そうですね。
沙良 菊地さんに会うの。なんか…
菊地 え〜…昨日の晩は吉田さん何されてましたか?
沙良 昨日のまま?
菊地 昨日の「晩は」…お互い滑舌悪いですね、今日(笑)。
沙良 (笑)。ちょっと聞き取りもできない。昨日の晩はですね…
菊地 はい。
沙良 新宿の街を練り歩いてましたね。
菊地 そうですね。それでなんか…お食事は何をされましたか、昨日は。
沙良 お食事ですか?
菊地 はい。
沙良 すごい高級なワインをいただいた記憶が、うっすらあります。
菊地 そうですね。これ…聞いてる人が混乱しちゃうといけないんだけど、昨日はこの番組のイベント…イベントがあるんですね。あ、今やってんだ!…今そのイベント、今やってんだよ、これ。
沙良 ほお〜。そっか。
菊地 うん。イベントを生で聞くか、放送を生で聞くか…まあ、放送でしょうねえ。普通生で聞くのは(笑)。
沙良 うん。
菊地 そのイベントで使う…ワタシがディレクションした30分のショートムービーに合わせてDJっていうコーナーがあるんですけど、そのショートムービーに〈ものんくる〉の二人と〈けもの〉の青羊さんと、韓東賢さんが出演してくださって。新宿ですべて路上ロケをしたので、その撮影をして…そして打ち上げで三丁目のワインバーに行ったという流れですね。
沙良 はい。
菊地 とまあ、そんなこんなでですね…さらに明後日ぐらいに会う気がしますね。
沙良 そうですね。
菊地 そうですね、放送的に言うと今日なんですよ。
沙良 はい。今日会ってますね。
菊地 今日会ってますね。
沙良 はい(笑)。
菊地 えっと…昼間からバッチリ会ってましたね。
沙良 そうですね。
菊地 それは何をやってたかっつーと…このアルバムの、いわゆる昔はPV、最近だとMVとか言いますけど。
沙良 はい。
菊地 ミュージックビデオ…何曲かミュージックビデオを作るんですけど、そのうちの1曲目を菊地成孔初監督作品」ということでですね(笑)。
沙良 はあ〜(拍手)。ヤバい。
菊地 もう撮り終わったところですね。
沙良 終わってますね。
菊地 ええ。もう大変でしたね。着替えが30回。
沙良 いやあ〜。すごい色んな事させられました。
菊地 そうですね。やっぱり…すいません、あんなに…追い詰めて追い詰めてね。
沙良 すっ…そうですね。
菊地 (笑)。蜷川ばりの追い詰めで。
沙良 いやあ〜…もうね。
菊地 「その歩き方がなってない!」「その歌い方のあごの上げ方がなってない!」
沙良 ほんとに厳しいですね、菊地監督は。
菊地 ミリ単位のね、指示が飛んで。
沙良 大変でした。
菊地 ええ。ちょっと途中…泣きにトイレに入ってしまって、出て来なくなってしまったといったようなね…事もありましたけど。
沙良 そうですね。それはすいませんでした、本当に。
菊地 とんでもないです(笑)。
沙良 (笑)。
菊地 信じる人いるでしょうね。
沙良 いますね。
菊地 いると思いますよ。
沙良 危ないかも。
菊地 危ないですね。そんな事は絶対にしません。
沙良 (笑)。
菊地 ていうか、正直に言うと…まだ撮ってません。
沙良 はい。よろしくお願いします。
菊地 よろしくお願いします(笑)。
沙良 (笑)。
菊地 ま、アルバム…「世界はここにしかないって上手に言って」。
沙良 はい。
菊地 「Please Tell Me Tenderly, The World Is Only Here」ですけども。
沙良 はい。
菊地 7月12日に発売されるわけですが…
沙良 はい!
菊地 ま、まず最初に申し上げたい事は…現場にあまり行かないプロデューサーですいませんでした!って事ですね(笑)。
沙良 いえいえいえ(笑)。
菊地 何回?…何回行ったかな?
沙良 2回です。
菊地 2回か。録音2回だ…ひでえな(笑)。
沙良 (笑)。
菊地 打ち合わせ入れて4回ぐらいですよね。
沙良 録音は7回あったんですけどね。
菊地 はい。そのうち2回しか行ってないですね。
沙良 いや、でも本当にお忙しい時期だったじゃないですか。
菊地 そうですね。
沙良 全部かぶってるっていう。
菊地 〈けもの〉のアルバムとジャズドミュニスターズのアルバムと〈ものんくる〉のアルバムが並走してたんでね。
沙良 はい。
菊地 はい。まあ、吉田さんにあらためて聞くのもなんですけど、出来のほうはどうですか?…ご自身の。
沙良 いや、もう…めっちゃ豪華なサポートメンバーに…ミュージシャンに、たくさん参加してもらったので…
菊地 そうですね。
沙良 う…売らないと!
菊地 (笑)。
沙良 今、もう必死な気持ちです。
菊地 そうですね。
沙良 みんなに買ってもらわないと…。
菊地 そうですね。いわゆる「ぶっ込んだ」ってやつですよね。
沙良 ぶっ込みました。
菊地 はい。バジェットぶっ込んだんで、相当売り上げないと…あれですね。前は〈ものんくる〉って、9人組で…
沙良 ものんくる解散ですよ。
菊地 いやいや(笑)。
沙良 9人組で…?
菊地 もう、だって解散っつったって、2人しかいないから、解散もへったくれもないでしょ(笑)。
沙良 いや、まあ…はい。
菊地 前はノネットで9人編成の、アコースティックが基盤のバンドだったんだけど、今回から変わったんですよね。
沙良 はい。
菊地 ものんくる〉はもう完全に…ま、前から実質そうだったんだけど…
沙良 はい。
菊地 今日は来てないけど、角田隆太くんと吉田沙良さんの二人ユニットになって、今作からはアコースティックではなくなって、ま…そうですね、これがお若い方に通じるかどうか…「『スティーリー・ダン』スタイル」っていうかね…
沙良 うん。
菊地 メンバーが2人で、サポートメンバーがめちゃめちゃ豪華だっていう…感じですよね。
沙良 はい。
菊地 1曲聞いてから、サポートメンバー紹介しましょうか。
沙良 あ、はい。
菊地 では、曲紹介をお願いできますか。
沙良 はい、「空想飛行」。


(中略)


菊地 ま、そんな豪華なね…メンバーですよね。
沙良 はい。
菊地 結構、総力結集した感じですよね。
沙良 ほんとですねえ。
菊地 まあまあ…僕がした事と言えば、「曲の長さを4分以内にしてくれ!」っていう事を、1000回ぐらい言ったっていうだけですよね(笑)。
沙良 はい(笑)。1000回ぐらい言われました。
菊地 「5分以上にしたら、ぶっころす!」みたいな感じの(笑)。
沙良 (笑)。
菊地 あとは…そうですねえ…ちょっとアレンジメントで1曲1曲、「ここはこうしてくれ。」みたいなのを、ちょっと言ったぐらいですかね。
沙良 そうですね。すっごい…参考にさせていただきました。
菊地 ほんとですか?(笑)。
沙良 えっ、もう…こっちとしては…完璧に合わせて変えたんですよ。
菊地 はいはい。
沙良 菊地さんのおっしゃった事を取り入れて。
菊地 はい。
沙良 で、「こんな感じでどうですか?」って、菊地さんにもう一回戻したら…
菊地 うん。
沙良 「何にも変わってねえ!」って言われて。
菊地 (笑)。
沙良 「何にも変わってねえよ!」って言われて(笑)。
菊地 何にも変わってねえっていうか…「こいつら、俺の言う事聞く気ねえな!」っていう。
沙良 そうそうそう。
菊地 あ、あそこで心が折れて、現場に行かなくなっちゃったのね(笑)。
沙良 あ、そうだったんですか?
菊地 嘘ですよ(笑)。
沙良 (笑)。
菊地 行きたくてしょうがなかったんですけど。お菓子とか持ってってね、「吉田さん、ほらほら!」っつって。「今日のお菓子ですよぉ〜。」って、持って行きたかったんですけど…すいません、ほんとに。
沙良 いやいやいや(笑)。
菊地 ま、こんだけのメンバーが来ることがわかってたんで。
沙良 はい。
菊地 「ま、放っといたって出来るだろう…。」っていうね。プロデューサーが絶対言っちゃいけないセリフですけどね。
沙良 (笑)。
菊地 「丸投げしときゃ、いいもんが出来るだろう。」ぐらいの感じで。で、まあ…上がりを聞いたら、とても良かったんで。


(中略)


菊地 ま、このアルバムで、僕がした仕事の一番…プロデューサーのほうにもね…
沙良 はい。
菊地 「オレ、いい仕事したな!」とか、あるんですよ。手応えみたいなのが。
沙良 はい。
菊地 ヴォーカリストにもあると思います。「この曲は良く歌えた!」とか。
沙良 はい。ええ、ええ。
菊地 「この曲はいまいちだった…。」とかあるじゃないですか。
沙良 あります。
菊地 でも、やっぱ時間の限りがあるから、いまいちと思っても出ちゃったり…
沙良 うん、うん。
菊地 でも、「これは一発でいいのいけちゃって!」っつって、何回聞いてもウキウキしたりとか、ありますよね。
沙良 ありますね。
菊地 うん。プロデューサー側にもあるんですよ。「これはいい仕事した!」ってやつとかね。
沙良 あー、はい。
菊地 今回のアルバムで、一番自分がいい仕事したなと思うのは、この曲をリード曲に選んだって事なんですよね(笑)。
沙良 おおーう。
菊地 この曲、本来捨て曲だったんですよね。
沙良 私の中では…短すぎて。
菊地 はい(笑)。
沙良 「みじかっ!」って思っちゃって。
菊地 だって…2分切ってますからね。
沙良 そうですね。
菊地 だって、昔のSP盤だって、こんなに短くないですよ。
沙良 そうなんですよ。だから、曲と曲の間にね…
菊地 スキットでしょ。
沙良 そう。スキットっていうんですか?…少し入ってるような曲に…
菊地 インタールードみたいなね。
沙良 そうですね。…にしようと思ってたんですけど。
菊地 うん。
沙良 菊地さんもだし、角田さん的には一番の推し曲って言ってて。
菊地 ああ、そうなんだ。
沙良 二人の意見が合致し…そうなって。でも、今となっては、すごい好きな曲です。
菊地 ですよね。「これ、ブロウアップして3分にしてよ。」っていう願いは届かなかったですけどね(笑)。
沙良 そうですね。
菊地 あっという間に終わっちゃうんだ、これ。
沙良 終わっちゃいますね。
菊地 あっという間に…長めのテレビコマーシャルに使われたら…完奏しますよ、これ。
沙良 ほんとに。ほんとに…よろしくお願いします。
菊地 ねえ?…だって1分49秒だもん。ものんくる〉の最短記録じゃないですか。ベン・ジョンソンじゃないですか。ねえ。
沙良 もう…ほんとに。その…CM…ほんとに。CM!
菊地 (笑)。「その〜CM!…CM!」…そんなガリガリ亡者みたいになんないでくださいよ(笑)。
沙良 ほんとに!…ほんっとにそれです。
菊地 まあ、ワタシもね…緊張にまかせて、ボルトって言おうと思って「ベン・ジョンソン」って言ってしまいましたけどね(笑)。
沙良 違うんですか?
菊地 違いますね(笑)。中年にしかわからない失策をおかしてしまいましたけど。
沙良 (笑)。
菊地 まあ、とにかく短いんです。最短記録です、これね。1分49秒。
沙良 はい。
菊地 あっという間に終わっちゃうんだけど、この曲をリード曲にしようって決定した…ま、プロデューサー裁量っていうか権限みたいなものがあるとしたら…
沙良 うん、うん。
菊地 こんな短い曲をリード曲にしたら、普通ダメなんですよ。
沙良 へえ。
菊地 やっぱある程度の…3分はないとね、やっぱね。
沙良 うんうん。
菊地 なんだけど、どうしてもこれが一番いい曲だから…っていうことですね。誰でも歌えますし…
沙良 そうですね。
菊地 誰が聞いても詞が泣ける!っていうね。
沙良 はい。
菊地 アルバムのタイトルが「世界はここにしかないって上手に言って」っていうタイトルなんだけど…
沙良 はい。
菊地 この曲のタイトルは「ここにしかないって言って」っていう曲で、まあ…一つの仕掛けになってるんですけど、聞けばすぐわかるんで。
沙良 はい。
菊地 ちなみに今朝撮っていて、ワタシが演技指導で吉田さんを泣かせたMVは、この曲のMVです。
沙良 はい。
菊地 え〜…リード曲の1曲ですね。アルバム「世界はここにしかないって上手に言って」より、「ここにしかないって言って」。