「筒井先生のオークション。」

「粋な夜電波」も残すところあと5回にして、ついに菊地さんが憧れてやまない筒井康隆先生が番組に御出演。
番組本に影響されて書かれたという短編の一部を朗読され、トークも盛り上がって、まさに神回となりました。
番組前半の「筒井康隆展」でのオークションについて語られた部分を文字起こししてみました。

文學界2018年3月号

文學界2018年3月号

菊地 はい、どうも。「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。今週は、小説家そして俳優、そして愛煙家の筒井康隆先生をお迎えしております。よろしくお願いします。
筒井 はい。宜しくお願いします。
菊地 えーとですね、何と申しましょうか…私、筒井先生と二人でイベントをするのが、生まれてから今日が3回目でして。
筒井 ああ、そう。
菊地 ええ。1回目は、あの…筒井先生も記憶が無いぐらい昔の(笑)…「時をかける少女」がアニメになった時
筒井 あ…。憶えてない、憶えてないです。
菊地 憶えてないですよね。僕もひと言も喋んなかった記憶があるんですけど。緊張して(笑)。
筒井 (笑)。
菊地 で、2回目が先日の世田谷文学館ということなんですけども。
筒井 ああ…わざわざどうも、ありがとうございました。
菊地 とんでもないです、とんでもないです。もう本当はですね、ひと言も喋れないぐらい緊張しているんですけど、ラジオだと放送事故になってしまいますので(笑)。
筒井 うん。
菊地 なんて言うか…無理やり喋ってる感じなんですけども。それほど緊張しております。


(メールを読んで)


菊地 相当ありがたいことになってますけど、先生。
筒井 いやいや…ありがたいですな。
菊地 番組はお聞きになったこと無いんですよね。
筒井 無いんです。それが…あなたの著書ですね、この「粋な夜電波」というのを。
菊地 本のほうをお読みいただいて。
筒井 そう。第1巻目…もうじき2巻目が出るそうですけどね。
菊地 ええ。これは出たばっかりの2巻目ですね。はい。
筒井 1巻目を読ませていただいて。ビックリ仰天しましてね。
菊地 ああ〜、そうですか。
筒井 これは喋ってるまま…字になってるわけでしょう。
菊地 そうです。
筒井 それができるってのが、もう…羨ましいというか。
菊地 (笑)。
筒井 理想ですよ、これは。
菊地 そうですかね。ま、僕が書き起こしたんじゃないですけどね。
筒井 うん。まあまあ、多少はね。多少はやってるだろうけども、しかし凄いですよ。これはね。
菊地 はい。
筒井 いや…僕も…「今日、朗読してくれ。」って仰った、これは僕はあなたのこの著書に影響を受けて…
菊地 おお〜。
筒井 で、自分でやってやれってんで、文字でもってディスクジョッキーをやったわけですよね。
菊地 そうですよねえ。
筒井 (笑)。
菊地 こう…何て言うか…アタシがどのぐらい筒井先生をリスペクトしてるかってのは、ファンの者どもなら知っていると思うんですけど。
筒井 (笑)。
菊地 もう…僥倖ですよね。自分が書いた物を、筒井先生に読んでいただいて、パロディにしていただけるなんて。
筒井 そうそう。それをまた今日読むというのはですね…
菊地 そうですよね(笑)。
筒井 うん。それでねえ…やっぱり、難しいわ。
菊地 ああ、そうですか。
筒井 うん。自分で書いた物でも、これは非常に難しいです。
菊地 ああ〜。
筒井 だから、あなたの難しさがよく分かるんだけどもね。
菊地 いえいえ。
筒井 これはほんとに…ダメでしたね。やってみたけど。
菊地 そうですか。
筒井 うん、ダメでしたね。滑舌はもうメチャクチャで。
菊地 テイク1でOKでしたけどね、ちなみに。
筒井 いや、あれはもうわざと…もう何もかもそのままでやっていただくわけなんです。
菊地 なるほど(笑)。お厳しいですね。やはり、俳優でもあられるということで。
筒井 いやあ…もうダメですねえ。こんななってしまったらねえ。
菊地 さすがに、あの…ハムの宣伝はビックリしましたけどね。
筒井 (笑)。
菊地 天海祐希さんのお父様かなんかで(笑)。一家でハム食うんだってCMに出てらっしゃいましたよね。
筒井 ああ〜。ありました、ありました。
菊地 ありましたよね。「わあ、ビックリした。ハムの宣伝に筒井先生が出てる!」と思って驚きましたけど。
筒井 (笑)。
菊地 …ああ、失礼しました。その、お読みいただいた作品名ですけども、ダークナイト・ミッドナイト」
筒井 はいはい。
菊地 文學界」に、もう発表されているということですよね。
筒井 もう…だいぶ前に。「文學界」3月号でしたっけね。だいぶ前ですけどね。
菊地 はい。実際はこれ、1曲目を紹介したところまでで、今日はもう…後はもう畏れ多いということで。お願いする部分は最初のパートだけだったんですけども。
筒井 (笑)。
菊地 体裁っていうか…「文學界」に載っているのは、3曲かな?…
筒井 いやいや、もう少しあったと思いますが。もう少しありましたね、うん。
菊地 4曲かな?…4〜5曲紹介している、相当なボリュームの…要するに、ラジオ番組1個ぶん書いてありますからね。
筒井 だから、あれやって…30枚ですからね。台詞だけで喋っていって30分でしょ。それに曲が入るから…
菊地 はいはい。
筒井 まあ、40〜50分ですかね。
菊地 ですよね。
筒井 うん。
菊地 だから1時間番組をそのまま…(笑)。
筒井 そのままやったみたいなものね。うん。
菊地 小説にしたっていう。
筒井 コマーシャルも入れてね。ちょうどね。そんなもんですね。
菊地 凄いですよね、ほんとに。
筒井 (笑)。
菊地 いやあ、そうですね…
筒井 いや、でもね。これ、実際にこの頃の記憶をね、電波に乗せるとなると…
菊地 はい。
筒井 やっぱりちょっと退屈ですね。この頃は全然崩さないでやるんですよね。
菊地 はいはい。そうですね。
筒井 アドリブ無しでね。
菊地 はい。そうですね。
筒井 だから、ちょっと退屈かもしれませんよね、これはね。
菊地 いやあ。先生がこれ…かけるに際して、「もう歌のとこだけでいいよ。」つって、「楽団のとこは退屈だからカットしましょう。」っつって(笑)。
筒井 そうなんだよ、もう。
菊地 いやいや…でも数十秒のことだから、全然だいじょぶじゃないですかって言ったんですけど。
筒井 いやいや、でも気になりますよ。最近の若い人はもう…気が短いからね。
菊地 凄いですよね。その…気がお若いというか。まだその若い人のポップな感覚ってのを気にされているってところが、さすがだなと思いましたけども(笑)。
筒井 いや、それはやっぱり気になりますね。
菊地 気になりますか。
筒井 ええ。それはやっぱり現代に生きているんだから、やっぱり。
菊地 なるほど。やっぱラノベ書いたりすると…
筒井 そうそうそう。
菊地 (笑)。そうですね…それこそ今ありました、世田谷文学館で…まだ開催中ですかね、「筒井康隆展」。
筒井 はい。
菊地 …のイベントで、11月4日には不肖私が伺わせていただきまして。まあ…対談して…
筒井 うん。
菊地 一番面白かったのは、やっぱりオークションですよね。
筒井 ああ〜。オークションね。あれはもう大変でしたよ。
菊地 あのオークション…先生の縁の品をオークションで出すってんで。
筒井 ええ。
菊地 で、会場はもうパンパンの…ツツイストのゴリゴリでいっぱいでしたから。あれ、ほとんど御存知じゃないですか。来てる方は。
筒井 いや、ほとんどではないですね。やっぱり…20〜30人は知ってますけど。
菊地 20〜30人は知ってるんだ、やっぱり!
筒井 ええ。でもね、それ以上は知らないです。いや、あの時は大騒ぎでしたね。困っちゃったねえ。みんな、番号札上げて言うんだけども…
菊地 はい。
筒井 上げると同時にワーワーワーワー言うもんだから、誰が何言ってるか、さっぱりわからない。
菊地 っていうか(笑)…
筒井 オークションにならんのですよ。あれは。
菊地 「オークションにならんのですよ。」っていうか、通常オークションっていうのは、競り上げていくじゃないですか。何円…いくらから、と。
筒井 うん。
菊地 オークショニアを先生がやられて。オークショニアってのは、ハンマーを持ってるわけなんだけども。
筒井 ええ。
菊地 ハンマープライス決定するのに、こう…ハンマー持って。で、「いくらから。」って言って、どんどんどんどん吊り上げて、最終的に二人ぐらいになって、一番高くなった奴が競り落とすっていうのが、オークションの決まりじゃないですか。
筒井 うーん。
菊地 ですけど…先生が突然「適価にする!」って言い出して(笑)。「高いと可哀想だから。」って話になって。
筒井 うん。
菊地 適価にされるっつって。そいで…例えば、まあ…何でもいいけど…
筒井 いや、あの一番最初のフレドリック・ブラウンの短篇集なんてね…
菊地 ああ、はいはい。
筒井 あれは醤油をこぼしちゃって、中ベトベトで。
菊地 (笑)。
筒井 で、100円からにしたら、すぐに200円ってかかったから、「はい。落ちました!」ってドンドン…
菊地 だから、ものすげえ速さでハンマー叩いて(笑)。
筒井 そう。そしたら皆んながですねえ…それに釣られて、「早く言わなきゃいかん!」ってんで、後はもうワーワーワーワー…。
菊地 だって(笑)…みなさん、どれぐらいまで上がるか、金持って用意してたんですよ。突然、始まった瞬間に「いや、あんまりこんなもん高く売っちゃいけないから、適価で。」っつって。「100円!」「200円!」…っつったら、バーン!って、すぐハンマーいきなり叩いたから(笑)。
筒井 だってあれはね、醤油でベトベトの本をね、普通は店に出さないですよ。
菊地 それがありがたいんじゃないですか。ファンにとっては。
筒井 ありがたくないって、あんなものは。
菊地 (笑)。
筒井 ほーんと困っちゃいましたよねえ(笑)。
菊地 あん時もね、「あんまり高いと気の毒だから。」って仰ったところにね、現代感覚っていうかね…感じましたけどね。あんなもん、幾らだって…。僕が事前に、手の者に情報をもらってですね、ファンの間では有名な、先生の唯一の油絵ってのがありますよね。
筒井 はいはい。
菊地 原宿駅前」。
筒井 はいはい、そうですね。
菊地 生まれて初めて油絵描いたんで、絵の具いっぱい買っちゃって。「買ったぶん、全部使おう!」ってんで、ものすごいギトギトの極彩色の風景画になっちゃって…っていう。
筒井 そうそう(笑)。
菊地 その伝説の…ファンは絶対に話としては知ってる油絵が出展されたんですよ。
筒井 うん。
菊地 僕、あれ絶対に…要するに、あんなに適価で…ポンポンポンポン…もぐら叩きみたいに先生がハンマー叩くと思わなかったから(笑)。
筒井 (笑)。
菊地 「もうどんだけ競り合っても勝つんだ!」と思って、100万持ってったんですよ。
筒井 100万?
菊地 100万ぐらいするだろうと思って。あの油絵は。
筒井 (笑)。
菊地 100万持って1点掛けだと思って、「油絵だけは絶対買ってやる!」と思って。
筒井 いや、それはないでしょう。
菊地 あれは…だって幾らぐらい?
筒井 あれは5万ですね。あれは一番前の席にいた人はね、たまたま私、よく知ってる人だったんです。
菊地 はい。
筒井 で、その人が5万って言ってくれたので。全然知らない人に渡すよりは、知ってる人にね。こっちもそれを記憶しといたほうがいいから。
菊地 はいはい。
筒井 それで「5万!」って言って…はい、落ちました。
菊地 そうですよね。「1万から。」って仰って、「5万!」…はい、ポーン!って終わっちゃったんで(笑)。
筒井 それでもなんか2万とか3万とかありましたよ。
菊地 もうその頃、みんなが焦っちゃって。「早く言わなきゃいけない!」と思ってる(笑)。
筒井 遠くのほうからね、なんか8万とか10万とか聞こえてきてたけども。
菊地 はいはい。
筒井 ちょっとそれはねえ…わけのわからん人に…この絵だけはね、他の物はともかくとして。ちょっとそれは困るなと思ってね。
菊地 …でも、それがオークションじゃないですか(笑)。
筒井 いや、そりゃそうなんだけれども。うーん。
菊地 だから、実際はオークションじゃなかったっていうね。
筒井 (笑)。
菊地 だから、まあ…自分で競り落とさないまでも、「誰が何をどこまで値上げするんだろう?」ってのが見たかったんですけど、上げさせなかったっていうね。
筒井 だから、あれはまあ…オークションのパロディというか。
菊地 そうですね。
筒井 脱臼したオークションというか(笑)。
菊地 脱臼したオークションですね(笑)。あれ、凄かったですよね。パフォーマンスとして。
筒井 (笑)。

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン6-8 前口上とコントの爛熟期篇

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン6-8 前口上とコントの爛熟期篇