「喪失は、喜ばないといけない。」
TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」、とうとう最終回。
番組の最後にオンエアされた曲の紹介とラストメッセージの部分を文字起こししてみました。
この喪失は音楽とともに乗り越えるしかないのですね。
菊地成孔の粋な夜電波 シーズン6-8 前口上とコントの爛熟期篇 [ 菊地成孔 ]
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あの〜、番組本の後書きの二重売りになっちゃいますけどね。二重売りはあんまりしたくないんだけど(笑)。
引退された元漫才師の上岡龍太郎さんが、もうオブセッションみたいにずっと言ってたの。
「もうテレビに出始めたら、劇場でどんな腕持ってるか、どんだけ回せるかなんて、どうでもようなる。」…これちょっとアクセントよくわかんないですけど、「どうでもようなる。」?…違いますよね、何回やってもダメですね(笑)。
「テレビに出たら、もうそいつは『テレビに出てる人』であって、それ以上でもそれ以下でもあらへん。」って。
「もう僕は劇場で漫才師としてどれだけの腕があったかなんていう、余計なプライドは捨てた。そんなもん持ちながらテレビに出とったら、テレビにも劇場にも失礼や。」っつってね。
あの〜…ワタシはシャレじゃなく、オギャーと生まれた時から彷徨い続けてますから(笑)、「彷徨えるジャズミュージシャン」なんですね。
だから今までも、「『ルパンの人』になっちゃったらどうしよう。」とかね。「『ガンダムの人』になっちゃったらどうしよう。」「『東大の先生がジャズミュージシャン?』みたいになっちゃったらどうしよう。」といった、上岡さんのウィズダムに自問する機会ってのは周期的にあって。で、しかしそれらは全部杞憂に終わったんですよね。
だけど…こっから先の話はおわかりになると思うんですけど(笑)、そのうちその最大のものが、この番組になったんですね。
「このまま俺は『ラジオの人』になっちゃうのかな?…そんでいいのか?」っていう葛藤は、正直ずっとありました。
でもね、アートのイベントに出ても映画のイベントに出てもジャズクラブでも普通のクラブでもタクシーに乗っててもキャバクラ嬢にのってても遊園地で木馬に乗ってても…「ラジオ聞いてます!」って言われるとね。…木馬は言わないですけども(笑)。
…言われると、ものすごく嬉しくなっちゃって。
だからこの8年間、「ラジオ聞いてます!」って言われて、内心うんざりする…とか、ちょっと困る…なーんて事は、コンマ1秒も無かったです。
ま…だからこそのね、アタシの内部の葛藤は燻り続けたんだと思います。うんざり…できてりゃ、よかったんですよね。
もうそのうち苦しくて、葛藤だかなんだかわかんないくらいまで葛藤した結果、ある時完全に吹っ切れた瞬間ってのがきたの。
「もういいや。もう俺…わかった、もういい。もう俺、『ラジオの人』でいいわ。俺、菊地成孔の人生の最高傑作が『粋な夜電波』でいいわ。」って、腹括った瞬間があったんですよ。
その瞬間は、目の前に「ソウルBAR〈菊〉」を撮り終えた水野アナがいました。
「ようし、もう決めた。もう60になっても70になっても、水野さんと『ソウルBAR』やろう。そんでいいわ。そんでいいよ。」と。
そしたら水野さんと入れ違いにね、次の瞬間に水野さんと入れ違いで長谷川(P)さんが、わなわな震えながらブースに入って来たんですよ(笑)。アタシに目を合わせないような感じで。
何が起こったか理解するのに1秒かかりませんでした。
あの〜、アタシは特定の宗教は持ちませんけど、造物主=神の存在は信じてます。だって、こんなストーリーライン自分ひとりで引けるわけないもん。
この番組が始まるってことになって、まあ…その前だってやってたんですよ、ラジオ。で、この番組が始まるってことになって名前決まって、ダレた名前になったんですよ「粋な夜電波」とかつって。
そしたらもう待ってましたとばかりに、番組にでっかいミッションが課せられたか。なんで?…そしてこんなに上手く行ってたのに、なんで皆さんの前で打ち切られるように去るところを見せなきゃいけなくなったのか。全部説明がつくじゃない。造物主の意志ですよ。すべてに意味があるの。
番組が終わると発表されてから今日までの…約2ヶ月ぐらいですかね。アタシ何人の人に会ったかわかりません。あの、どっちかっつーと…いっぱい会うほうだからね。
その人々全員…ほんとに、一人残らずが「番組が終わるのが悲しい。終わらないでくれ。」と言いました。
ファンの人だとか関係者とかだけじゃないですよ。タクシーの運転手さんやコンビニのレジの人や通りすがりの人まで言われたんだから!…こんな経験したことないよ。しようと思ってできるわけがない。
この番組が終わってしばらくすると、まあ…もう最後だから言っちゃいますけど、あの悪手ばっかり打つ…筋も見栄も冴えねえオリンピックがやって来て、この国は今まで経験した事が無いぐらいの鈍い打撃を受けるはずです。
みなさん、喪失はね、喜ばないといけない。…鍛わるから。強くなんの。
でもそこは…まあ、ワタシの考えでは…やっぱ音楽が鳴ってないとダメですね。
ただの喪失には折れちゃう時もあるから。
だから少なくてもアタシは…そういう感じで、あらゆる喪失…今までいろんなものを失くしてきましたけど、ま…その度、音楽と一緒に、大きなものを得てきました。
だからこの番組が終わっても、みなさん…どうか音楽を、聴き続けてください。
そしたら、喪失とケミストリーを起こして、みなさん…ちょっと強くなってるから。
混迷の現代のヤツのほうも…本気出してくるけど(笑)、やっつけられます。
造物主の意志ですよ。すべてに意味があるの。
と…さて、最終回の最後の曲の時間になっちゃいました。
まあまあ…こういう時ね、8年間続いた番組の重みとかね、そういうこと言い出して「究極の一枚」とか「至高の一曲」とかね…シーズンいくつから「美味しんぼ」になったんでしたっけ?って感じですけども(笑)。もうそんなもん…一番野暮ったい話ですからね。
こういう時に軽くさらっと事を決められない方は、一言で申し上げて…申し訳ないですけど「ご苦労さん」ですよ。
ま…テメエの服、伊勢丹さえ入れば3分で決められるアタシですら、そこそこ「ご苦労さん」なんだから。
えと…変な話なんですけどね、これもフラグの一種ですかね…この夏ね、映画観に行ったの。うーん…言っちゃえ、ガールフレンドと。
「なんかすげえ流行ってる映画があるから行かない?…面白そうじゃん。」とか言って。で、これ言うとバレちゃうんだけど…まあ、どうせバレるからいいか(笑)。
「低予算のゾンビ映画なんて、オレいちばん嫌いなんだけどさぁ。なんか仕掛けがあんだよ、きっと。だって、すげえ話題になってるし。」とか言って。
そしたら、最後にボロ泣きしちゃったんですよ。ね。恥ずかしながら。まあ…泣かす映画だからさ、別にとびっきり変わった反応とかじゃないんですけど。
ただ、アタシが決壊したのがね、もうエンディングもエンディング…主題歌が流れてる間に、全部泣いちゃったの。
今年の夏ですから、まだTBSのお偉いさんが編成に…再編成っての?…編成に着手する前じゃないですかね。ちょっとわかんないけど。
でもね、思ったの。てかもう…ほぼ決めてたんですよ。
「いつかこの番組が終わる日ってのが…まあ、来るでしょう?…いつかはわかんないけど。いずれにせよ。そん時は最後に、今聞いて泣いてるこの曲流そう。」って。
楽曲は、もうね…解説みたいに何が何して、ほら何とやらですよって話は、それこそするほうが野暮っていうような曲で、お聞きいただければ皆さんわかりますよ…ってやつです。
ただ…詞がね、あんまりにもなんかもう…こういうのは引きの強さだけですなあ…もう出逢いっていうかねえ、この番組の最終回用に書かれたみたいに、一字一句きれいにピッタリ当て書きになってるんで、ある意味もう…逃げらんないわけ。フラグですね。
とにかく、さっき言ったように「それが何年後になるかわかんないけど…」って、ずっと決めてたんですよね。ただ、こんなに早く流す(笑)…その年のうちに流すことになるとは、思いもよらなんだけれども。はい。
そん時にはね、「ずっと昔…平成最後の夏ってのがありましてねえ。」っつって。「あん時流行った映画ありましたよね。あれの主題歌憶えてる方、今どれぐらいいらっしゃいますでしょうか。」…なーんてね。
ちったあ熟成させようと思ってたんだけど。文字通り、未熟のままプレイすることになっちまった、未熟者でございます。すいません。
というわけで、これまた番組始まって以来、日本語の歌詞をそのまま日本語で朗読したいと思います(笑)。
いつも通りにってなかなか難儀
そういうの困るわ
伝わらないの
テレビみたいにうまくいかない
思い通りにならないノンフィクション
1、2、3、4 止めないで
見つめ合い崩れそう
時間だけ狂わないの
無いものだってやめないで
見抜けない気持ちも繋がって離れないな
誰だってやれたって
からかって笑ったって
1、2、3、欲しいのStudy Time
誰にも変われないなら
そばにいる君でいいから繋いでよ
ちょっとだけできるでしょ?
なんとなくやめちゃダメ
まわれ、まわれ
もう、時間はね…止まらないの
1、2、3、4 受け止めて
離れ離れでも
少しは目そらさないわ
1、2、3、4 止めないで
見つめ合い崩れそう
時間だけ狂わないの
なんとなくやめちゃダメ
まわれ、まわれ
もう時間はね 止まらないの
1、2、3、4 照れないで
君は似てるの
忘れても忘れないの
1、2、3、4 止めないで
まわせ、まわせ
そう、時間はもう 止まらないわ
はい。そう、番組の掉尾を飾る一曲とは何か?…映画「カメラを止めるな!」の主題歌です。
一時的にあらゆるサブスクリプションの洋楽全部抜いて1位になった曲なんかで締めていいのか?…いいに決まってんじゃん!
はい。というわけで、謙遜ラヴァーズ feat. 山本真由美で「Keep Rolling」。
(曲)
はい。8年に渡る御愛顧ありがとうございました。
楽しかった!…楽しくなかった日なんか、1日も無かったです。
「ラジオの人」としては、きっぱり引退させていただきます。
しれっと来年ぐらいに六本木あたりで番組始めたら、「嘘吐き!」と言ってボコボコにしてください(笑)。そういうのには慣れてるんで。
ただ…ボコボコにするなら、「つまんなかったら」にしてくださいね。
嘘なんか吐かれたって、楽しけりゃそんでいいんだから。
さよなら、みなさん。嘘でも言いますけど、愛してます。
アンチの人や、愛憎入り乱れてるメンヘラの人もね。諸君らも年を取って、余計な傷が薄くなってくれば、このオレ様を素直に過不足なく愛せるようになるから、楽しみに待ってろ。
それでは、これにて「菊地成孔の粋な夜電波」を終了します。
Keep Rolling ! …音楽に最大の感謝を。
長きに渡る御愛顧ありがとうございました。
みなさんは一人残らず、私の神様です。