【COMIC】「PLUTO(プルートウ)」 1・2巻(続刊)浦沢直樹・著

PLUTO (2) (ビッグコミックス)

PLUTO (2) (ビッグコミックス)

浦沢直樹手塚治虫の「鉄腕アトム」のひとつのエピソードをリメイクした本作品は、連載開始と同時に大きな話題になっていたことも知っていたし、その後も時々ビックコミックオリジナルをパラパラめくって、進行具合を様子見していたのだが、今になってようやくのコミックス購入。ううむ、これは完成度高そうだと期待していたからこそ、ある程度溜まってからまとめ読みしたくて、連載も気になっていたがなるべく読まないようにしていたのだった。
すでに「浦沢漫画」として成立しているこの作品に対して、全然原作と違う!と言うのはナンセンスなのは十分承知。大体、自分は原作の「地上最大のロボット」というエピソードを読んだことがない。今から読むとネタバレになりそうなので、むしろ読まない方が先入観を抱かずにこの作品を楽しめるのかもしれないと思っているくらいだ。
それでも、「アトムって・・・単に寝グセのついた男の子やん!」「ウランは髪二つ分けの女の子?」と揚げ足を取ればツッコミどころ満載の、固定概念を打ち破った「絵のインパクト」にはさすがに戸惑ったなあ。
だがこの作品、単に擬人化してロボットを人間と同じように描いただけではない。ロボットだからこその苦悩や悲しみを抱えているという存在が、より深い感情移入を誘う。さらに、同化していながらも決定的に違うという立場から人間社会を見ることによって、様々な問題を浮かび上がらせている。(本作品に登場するロボットが、尼崎のJR脱線事故を起こした車両に職員として同乗していたら、決してその後ボーリング大会に行くことはない、と断言できる)
偏見、誤解から生まれる差別、排除。人の心に巣食う恐怖は増大・増殖し、焦燥と混乱を招き、やがて暴力を伴った悲劇を引き起こす・・・何度となく人間が繰り返してきた過ちを目の当たりにすることは否応なしに絶望感を生む。それに対する唯一の希望といっていいのが「イノセンス」だと思う。この作品でも今後はウランがキーパーソンとなり、過去の浦沢作品にも登場したような天真爛漫なキャラクターとして対比されていくのではないだろうか。勧善懲悪とか、とっくに通用しなくなった現代でも、イノセントな存在を鏡として反省を促すことを茶化してはいけない、そう素直に思い直せるように描いていってくれるはずだ。
原作もきっと深く重いテーマが背景にあったと推測出来るが、そこを主張し過ぎるということもないだろう。作中で起きる事件を追って行くだけで、手に汗握り楽しめる内容になっているのだから。陳腐な言い方だが、「スリルとサスペンスに満ちたドラマティックな展開」を駆使して、「続きが気になる〜」という状態に読者をぐいぐい引き込んでいくところこそ、浦沢直樹作品の真骨頂だと思う。
原作者に対する深い尊敬があるからこそ、中途半端なパロディには出来ないという覚悟の元で、敢えて浦沢ワールド全開、自分の作品にまで消化しようという試みはスゴイと言わざるをえない。どうか連載という枠にとらわれず、納得行くまで筆をふるって頂きたい。完結した時の完成度については何も心配していないので。
(でも「20世紀少年」も力抜いちゃダメよ。大変だとは思うけど。つくづく読者の要求とはものすごく身勝手なものだなあ・・・そんな読み手側のエゴを浦沢の次回作で・・・?)