【BOOK】「熊の場所」 舞城王太郎・著
- 作者: 舞城王太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/12/07
- メディア: 新書
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初めて本屋で「阿修羅」の冒頭を立ち読みして、その鮮烈な文体に衝撃を受け、その後「暗闇の中で子供」「煙か土か食い物」「九十九十九」と読み進めていったのだが、いまだにこの舞城王太郎という作家、自分の中で位置付け出来ないでいる。果たして天才なのかキチガイなのか、判断が付かない。覆面作家で一切顔を出さないらしく、ますます不可解。
でも、今のところ人に薦めるとするならば、この「熊の場所」という短編集がよかろうという結論になっている、いまのところ。
まず、話が短いので読みやすいということ。グチャグチャに混乱する前に終わるので、まだ内容を整理しやすい。だから文体だけを純粋に楽しむという読み方もしやすい。あと、方言が生きていて彼の文体によくあっているということ。特徴がよく出ているので、いろんなパロディを含んでいたとしても、彼の作家性が十分立っている。さらに、小学生から女子高生まで、それぞれのキャラクターを使い分け、様々な視点を獲得しているということ。一人称でモコモコ怨念を書き連ねるのも迫力があっていいが、視点を散らした方が、彼の展開するグロテスクな世界に対して距離を置いて読むことが出来る。要は「ひかなくて」済むからだ。
スピード感とグルーヴ感のある彼独特の文体には毎回やられる。ギャル語もダジャレもカタカナ英語も流行語もギャグも引用も、固有人名も架空の地名もヴァーチャルも三面記事も、何もかも一緒くたにして叩きつけるように書き飛ばしていくその姿勢は痛快である。でも、「舞城最高!」と素直に思えないはなぜなんだろう。
別に暴力や性の描写が少々過激だからといって不快感は覚えない。ただ、あまりにも殺伐とした世界を突きつけられて、感覚が麻痺してしまうというのはあるかもしれない。ので、カタルシスも感じない。
破壊は衝動で書けるけれども、その後に希望を提示しようと思ったら(作者本人はそんなこと望んでいないのかもしれないが)、ある程度の忍耐は必要ではないか。もう少し丁寧に、最後投げ出さずに書ききってくれたら、賞を獲るとか獲らないとかのレベルでなく、どんなに頭の固い中年以上の人達も、認めざるをえなくなるだろう。
この「熊の場所」には「作家」として化けそうな可能性を秘めた断片が収められている。これを踏まえて次の作品に進んだ舞城は、最近コアなファンからは不評らしい。それでよいではないか。猟奇的な殺人とか、記号としてのトリックの羅列などの表面的な要素だけを楽しんでいるファン層のみを相手にしていては、本当に伝えたいことも茶化されてしまいかねない。
「舞城も普通の作家になっちゃったよなあ」という声が聞こえてきたら、「お、いよいよか?」とむしろ自分は期待する。