「ブルー・バレンタイン」


余震の心配もやや落ち着いてきたので、久しぶりに仕事が終わってから劇場へ。初めて新宿バルト9に来て、観たのは「ブルー・バレンタイン」。
座席数に対してスクリーンが大き過ぎるせいか、3列目なのにやたら画面が近い。距離感に慣れずに、アクションものの予告編では目の前がモヤモヤして参った。これで動きの激しい映画だったらとても観ていられなかっただろう。たまたま「ブルー・バレンタイン」で良かった。(あんなに人物の顔のどアップばかりだとは知らなかったが…)今度からもっと後ろの座席を予約することにしよう。

さてこの作品、ある夫婦の関係が崩壊する1日と、その二人の出会いから結婚に至る幸福な日々を交互に見せるというのは広く知られているところなので、「ネタバレも何もないよな〜」と思って、事前にいろいろ情報を入れてしまってから観たのだったが、結果的にそれはちょっと失敗だった。
まずは「キラ☆キラ」金曜日の町山智浩氏の紹介でこの映画のことを知り、町山氏号泣のおすすめ作品ということで俄然観たくなっていた。公開後もかなり評判が高いと聞き、「ライムスター宇多丸のシネマハスラー」は「放課後ポッドキャスト」の討論会まで聴いて、これはいろいろ考えさせる作品で必見!ということだったので映画館で観ることにしたのだった。

「大人に成長しきれない中年男」というダメ夫・ディーンには共通点も多いので、完全に男側の視点で観て、シンパシーを覚えまくりかと期待していた。しかし、前もって予備知識入れ過ぎてしまったかな…。思ったほど感情移入できず。むしろ男女二人を比較しながら一歩引いた視点で冷静に観てしまった。
そのせいか、関係の冷えきった夫婦の状況に対して、「あの頃はこんなに幸せだったろ!」と嫌がらせのように過去の映像を挿んでくるので、その落差でガーン!ともっと衝撃を受けるもんだと覚悟して観たのだが、あまり感情を揺さぶられず、物足りなさすら感じた。
人それぞれいろんな見方はあると思うのだが、自分はこの男女の出会いから結婚に至るまでを、「幸福だった過去の日々」とは捉えられなかった。常に不穏な空気が漂っていたし、最初からいろいろ個人的な問題を抱えたまま出会ってしまった二人だったし、積極的な理由で結婚に至ったのでもなかったし(それはそれで、これから二人で愛を育んでいこうとするところは泣けるんだが…)、つまり、のちに関係修復不可能なまでに傷つけ合ってしまうことを観客は知っているからこそ、「あの時あの瞬間にもこの危険性は孕んでいたんだよ」という不吉な暗示の方が気になって仕方がなかった(それは自分がややペシミスティックだからなのか?)。
この二人の姿を観て、自分に置き換えて考える人は多いのだろうが、自分は男女の出会いと別れのもろさはかなさという普遍的なテーマを描いた作品で、たまたまこの夫婦はその一例…と、ちょっと突き放した見方をしてしまい、どっぷり浸れなかったのが残念でもあった。
ただ、この作品、観る側のモードによっていろんな心の揺さぶられ方をするんだろうなという気もする。自己嫌悪に陥ったり、恋愛で悩んだりした時に観ると、また全然違う感想を抱くようになるのだろう。DVDとかでもう一度観たくなった時、その時の自分の精神状態によっては…うーん、怖いかも。