【CD】「 FAB FOX / フジファブリック」

志村正彦の作る曲はヘンである。
ちょっとありえない転調をするとか、リズムは16ビートなのに歌メロは音符の数が少ないとか、高低の上げ下げが激しい部分とひどく一本調子な部分が一曲の中に同居するとか色々あるが、その曲調は普通のポップソングと比べると明らかに違和感がある。少年期の原風景や異世界への妄想とかが混在する摩訶不思議な歌詞、それを新沼謙治のような節回しで歌うその独自性は、一体何に影響を受けて培われたものなのかと首を傾げたくなる程際立っている。なんだこりゃ?と思いつつ何度も聴いているうちに、もうそのメロディと歌詞がなぜか頭にこびり付いて離れなくなってしまう。そんな風変わりな曲群をロックバンドというフォーマットの上でポップに響かせてしまうのだから、やはり凄い才能だと思わざるを得ない。
この2ndはそのヘンな度合いがさらに増してしまった問題作?、いや、バンドとして格段にスケールアップした大躍進作である。
デビューアルバムを聴いた限りでは、まだ民生フォロワー的な要素も顕れていたし、グッドメロディなシングル曲には切なさがギュッと込められていて、文化系好みしそうな感じだったのが、本作の1曲目『モノノケハカランダ』の冒頭、獣の鳴き声のようなギターがけたたましく鳴った時から、アグレッシブな演奏にぐいぐい引っ張り込まれて、「少し線の細い」という印象は一気に払拭された。
ファンクと祭囃子が衝突したかのような『銀河』、アメリカ開拓時代の西部劇の映像と昭和初期の日本の風景が脳裏で交錯する『地平線を越えて』、陽気な性的倒錯者賛歌のような『マリアとアマゾネス』、70年代フォークソングを入場曲に高校球児が俯きながら行進してくるイメージを思い起こす『雨のマーチ』、田舎町のデパート屋上にある古いレーシングゲームの音楽に使われていそうな『虹』、そして「せつな懐かし」志村メロディの原点になった初期名作『茜色の夕日』。繰り出されるバラエティに富んだナンバーは多彩なバンドアレンジによってその世界観の更なる広がりを見せている。
実際、ロックの「解体と再構築」という点において、かなり高いレベルで実現出来ていると思うのだが、意図的に作り込まれたという感じはしない。朴訥で飄々として見える志村の雰囲気のせいか、確信犯というより、どうにも「天然」なような気がしてならないのだ。勿論、ありきたりにならないように様々な工夫に苦心しているとは思うのだが、違和感を残しつつも奇をてらったように聞こえないのは、メロディを汲み上げるその源泉が山奥の秘湯であったかのように、元々特異性を持ち、かつ稀少であったおかげというのが大きいように思われる。そしてそれは当分尽きることはなさそうだ。
いわゆる「二枚目のジンクス」に苦労するバンドが多い中、逆に2ndで一気に飛躍したバンドはその後息が長いという成功例もあり、早くも10年後とかを楽しみだと思わせる、フジファブリックもそういうバンドになりつつある。

FAB FOX

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