「モーターサイクル・ダイアリーズ」

先日「Into the wild」を観て、旅に出る映画がもっと観たくなった。
若き日のチェ・ゲバラの南米旅行を題材にしたロードムービーの「モーターサイクル・ダイアリーズ」。監督はブラジル人のヴァウテル・サレス(ウォルター・サレス)ということもあって、もう20年近く前のことだが、自分自身の南米旅行体験の記憶を呼び起こしながら、入り込んで観れるのではないかと思った。
おんぼろバイクに跨がり、ブエノスアイレスを出発してベネズエラへと向かう南米縦断ルートでは、ブラジル中心の旅行で自分が目にしてきたのとは異なる、山岳地帯の雄大な景色を映し出していたが、やはり他のどことも違う南米独特の雰囲気も漂っていて、軽い既視感も覚えた。美しい自然の中を好奇心と希望を抱いた若者が乗ったバイクが疾走する、その様を追いかけるだけで、十分映画になるなあ。
後に革命家として名を成すとはいえ、この時は無名のエルネストは、友人のアルベルトが陽気でお調子者なのとは対照的な性格で、正直過ぎて時に頑固な理想主義者。裕福な家庭に生まれ医大に通っていたが、休学して見聞を広めるための旅へ。旅の途中で目の当たりにしたチリ銅山の過酷な労働環境や、搾取され苦しむペルーのインディオの人々の姿などに心を動かされる。最初はお坊ちゃん顔だったが、だんだん精悍な顔つきになっていき、内に秘めた決意のようなものがその眼に表れるようになっていく様子を観て、確かにこの時にのちの革命への意志が芽生えているのがわかる。大人へと成長していく若者の青春の1ページとして観ることもできるし、革命家の伝記映画のプレストーリーとしても優れた良作だと思う。
ラストでこの旅に同行したゲバラの相棒、アルベルト・グラナード氏本人が登場するが、遠くを見つめるその横顔は老いてなお凛としている。それを観ているとグッと胸に迫るものがあった。

この作品での評価を受けて、サレス監督はジャック・ケルアックの「On the road」の映画化を依頼されているとか。同じような雰囲気を持つストーリーなだけに、かなり期待が持てる。

エンドロールの時に流れる曲がまた良くて、非常に気に入った。
調べてみると、。ウルグアイ人歌手のホルヘ・ドレクスレルという人の「河を渡って木立の中へ(Al Otro Lado del Río)」という曲だとわかった。しかもこの映画の主題歌で、スペイン語ではじめてアカデミー歌曲賞を受賞したほどの有名な曲だそう。(「ウルグアイのカエターノ」と呼ばれることもあるそうだ。…なるほど!)