「第9地区」

第9地区 [DVD]

第9地区 [DVD]

昨年公開された中でも特に評判の良かった作品だったらしい。映画秘宝のベスト10でも堂々の第2位。
若き新人監督ニール・ブロムカンプが、自身の出身地・南アフリカを舞台に、難民として地球で暮らすことになったエイリアンと人類との争いを描くという斬新な作品。出演者がほとんど無名にもかかわらず、異例の大ヒットを記録した。
そもそも宇宙船が故障してヨハネスブルグ上空に停滞したまま、衰弱状態で発見された異星人が保護され、地球上で暮らすことになって20年経つ…というその発想からして面白いのだが、隔離された異星人居住区のスラム化が進んだため、都会からさらに離れた所に強制退去させる、その交渉にエイリアン課の課長的な主人公があたるというのだから、もうこの設定の段階で勝ち。
エビのようなグロテスクな風貌の異星人だが、知能は高く、言語も理解する。しかしなぜかキャットフードに目がなくて、ドラッグ同様にギャング達が売買する「ネコ缶」に手を出し、搾取される。人間から見れば異星人は厄介者でしかなく、差別の対象になる。街の公共施設の場に立てられた「人間専用」「宇宙人お断り」のような看板、「異星人を追い出せ!」というデモなど、その設定で起こりうることが細かいとこまで画面に映し出される。
この話の舞台が南アフリカというところが重要で、アパルトヘイトを人間対エイリアンに置き換えて風刺しているわけだ。
荒唐無稽な話なんだが、これが主人公であるエイリアン課課長・ヴィカスを追ったドキュメンタリーのような作りになっているため、きちんと現実感が感じられるようになっている。ある出来事が起こった後に、それについて証言する人々のインタビューを通して、この複雑な状況設定を説明させる演出も見事。時折挿む監視カメラの映像もリアリティの増強に効果的。CGを多用した非現実的な映像との組み合わせのバランスもうまくとれていて、あまり違和感を感じなかった。
主人公ヴィカスのキャラクターも、いい人のようで実は利己的な面がうまく出ており、安易に異星人に感情移入しないところが観客との目線も合っている。そもそも異星人の容姿が全くかわいくないので、どんなに知能が高くて人間と同じような感情を持ち、家族まで形成しているとはいえ、やっぱり排除の対象として見てしまうのだ。
そうかと思うと、戦闘シーンではむしろ人間側が惨く殺される様を徹底描写していて、観客に複雑な感情を湧きおこさせ、生命の優劣とかってどこにあるのかわからなくさせるのだから、これはかなりくせ者の監督だ。
クライマックスに向かってアクションのスピードも増し、バトルは激しくなり、かなりアガるので、観終わった後の満足度も高い。若干の含みを残した終わり方なので、続編への期待も出来るとは思うが、完成度は十分。
文句無しに面白い映画だったといえるだろう。