「気球クラブ、その後」

気球クラブ、その後 [DVD]

気球クラブ、その後 [DVD]

園子温監督の2006年の作品。
愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」などのエクストリームな表現を突き詰めた衝撃的な作品のイメージの強い園監督だが、一方では「ちゃんと伝える」のような観る者の気持ちを和ませる小品も撮っている。この「気球クラブ、その後」は後者にあたる作品だろう。
深水元基・主演のほか、川村ゆきえいしだ壱成長谷川朝晴永作博美など多彩なキャスト。
「気球クラブ」というサークルのリーダー・村上の事故死の知らせを、5年前にサークルに出入りしていたメンバーで連絡し合い、それきっかけに久しぶりに再会する、若者達の青春の終わりを描いたドラマ。
気球を打ち上げ、観測するというサークルの活動はこの映画ではあまり重要ではない。地上から離れて空に浮かんでいる気球は、地に足付けて社会生活していない若者のモラトリアムのあくまでも象徴として用いられている。
たまり場の古い一軒家や、気球のバルーンの中で酒盛りばかりしていた当時の回想シーンを頻繁に出すことで、たわいもないことで大騒ぎできていた若い頃特有の感覚リアルに映し出す。メンバーの気球に対する情熱にも温度差があり、若さゆえに気にならなかったそのずれは5年経ち疎遠になった後では決定的な隔絶となって、もうあの頃には戻れないという最後通牒を各々に突き付けることになる。
クラブでの活動にも熱心で、宴会でもひときわ声の大きな盛り上げ役を演じる、当時お笑いコンビ・ホームチームだった与座 よしあきがいい味出している。今や園監督作品ではおなじみのペ ジョンミョンも、皮肉屋のキャラで登場して強い印象を残す。
出演者が多過ぎて、青春群像劇としてはまとまりがつかないのではないかと思いながら観ていると、やがて物語は永作博美演じる、気球クラブリーダー村上の元彼女の美津子の心情に焦点が絞られて行く。
ここで初めて、作中で何度か歌われる、荒井由美ユーミン)の「翳りゆく部屋」という曲がテーマの作品であることに気付き、むしろこの曲をモチーフに脚本を書き上げたのであろうと思われるのだった。
青春のイメージをよく表現した作品だとは思うが、良くも悪くもただそれだけ。それ以上追求することは、あえてしていないのだと思う。
ぼんやりと心の隅で今も浮かんでいる気球のように、みなそれぞれが焦燥に駆られた短い時間の記憶と、その喪失感を抱えながら生きているからだ。そこに共感するだけで十分なのだと思う。


ちなみにこの「翳りゆく部屋」が歌われるシーンで、「あれ?この曲聴いたことあるな…」と自分の頭の中で鳴っていたのはエレカシがカバーしたヴァージョンでした。
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