「悪い男」

悪い男 [DVD]

悪い男 [DVD]

韓国映画にかなり好きな作品が多く、積極的にいろいろ観ておこうとしているところだが、世界的にも高く評価されているキム・ギドク監督作品をまだ観たことがなかった。(「魚と寝る女」はかなり前に観たことがあるはずだが、あまり記憶に残っていない。その時はキム・ギドク監督の名前も知らなかったし、映画自体、能動的に観ていなかったので。)
まもなく公開される「アリラン」が、隠遁生活をおくるキム・ギドク監督が自分にカメラを向けて、自身について語るセルフ・ドキュメンタリーという特殊な作品らしいので、それを観る前に代表作を何本か観ておきたいと思っていた。(3月10日からキネカ大森で「悲夢」と「春夏秋冬、そして春」の二本立てというキム・ギドク監督の特集上映が予定されているのも気になっているので。)
まずは最高傑作との評判も高い「悪い男」をDVDで。
主演はキム・ギドク監督作品の常連らしいチョ・ジェヒョン。まずは彼のその佇まいがすごく魅力的。ヤクザとして暴力に満ちた世界で生きる男・ハンギを演じるジェヒョンは、危険な匂いを全身から放ちつつも、ギリギリのところで下品過ぎない。多くを言葉で語らずとも(実際に彼は全くといっていいほど喋らない。その理由はラスト近くで明らかになる。)、その表情や仕草で知性や繊細さも感じさせる。
その男が清楚な女子大生になぜか惹かれてしまい、彼女を手に入れるために、かなり屈折した行動をとる。結果的に彼女を罠に嵌め、不幸のどん底に落としていくことになる。
彼の行動を世間の常識に照らし合わせると、正しいところが全くない。まさに極悪非道の「悪い男」。だがなぜか観ていて、彼のことを憎みきれないのだ。
説明セリフの類いは一切なく、意味ありげなシーンが散りばめられているが、そこに観る側の想像が入り込む余地がある。シーンはいちいち溜め息が出るほど美しく、カットも計算され尽くしていて、高いアート性を感じた。
誰が観てもわかるような作りにはあえてしていないので、観ていて時々不安になるが、そこがこの作品に引き込まれる理由でもある。
作品の「ここで終わったら『泣ける純愛映画』として腑に落ちる」ような箇所があったが(「ヤクザな男と若い女の哀しい純愛」という点では、ヤン・イクチュン監督の「息もできない」に通ずるところもある。)、そこからさらに一歩踏み込んだ展開をみせる。そして、解決しないかと思われていた伏線が回収されて「あ、ここで終わるときれいかも…。」と思ったのにもかかわらず、そこでも終わらず、さらにもう一歩踏み込んで行く。
真のラストでは、もう善悪をはるかに越えた領域まで行っていて、哀し過ぎるがハッピーエンドなのかもしれず、絶望的だが希望が残されているのかもしれないとまで思わせる。実に不思議な後味を残した作品だった。
これは…この監督は、1本観ただけでは、わからん。かなり手強いとみた。

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